獣は現に夢を見る
獣態で生まれ、人態に変化することを覚える人獣達が暮らす世界。小犲族の中で育った少女、彩雲は、しかし獣態になれない〈生まれながらの人〉であった。多くの人獣の一族を支配する狗王国の大王は、〈生まれながらの人〉が繁栄をもたらすという伝説を信じており、軍を送って小犲族を下し、彩雲を手に入れた。その軍の中にあった白狼族の青年、雪渓は、下る小犲族の姿に、自らの白狼族の姿を重ねながらも、その白狼族を守るため、狗王国の駒として動いている。王都へ帰還する道中、白狼族を裏切者と見做す黒狼族の襲撃のせいもあり、交流を持つ彩雲と雪渓。やがて、王都へ到着すると、今度は、雪渓達、狗王国に下った一族の戦士達を戦わせる、闘技大会が待ち受けていた。〈生まれながらの人〉の力が少しずつ明らかになっていく傍ら、闘技大会には、雪渓の命を狙う黒狼族の黒雨も出場を決め、さまざまな一族の思惑も絡んでいく。立場に縛られながらも、互いへの思いを自覚していく彩雲と雪渓は、大王とともに、人獣の真実を知り、遥かな過去の人間から託された願いに直面することになる。日向の匂いのする毛皮から、さまざまな武器による格闘まで。孤独な魂の救済から、世界の謎を巡る陰謀まで。