57. 人との邂逅③
3人が目を覚ましたと聞いて、俺は朝食がてら彼等の話を聞くことにした。
報告に来たレスの肩に乗って食堂に着いた時には、子供たちは既に席についていた。
昨日とは違い、彼らは俺やタロジロが着ているような小奇麗な服に身を包んでいる。
どうやら昨日のうちにレスの配下が魔王の倉庫から取ってきてくれたらしい。
リーダーらしき男の子が、俺の姿を認めるなり安堵の息を吐いたようだった。
「昨日はよく眠れたか?」
「ああ。おかげで助かったぜ。ありがとう」
俺が声をかけると、男の子はにっこりと笑いかけてきた。。
両脇に座った女の子達も、席に座ったままその場でぺこりとお辞儀をした。
男の子がタメ口で俺に話しかけてきたことにハインツが表情を強張らせたが、俺はそれを前足で制する。
「自己紹介がまだだったな。俺はリョウという。見ての通り猫の魔物だ。一応、こいつらの代表みたいなことをしている」
俺は自己紹介ついでに、にゃ~♪と鳴いて見せた。
俺の鳴き声を聞いて、女の子達も心なしか表情が緩んだようだった。
男の子はヘテロと名乗った。女の子達は、ヘテロの妹のミラと、ミラの友達のアンナというそうだ。
俺達は互いに名乗った後で本題に入った。
「それで、ヘテロ君達は何故大河を渡っていたんだい?枷をはめていたのは、レスが言ってたように奴隷という事なのか?」
奴隷という単語を出そうかはちょっと迷ったが、そこをうやむやなままにした状態で話しても仕方がない。俺は直球で聞くことにした。
「ヘテロでいい。俺達は親に売られたんだんだよ」
ぶっきらぼうにヘテロが吐いた。ミラとアンナが目を伏せる。
「俺達はリファニア王国の南、森の近くの村に住んでいたんだ」
ヘテロはぽつりぽつりと身の上を語り出した。
ヘテロによれば、このアインベルグから大河を挟んで西側にリファニアという国があるらしい。
リファニアは東西2つの大河に挟まれた広大な平原にあるため、古くから農業が盛んだったそうだ。
しかし近年は作物が不作になりがちで、農家には苦しい状況が続いているらしい。
ヘテロ達が住んでた村も例にもれず農業を主産業としていて、不作による貧しさを理由に親に奴隷商人に売られてしまったのだという。
また、ヘテロ達を買った奴隷商人は、アインベルグから河を渡って南にあるシスイという国の輩だそうだ。
しかしシスイに向かう途中で奴隷商人のキャラバンは野盗に襲われれ、そのどさくさに紛れてヘテロ達含め捕まっていた奴隷達は散り散りなって逃げていったらしい。
どうやらこれは、この子達を住んでた村に連れて帰って"めでたしめでたし"というわけにはならなそうだ。
「兄上。この子達をどうするつもりですか?」
隣に座っていたタローが、俺を真摯なまなざしでじっと見つめてきた。
どうすると言ってもなあ・・・。
タローは真面目で思いやりがある子だ。種族は違えどこの子達の置かれた立場に同情していて、何か力になりたいと思っているのだろう。
ちなみにジローはというと、深刻な話そっちのけで朝食の川魚の香草蒸しに夢中になってかぶりついている。
暇なときに作った俺謹製の箸はテーブルに置かれたままであり、ジローは魚を手掴みで食べていた。
剣の使い方は覚えるのが早いのに、箸の使い方は中々覚えてくれないんだよなー。
ジローはなんともマイペースである。まぁ、元気でいてくれればいいんだけどね。
俺はヘテロ達に視線を戻すと、タローに倣って可能な限り真摯なまなざしを向けてみた。
「君たちの身の安全は保障しよう。行くところがなければここに住んでも構わないし、行きたい場所があるなら連れていってやる」
「本当かっ?」
ヘテロが目を見開いた。
「さすがです兄上っ!」
タローが目を輝かせ、俺に向かって尊敬の眼差しを向けてくる。
なんだか照れくさい。
「リョウ兄。手がベトベト」
ジローが目を曇らせ、しょんぼりした感じで魚の脂でベトベトになった手をこちらに向けてくる。
・・・。
とりあえず、暇なときに作った俺謹製のハンカチでジローの手を丁寧に拭いてやった。




