第3話 村の入り口で(以下略
今日も俺は村の入り口にいた。
背後には、木製の家が点在し、粗末な柵で囲まれている。
前には、馬車の轍が出来た一本道がずーっと続いている。
この道をそのまま真っ直ぐ進むと、領主様がいる街に辿り着く。
道の両側には畑が広がっていて、今は小麦が栽培されて、金色の穂が風に揺らされている光景は、なんとも長閑に感じられる。
「今日は、来るかな?」
そんな独り言を呟きながら、大きな石を背にして座り込んで、麦わら帽子を編み始めた。
十六歳の誕生日を迎えた日に、両親から告白されたのは、我が家の秘密だった。
それは、勇者が村に来たときに「ここはアインの村です」と案内をする係になっているそうだ。
ただし、誰が勇者かわからないので、身知らずの人が来たらとにかく案内しなければならない。
父親は、ずっとその役割を担ってきたそうだが、ずっと前から俺が十六になったら継がせるつもりだったらしい。
何故、三男の俺に継がせたのかを問い詰めると、暇そうだからと言うなんとも味気ない返答だった。
いや、確かに、暇だけども。
暇すぎて、麦わら帽子やデニム生地、砂時計とか作り出して、わざわざ高額な医学書を読み出したりしていたけども。
ちなみに、さらにその役割はどうだったと聞いたら暇だったという返答でした。
やっぱり、暇だったのかよ。
さて、そんな父親だが、役目を継がせてからは毎日楽しそうにゴーレムと一緒に森の開墾をしている。
「俺で、絶えさせていい気がしてきた」
作りかけの麦わら帽子をクルクルと回しながら、ふと道の先を見るが、誰もいなかった。
なじみの商人以外には、滅多に旅人が訪れることも無い村だ。
名産と言えば麦わら帽子とビーツぐらいなものだが、最近ではあちこちの村でも作っているから、そう特別でもなんでもない。
「結局、やることさほど変わらない?」
家の畑は、ゴーレムに任せておけばいいし、他の兄弟も畑だけは手伝ってくれるそうだ。
そうなると、日がな一日、麦わら帽子を作り続けるか読書するだけだったりする。
ちなみに係の仕事は、雨の日は休んで良いらしい。
なんかゆるいな。
雨の中、一日中外にいろっていうのもきついけど。
しかし、それにしても、勇者がいるというのも初耳だった。
このなんちゃって中世ヨーロッパ風ファンタジー異世界なら、居てもおかしくはないのだうな。
だが、もっと問題がある。
実は魔王がいない。
過去にいたらしいが、勇者に細胞のいっぺんたりとも残さずに電撃で焼き払われた挙げ句に、魂は消滅させられたそうだ。
さらに多少の血縁でもあろうものなら、全て引っ捕らえ市中引き回しの上でさらし首にされたとか。
容赦なさ過ぎ!
というわけで、この世界に過去三百年間にわたって魔王は現れていないし、勇者も現れていない。
そりゃそうだ、魔王がいないのに勇者が旅立つ必要も無いのだから。
モンスターもいることはいるが、この世界のモンスターは特別強くも無い。
ぶっちゃけ、熊の方が強い。
こうなってくると、モンスターっていうか変わった動物程度でしかないのだろうか。
「精が出ますね」
「え?」
いつの間にか誰かが前に立っていた。
顔を上げると、どうやら旅人風の格好をした女性だ。
おっと、幾らしょーもない係でも仕事はしないと。
「ここはアインの村です」
と立ち上がって言ったところで、気がついた。
目の前に居たのは、転生の女神だった。
忘れるはずも無い姿だった。
「久しぶりですね。覚えてますか?」
「当然。そうっすね。十六年ぶりぐらい」
十六年ぶりの姿は、十六年前と何一つとして変わっていなかった。
やはり、女神って言うのは歳を取らないのだろうか。
「ええ」
「どうかしたんすか?」
はて、俺が何かしただろうか?
「いえ、近くまで出張で来まして」
「出張とかあるんすね。お疲れ様です」
「いえいえ、ありがとうございます。転生してどうですか?」
どうですか。
そうだな。
「満足です。なんだか、いっぺん死んでスッキリしました。あのまま生きていたら、きっとただ時間だけを浪費して死んでいただろうから」
「そういってもらえると助かります」
「流石にダーツで色々と決まるとは思わなかったけど」
「いやー、あのときはあれが出来る最善でして。本当に、あのときは申し訳ありませんでした」
女神がペコリと頭を下げてくる。
「いいよ」
「ところで、能力の方はどうですか?」
そう、最後のダーツで決まった能力だけど。
「いや、実は、なかなか使う機会が無くて使ってないです」
「あら、そうでしたか。なにせあの能力ですものね」
うん、きっとこの世界では使う機会に恵まれなさそうだ。
「そりゃね。何せ、俺の能力は――」




