第6話 馬車の集団(1)
会話の方言は造語に近いです。元になった方言はあります。
日の沈むころ、馬車の集団は旅慣れた様子で馬車を入り口側へ並べ、馬はまとめて馬車の横に繋ぎなおして行く。
馬車の側面に桶がいくつか括り付けていて。それに川から汲んできた水や荷馬車から降ろした飼葉を入れて行く。
馬と言ったが当然前の世界の馬と同じではない。
似ているけどロバっぽいけど背が高いし。
ラクダみたいなコブがあるけど首の根本にある。
(じゃあ何かと問えば馬としか答えようが無いわ by妹)
取り留めのないことを考えていたけど、私は神域の中から空間把握で状況を見ているので、凡その輪郭しか分からないし、色も音も空間把握では分からない。
彼らはてきぱきと慣れた様子で動き回る。
やがて竈を幾つか作り終えると薪に火を点けていく。
その時点で私のキャンプ地が明りに照らされて見えたのだろう。
いくらかの騒ぎの後、一人の男がゆっくり近づいてきた。
私も神域の部屋から出ると、聖域の結界があるからと槍は持たずにテントの中から空間把握で見守る。
彼は、溝の側まで来ると、声を掛けてきた。
「たのもう!」(時代劇なの? by妹)
慌ててテントから出ると。
彼の方を向き、「どなたでしょうか?」と声を掛けた。
私が出ると、彼は驚いた表情を一瞬浮かべたが、すぐに真顔になり、答えた。
「私は、セルボネ市の傭兵ギルドに所属するクラン風狼を率いているガーウィンと言う者だ。」
「今日野宿するためここに来た。」
「先に泊まっている者に挨拶に来た。」
と言上を言うと、こちらを見た。
私は返事をするため、頭の中を整理してみた。
まず、名前と種族、そして職業は必要かな。
名前はカスミだけで良いような気がする。
種族は小さい体でも成人だと思わせるため。
後は職業で戦える力がある事とここに居る理由を言えばOK!かな?
「私は、カスミと申します、妖精族の魔術師です」
「ここには野営するために来ました」
「テントの回りには結界を張っていますので、お構いなく」
「一晩とは言え御一緒するのですから、仲良くおねがいします」
結界の件は一人でも大丈夫だよと知らせるため。
仲良くは仲良くしてね。
で、いちゃもんとか言ってこないでねと言う意味ね。
「うけたまわった。」
「魔術師殿、我らもそう願いたい。」
「明日昼一(午前6時)でこちらは出発するので挨拶はこれにて、失礼する。」
そう言うと仲間の元へ帰っていった。
ふう~!、良かった。
一々時代劇な物言いでビビったけど、これでうまく行ってくれれば良いけど。
私はテントの中に入ると、空間把握でしばらく間、彼らの行動を注視することにした。
ガーウィンさんが少しお腹の出た40歳ぐらいの人へ近づくと、何か報告しているようだ。
恐らくこの馬車隊を率いているどこかの商会か商業ギルドの商人さんだろう。
商人さんは、ガーウィンさんと何やら熱心に話している。
時々こちらを見るのは私について話しているんだろうな。
ガーウィンさんが何やら手を前に出して商人さんを押しとどめようとしている。
商人さんはガーウィンさんの制止で考え直したのか、こちらに来るのを止めた。
この世界に今日来たばかりなので、厄介ごとは勘弁してほしい。
商人さんがガーウィンさんから離れて、焚火の方へ去っていったのを、ドキドキしながら見ていた。
ガーウィンさんの先ほどの対応を思い出し、少し思うところもあったので、槍を取り、左手に持つとテントの外へ出る。
その時ふと師を思い出した。
私の師は日本とシルフィード族の2つの記憶共に同じ名前の人です。
恐らくこのことも記憶をいじられているのでしょう。
日本人としての師の名は三枝明日香。
記憶では、父の知り合いの関係で習っていた古武術の先生で、礼儀作法や槍、長刀、棒術や体術などを教えてもらった。
シルフィード族の記憶ではミエッダ・アース・カゥン。
アース神族の方で長老をされていた。
私はエルヴァン神族の中から選ばれて、戦乙女の一員として修行していた。
神の権能や魔術、医や薬のことを教わった。
彼女の教え方は自由奔放で、型にはめて指導することなどほとんどありませんでした。
私がどこまで理解しているのか、知らない知識でもこれまでの学習で得た知識を応用して対処できるのか。
事前にも、事後にも自習を強いるきつい授業でしたが、とても面白かった。
日本人とシルフィード族で共通する礼儀作法の指導は、色々な国や地域の礼儀・儀式・歴史的変遷となぜ変わっていったのか、必要とする背景心理等々だった。
思い出したのは、もし縁も所縁も無い、知らない人と人がであった場合どうなるか。
初めて会う未知の相手には、戦ってみるか避けるかの2択となる。戦えばどちらが強いか分かるだろうが、自分が弱ければ死ぬことになる。判断は見た目で決まることが多く、大半は決められずに避けるを選択することになる。
同じ文化圏なら、面倒な前提を無しにして、言葉が通じるから礼儀の出番となり。礼儀には、手順として作法が必要になる。
先ほどのガーウィンさんの場合は、同じ文化圏と言う前提で、声を掛ける前に立ち止まり武器に手をやらずに声掛けをしてきました。
真に初めて会う未知の相手に対しての正しい対処方法だと思います。
それで私は、状況を説明し、敵対しないことを明確にし、お互いに干渉し合わないことを確認したのです。
先ほど少し思うところがあると思ったのは、聖域の結界のこと。
ガーウィンさんがそそくさと帰ってしまったので、確認出来ませんでした。
この聖域結界ってどの様に作用するのかなと思ったの。
キャンプ地を出て、森で甲虫を1匹捕まえてきた。
このカナブンに似た甲虫を指でつまんで聖域結界にゆっくり近づけていく。
すると甲虫は近づくに連れて摘まんだ指に反発があり。
虫も足を激しく動かして指の拘束から逃げようとした。
さらに近づけると体全体を動かし、とうとう指の間から逃げ出すと、羽を激しく動かして、反対方向の森へと飛んで行ってしまった。
うん、まぁ分かっていたけど、聖域結界は、近づけ無いのではなく、近づかないが正解と言う事。
異世界人との接触と会話ですが、カスミはタンタンと会話しています。251歳の貫禄でしょう。




