第2話 転生したら暇だった
俺は剣と魔法のファンタジー異世界に無事に男として転生し、約十六年の年月が経っていた。
名前は、カイエン・ゴンザレス。
ちなみにゴンザレスは、名字では無く家の初代の名前であり、屋号になる。
この世界では、平民は名字を持っていないので、こうして屋号を名字代わりに使っているという訳だ。
生まれた家は、小さな村の農家だ。
領主の住まいからはやや離れているので、代官が常駐している村だ。
農家と言うことで、一日中農作業ばかりの過酷な日々を過ごすかと思いきや、この異世界の農業は非常に楽だった。
魔法が発展していて、農業用のゴーレムが普及しており、どんな貧しい家でも一台はゴーレムを持っていた。
ゴーレムは、簡単な命令ならなんでもこなし、普段の水やりや雑草抜きなどの農地の管理はほとんどしてくれる。
農民がする仕事と言えば、種まきや収穫の時期を計算したり、ゴーレムでは出来ない複雑な作業にゴーレムの簡単なメンテナンスが主だった。
それに、生まれた国も島国で、外敵の脅威が少なく、モンスターも凶暴なものは少なく、基本的に平和だった。
領主も良い人のようで、税はそれほど多くなく、少なくともこの村で餓死者が出るようなことは無かった。
「長閑だなぁ」
俺は小高い丘から家の農地を見渡しながら、思わず呟いた。
内には三台のゴーレムがいる。
見てくれは、人間の大きさ程度の木製の人形だ。
そのゴーレム達が、雑草を引き抜いてくれている。
家畜の排泄物から作った堆肥を使っているし、水やりには綺麗な伏流水を使っている。
有機無農薬栽培で作られた作物はとても旨い。
これは、ある意味、現代地球よりも発展しているように思えた。
ただ、それ以上に農民としての生活が板に付いてきて、思っていた以上に向いていたようでもある。
こんなことなら、引きこもらずに農業に挑戦してみるのも良かったのだろう。
「ちゃっちゃと作るか」
と暇つぶしに麦わら帽子を作り始める。
当然のことながら、作り方なんて知らなかったけど、籠の作り方を参考にして作り始めた物だ。
この世界には麦わら帽子が無かったこともあり、なかなか好評で、今では村中で副業として作り、他の村や都会に売っている。
現金収入だけはどうしても手段が限られていたこともある。
まぁ、農家だとそこまで現金収入が必要にもならないけどね。
基本的には自給自足で生活できる。
うちの場合、鶏も飼っているので、卵と鶏肉に困ることも無い。
豚や牛の肉が食べたいときも、作物で物々交換して手に入れることができる。
「昼からは、釣りでもしようかな?」
とにもかくにも、俺は、異世界でのスローライフを満喫していた。
村の同年代の若者には、都会に出て成り上がるなんていうのも少なくないが、俺には今の生活があっている。
三男だけど、開墾済の土地を貰える予定ではあるし、それほど将来に不安は無い。
唯一あるとすれば、結婚相手だろうか。
この世界では、二十歳までに結婚するのが当たり前で、俺もそろそろ相手が欲しいところだけど、土地持ちとはいえやはり三男ぐらいになるとなかなか縁が無い。
何分、小さな村なので、同年代のめぼしい女性は大抵が結婚していたり既に相手がいたりとなかなか厳しい。
こうなってくると、よその村から嫁いできて貰うしかないけど、果たして只の農家の三男に嫁いできてくれるだろうか。
「良い相手がな……。こういうのも縁なのだろうけど」
それにしても、前世では結婚どころか恋愛すらもろくにしていないのに、今の人生を送り出して、結婚のことを真面目に考えることになるとは思ってもみなかった。
しかし、真面目に考えるか。
実は結婚以外は順風満帆なようでいて、一つだけ気になっていることがあった。
父親のことだ。
当然、転生した家の父親のことだ。
うちの父親だが、どう見ても働いているように見えない。
だが、家族は毎日お勤めありがとうございますと言っている。
これが謎なのだ。
何をしているかと言えば、日がな一日、村の入り口に立っているだけなのだ。
そして、時々立ち寄る旅人相手に「ここはアインの村です」と、挨拶をするだけなのだ。
あれは、一体何なのか。
あれがどう見ても、仕事に見えない。
古いRPGによくある村人モブのような事を言い続けるなんて、一体何なのだろうか?
母親に尋ねても、お前にもいずれ話すとだけ言われるだけだった。
いずれがいつかは分からないが、何か深い理由でもあるのだろうか。
☆
ある日、いつものように目覚めた。
なんてことの無い日のようで、少しだけ特別だ。
実は、この世界に転生した日なのだ。
つまり、転生後の誕生日だ。
家族の誕生日は、ささやかながらも、甘い焼き菓子を食べるのが我が家でのお祝い仕方だった。
ハチミツぐらいなら森に行けばいくらでも手に入るが、砂糖は貴重で高額なのでお祝いの時ぐらいしか使えない。
その砂糖を使ったお菓子は、素朴ながらも、甘味が貴重なこの世界では、十分にごちそうだった。
さて、着替えて居間へと行くと、両親が並んでテーブルに座っていた。
テーブルの上には、黒パンと野菜のスープ、ゆで卵、ハーブティーが置かれている。
だが、どこか両親の様子がおかしい。
妙に緊張して、ただならぬ気配を放っている。
「おはよう」
「おはよう……座りなさい」
母親に促されて座った。
どうも何か言いたげだが、なかなか口を開かない。
「あんた」
「う、うむ」
母親に促され、父親がわざとらしく咳払いをした。
「実はな、我が家の秘密について、ついにお前に告げなければならなくなった」
「秘密?」
このどこにでもいそうな農家のどこに秘密があるのだろうか?
不可解に思いながらも父親を見つめると、口を開いた。
「実は、我が家は代々勇者――」




