八章三十話 大森林の遺跡
用語説明w
マーリン
裏社会でたまに名を耳にする、犯罪行為のコンサルタント。錬金術師トラダムスを始め、龍神皇国やカルノデアなどの大国にも手駒がおり、デスペアとも関係を持っている。目深にフードをかぶった女性…に見えるが、正体は不明。エマの仇
フォウル
肩乗りサイズの雷竜、ラーズの使役対象。巨大化してサンダーブレスを一回だけ吐ける。不可逆の竜呪によって小竜にされていたが、本来は成竜であり、異世界で呪いが解かれたことで巨大化が可能になった
鯉のぼり君
ラーズの絆の腕輪が生み出したアバター。式神のリィ、アンデッドの竜牙兵、動き出した植物サプミドの影響を受け、それぞれの特徴を外部稼働ユニットを依り代として顕現させているドラゴンらしきものの集合体。小型杖の魔石、モ魔の巻物、銃弾、アンデッドの腕、霊体の尻尾、植物由来の毒を使う。
喰らう!
叩き潰す!
呪印から噴き出す闘争心が思考を侵食してくる
黙れ…!
怒鳴りつけるが、竜熱の声が抵抗
侵食…竜蝕だ
激情に意識が持っていかれそうになる
ぐぅぅっ…!
これがトランスと紋章
同時使用の弊害だ…!
「聞きなさい!」
突然、響き渡る声
フィーナの思念が、絆の腕輪を通して響いた
驚いたのか、闘争心が少しだけ治まる
今だ
集中
やるぞ
フォウルの口から閃光
ズオォォ… ズッガァァァァァァァァァァッッ!!
サンダーブレスが炸裂
雷の光線がペリノア・ドラゴンに突き刺さる
フォウルがたくましくなったもんだ
でかい身体を維持できる
それだけで、モンスター共を威圧できる
サンダーブレスの出力も上がっている
俺の頼れる相棒だ
「…うおぉぉぉっ!」
サンダーブレスと並走
ペリノア・ドラゴンに到着までの一秒未満
サンダーブレスが、俺の重属剣に干渉していることに気が付いた
俺は、ブルミナスをサンダーブレスの光線に突っ込む
雷が、重属剣に乗る
爆ぜるエネルギーである重属剣に、そのまま雷が集まってくる!
「グガァァァァァーーーーーッ!!」
雷で焼かれ、たまらずに悶えるペリノア・ドラゴン
そこに、サンダーブレスが乗った重属剣を突き出す
スドッッ……!!
「………っ!!!」
ブルミナスごと、俺はペリノア・ドラゴンの腹を貫通
ドッパァァァァン!
衝撃が、ペリノア・ドラゴンの背後に広がった
「グオォォーーーーーッ!!」
ペリノア・ドラゴンが、血をまき散らしながら大地を蹴る
腹から、ボドボドと血液が噴き出す
向こうが見えるほどの大穴が開いている
それでも、牙を剥きだして跳んだ
その先には、ミィとフィーナ
装甲車を守るために、ピンクとソロンが離れていた
土壇場で、パーティの弱い場所を見極められたのだ
「…っ!?」
重属剣の弊害、全エネルギーの枯渇
身体が動かない
フォウルもサンダーブレスを使って身体が縮んでいく
ペリノア・ドラゴンの決死の一撃が、後衛のミィとフィーナを襲う
重属剣が貫通し、威力が背後に逃げて仕留められなかったんだ…!
「あ…」
ミィとフィーナが、反応できていない
ドラゴンの巨体とは思えないほどの、ペリノア・ドラゴンんの弾丸のような突進だ
ドゴォッッ!!
「ギャッッ…!!」
大ダメージ…!
と、冷や汗が噴き出した
だが、悲鳴はなんとペリノア・ドラゴン
ぶん殴られて、突進方向が逸れて木々をなぎ倒して吹き飛んでいった
「あっ…」
そして、勢いのまま羽ばたき始めると、空へと飛んで逃げて行く
「ま、待ちなさい!」
ミィがボウガンを射つ
だが、ドラゴンの尻尾に弾かれてしまう
「お、お前…」
ミィとフィーナの前に立っていたのは、大猿
ハヌマーンのネームド、斉天大聖だった
ペリノア・ドラゴンをぶん殴ったのは、こいつの鉄拳だったのか…
「グホッホッホ…」
斉天大聖は、俺達を一瞥すると森へと帰っていく
え、何で?
どうして猿が助けに入った?
いや、それどころじゃない
「なっ!? これは…!」
振り返ると、マーリンを骨の腕が抑え付けている
これは、竜牙兵の腕
肉食恐竜型の外部稼働ユニット、鯉のぼり君の背中から翼のように生える二対の黒い骨の腕だ
「ピンク、ソロン…、マーリンを確保しろ…!」
「うん!」
言われるまでもなく、二人が走る
フィーナも、鯉のぼり君からの思念報告を受けて動いていた
俺がデータと鯉のぼり君に命令していたこと
それは、マーリンを逃がさないこと
ピンクとソロンを下げさせたのも、これが理由だ
鯉のぼり君の真価
それは、取るに足らない存在でありながら、超高性能アバターであること
外部稼働ユニットという壊れやすいサポートメカであると同時に、アンデッドや式神の依り代でもある
隙を突ける存在なのだ
ピンクとソロンがマーリンから杖を取り上げて抑えつける
呆気ないほど簡単に、マーリンは捕まった
「…鯉のぼり君、いいじゃない」
ミィが言う
「ちなみに、ペリノアには鯉のぼり君が作った龍喰らいの実から取った龍喰らいの毒を使った。ドラゴンキラーの毒が効いていたはずだぜ」
ジェットストリーム作戦の前段階の準備
それは、竜闘士であるため、ドラゴンキラーが有効なペリノアの弱体化だ
斉天大聖にはトリカブトの毒も使った
鯉のぼり君の汎用性は高い
「…ようやく捕まえられたな」
「びっくりしましたぁ。何ですか、それは」
「お前を逃がさないためのトラップだ」
「見逃してくれませんか?」
「ダメだ、死ね」
「ラーズ、待ってよ!」
ミィが慌てて止めに入る
「こいつは危険だ、ここで仕留める」
「あんた、情報提供しなよ。その価値によっては、説得してあげるから」
ミィが俺を通せんぼする
「無理でしょうねぇ。残念ですよ、いろいろと」
「え?」
「バビロン教授の優秀さ…、こんなに早く遺跡の場所を特定できるとは思わず、後手に回りました。ペリノアに任せず、私自身で動いておくべきでした」
「真実の眼の遺跡は渡さない。お前が言うほど、危険な遺跡ならな」
「…仕方ありません。二つの鍵が入ったとて…、手に入れることは、どうせ出来ません」
「二つ?」
「次は、ナティビタスを狙うとしましょう。真実にたどり着くのは私です」
「な、なんだと?」
「フィーナ姫。ドース様が今、どこにいるか知っていますか?」
「えっ!?」
唐突な言葉に、俺達は動揺する
フィーナの実父、ドース
クレハナの内戦の張本人の一人であり、大崩壊に関与した人物だ
現在は逃走中で、その足取りは掴めない
逃走当時は、教団から援助を受けていたと推測されるが、その後の足取りは不明
教団自体がナイツオブラウンドに吸収され、ドースもどうなったのか…
「クスクス…。今回は私の負けです。完敗です。あなた達を驚かせることくらいしかできませんでしたぁ。さぁ、やって下さい」
マーリンが諦めたのか、手足を投げ出して力を抜く
「…」
俺はマーリンのフードを取る
素顔をしっかりと拝んでやる
「あっ…」
「えっ!?」
押さえつけているピンクとソロンが驚く
フードの下には女の顔
だが、頭に奇怪な装置を被っている
「この装置は…」
「人格を転送する、受信機です」
マーリンが答える
「人格転送?」
「被験者を薬物や催眠を使って、人格を徹底的に希薄にします。その状態で、私の人格をインストールするんです」
被験者の人格を徹底的に消す
その後、マーリンの考えやしゃべり方などを映像と音声で繰り返し繰り返し見せて聞かせる
いつしか、その人物は自分をマーリンと思い込むようになる
そうなった被験者に、補助器具をつける
これは電極を脳に直接繋げたもので、魔力と電力で情報を脳に直接送信
マーリンと思い込んでる人間は、マーリンの意図を適切に読み取り、まるでアバターのように扱うことができるようになる
「…人間を道具とするってことか」
「はい。皆さんがあまりに早く遺跡を特定してしまったため、私自身が行く時間が無かったんですよ」
「影武者か…」
「では、名残惜しいですが接続を切ります。ここの遺跡は任せます。もう襲うことはしませんので、丁寧に調査をしてくださいね」
「待ってろよ。お前のことは絶対に見つけ出して殺す」
「私もですよー。真実の眼が持つ真実は、私が手に入れますから」
マーリンの影武者は、そう言って微笑んだ後、意識を失った
・・・・・・
「セフィ姉が来るって」
「えっ!?」
ミィが電話が切った
「ブリトン当局に説明して、合同での発掘調査にするように話を持っていくって」
「ブリトンに…」
ここは大森林とはいえ、人間の区割りで言えばブリトン国内だ
当然、ブリトンに発掘調査の権利がある
それにブリトンは、マーリンが情報提供を行い、バビロンさんが持っていたカラクリ箱を狙っていた
「その交渉は、確かにセフィ姉がやった方がいいよね」
「俺達じゃ逮捕されかねないからな」
フィーナと俺は頷きあう
ブリトンの首都ロディーヌで、ブリトン当局とドンパチやっちまった
「だから、それまでに見つけないと」
ミィが言う
「…そうだな」
ハヌマーンが巣に使っていた、洞窟のような遺跡を、ようやく調査し始めた
壁画の遺跡と同じような構造で、奥には小さな部屋があったのだが、その奥へと続く通路が崩落していた
その先にも遺跡は続いているようであり、今は崩れた土をどんどん運び出しているところだ
いったい、何が見つかるのだろうか
ワクワクする
「バビロンさん、どう?」
俺達は遺跡に入って行く
「フィーナ姫様のゴーレムとロボットのおかげで、土をどんどん運べています! もう少しだと…」
急ピッチで発掘作業
ブリトン軍が来る前に、発掘作業を終わらせる
「あっ! 皆さーん、来てください!」
バビロンさんが叫んだ
遺跡の更に奥に進む通路が、ようやく露出していた
ナティビタス 二章二十六話 クシュナ三回目6
ドース 五章十七話 セフィ姉の決意
突然始まった大森林編、ようやく一段落ですw




