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3章EX 衝動。

「ふぃ~~~」



 夏休み。ソファーに寝っ転がっている俺は身体を伸ばし産声を絞り出す。凝った身体をほぐしながら身体を起こす。

 ふぅ……やはり夏休みはいいものだ。好きなだけゴロゴロしていられる。この特別な優越感は土日では味わうことができない。何故なら月曜日の重圧があるからだ。土曜日なんてあっという間に終わり、日曜日は月曜に怯え過ごす。人は月曜日の恐怖を払拭することはできない。

 なので、月曜日から牙の抜けるこの夏休みは心身共に休まることのできる非情に有意義な期間だ。たったの一ヶ月ちょいだが心の底まで堕落したいものだ。まぁ、俺は夏休みもマネージャーをこなさねばアカンし、更には高咲の馬鹿が考えたイベントのせいで、結構な頻度で学園に赴かなきゃいけない訳なんだが、それでも早朝に起きる必要がないってだけで普段よりは遥かに気が楽でいい。


 そんな訳で、始まったばかりの夏休みを絶賛ダラダラしていた訳だが、もう夕方。外はもう暗くなり始めている。いくら俺でも常に寝っ転がっていたらガスは溜まっていく。なので少しは身体を動かしてガス抜きをしなくてはならない。そのタスクをこなすついでに、もう一つ今日定めていたタスクもこなすとしよう。それは、今俺の中で渦巻いている一つの衝動。


 ――焼きそばが食いたい。


 そう焼きそばだ。それも外で食べるものではなく、家で作ったやつだ。家で作った焼きそばは外食のものとは天と地程の差がある。双方到底再現不能。

 何故そんな衝動が湧いたのかというと、昨日の夜中、ネットサーフィン中に見た動画で欲が刺激されたからだ。夜中に食べ物の動画を見るは非情に危険な行為なので普段は控えているのだが、これも夏休みならではの誘惑というやつだ。

 さて、そうと決まればさっそく近所のスーパーに買出しに行くとしよう。




          ☆




 買出しを終えた俺はさっそくキッチンで購入したものを広げる。

 まずは主役の丸ちゃんソース焼きそば。やっぱこれよ。具材はキャベツに玉ねぎにエリンギと肉はひき肉にした。シャウエッセンにするか悩んだが、今日の気分はひき肉だった。それと追いソースのウスターソース。具沢山だから付属のものだけだと足りなくなるからだ。買わずとも家にあった筈だが、期限が切れているだろうと踏んで買ったが……うむ、やはり去年で期限切れ。判断は間違ってなかった。折角だし紅生姜も買いたかったが、食べきれなそうだし、そもそもそこまで好きでもないので止めにした。後は前に買いそびれたお菓子とアイスなのでこれはしまっておいて……。よし、じゃあかったるくなる前にさっさと調理に入りますか。

 まずキャベツ半玉をザク切り、玉ねぎ半分を細切り、エリンギは縦切りにして、そうしたらフライパンに油を引いて……って、待てよ。油もこれ結構古いやつじゃなかったか……うわっ、2年前で切れてるじゃねぇか。俺の家族誰も料理しないからな。俺がたまにしていたくらいか。……まぁ、ひき肉から出た油でどうにかなるだろ。

 気を取り直し、ひき肉と玉ねぎを火が通るまで炒め、後は麺と残りの具材全てをぶち込んで炒めるだけ。あらまぁ簡単。野菜が多すぎて最初は混ぜるのが大変だが、次第に縮んでゆく。レシピだと水を入れて麺をほぐすのだが俺はそうしない。少しむせるくらいのが好きだからだ。

 ……ふむ。やはり料理をするのは楽しいな。日常的にしたいものだが、やはり取り掛かるまでと後片付けが大きな課題すぎる。これを継続してするなんて俺にはまず無理だ。

 さて、そろそろかね。キャベツがしなしなになってきたら、付属のソースとウスターソース(量は勘)を入れたら完成だ。

 長きの間眠っていた平皿に盛り、調理後のフライパンに水を入れてからテーブルへ。記念に写真を撮ろうかと思ったが食欲が勝る。では、両手を重ねて――


「この世の全ての食材に感謝を込めて……いただきます」


 豪快に頬張る。……細いながらコシのある麺……シャキシャキの野菜達……ジューシーなひき肉の香ばしい風味……それらがソースと混じり合い、


「うめぇ……。そうそうこの味だ」


 久々の味。前に食べたのはいつだったか。まぁそんなことどうでもいい。美味い。箸が止まらない。こんなの無限に食えるだろ。この頬張ってむせる感じが、如何にも我が家の焼きそばって感じがしていい。ひき肉を選んだのも正解だった。全体に満遍なく広がるし、それでいてとにかく主張が強い。しかも安いと来たもんだ。これはもう最強焼きそば肉グランプリ最高賞は貰ったも同然だな。


 ――こうして俺は、買い忘れた青のりに想いを馳せながらも焼きそばを貪り食った。




          ☆




「はァ~、麦茶うんめぇ~~~」


 むせる焼きそば詰め込んだ後の麦茶がぶ飲み最高すぎるだろ……。今の食事でこれが一番美味かったといっても過言ではないかもしれない……。

 そういえば麦茶もだな。……懐かしい。あの焼きそば、我が物かのように語っていたが、あれはおばあちゃんの味なんだよな。小学生低学年くらいの頃に帰省した時、昼飯に作ってもらって、それが美味しくてレシピを聞いたんだよな。如何せん手料理というものを食べる機会が少ないから、その味に衝撃を受けてしまった。それから家に帰ってからもたまに作るようになったんだよな。今思うとエリンギは冷蔵庫に残ってたから入れたんだろうな……。

 麦茶は夏というのもありがぶ飲みして『よく飲むねぇ~』と言われたのが印象に残っている。今でも麦茶を見ると思い出したりする。


 この焼きそばの衝動は、そんな懐かしい味が恋しくなったからかもしれないな。……今も元気にしているだろうか。たまには電話してみるのも悪くないかもしれないな。



 さて、明日も昼から打ち合わせだ。さっさと風呂入って、ネットサーフィンして寝ますか。……でもなんかかったるくなってきたから、少し寝っ転がってから風呂入ろ。

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