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ユウナとネコさんたちの異世界生活  作者: 藍
第6章 ユウナと魔王ネコさんと明かされる陰謀
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第5話 ユウナと魔王ネコさんと明かされる陰謀(2)

サブタイトルの番号を(中編)から(2)に変更しました。 H30.2.11

 次に浮かんできた記憶は緊急クエストを達成した翌日で、場所は冒険者ギルドです。


「皆さん、昨日はお疲れ様でした。昨日の報酬の受け取りに来られましたか?」


「ノーラさんもお疲れ様です。はい、お願いします」


「それでは昨日貸し出した魔石回収の指輪の返却をお願いします。ネコさんたちはチェーンもお願いしますね」


「はい、ありがとうございました」


「にゃふっと」


 緊急クエスト参加者には、魔物との戦闘に専念できるよう魔石回収の指輪が貸し出しされていました。ネコさんたちは指輪を指にはめることができないので、同じく貸し出しのチェーンを使ってネックレスとして装備しています。


「私たちはワイバーンの討伐しかしていないので、魔石はとどめを刺したエルフネコさんの指輪にしか入っていませんね」


「にゃむっと」


 私が自分の指輪を外していると、ネコさんたちは協力してチェーンを外していました。


「それではノーラさんに返却しましょうか。せっかくですから、エルフネコさんが代表して報酬を受け取って下さい」


「にゃむむ。にゃむむ~。にゃむっと」


 エルフネコさんは首を横に振り、私に指輪を渡してきました。


「えっと、私が受け取るのですか?」


「にゃむっと」


 生活費は私が管理しているので、最終的には私が報酬を預かることになりますが、せっかくだからエルフネコさんが受け取ったらいいのにと思ってしまいます。


「もしかしたら、エルフネコさんたちがワイバーンとの戦闘に参加したのは報酬をユウナさんの為に手に入れたかったからなのではないでしょうか?」


 ノーラさんが助け舟として、エルフネコさんの考えを代弁してくれました。


「私のためにですか?」


「にゃむっと」


 ノーラさんの言葉を繰り返すとエルフネコさんたちは頷きます。


「覚えていますか、ユウナさん。私がワイバーンとの戦闘でユウナさんたちを推薦した時に、ヨナさん・・・・が報酬の話をしましたよね。その時にエルフネコさんたちがやる気になりました」


「えっと、そうでしたね。確か私たちでワイバーンを倒すと報酬の全てが貰えると」


 その時は私の異世界生活を助けるために駆けつけてくれたネコさんたちが強敵であるワイバーンとの戦闘に乗り気なことに疑問を覚えたのですが。


「今は安定した収入源がありません。エルフネコさんたちは報酬が多く稼げるからワイバーンとの戦闘に参加することを選んだのですか?」


「にゃむっと」


「そうだったのですか」


 そういえば、エルフネコさんと出会ったのは清掃の雑用クエストの受注ができず、収入に困って採取クエストに切り替えた時です。その経緯はエルフネコさんに説明したので、その後も収入について気にかけていてくれたのかもしれません。


「それではこの報酬は大事に使わせてもらいます。ありがとうございます、皆さん」


「にゃむっと」「にゃふっと」「にゃきゅっと」「にゃぷっと」


 今はマイホームを手に入れて宿屋代が不要になったので、かなり生活費が安くなりました。実質、食費くらいのものです。それでも、清掃依頼の再開の見通しがたっていないので収入源には頭を悩ませていました。そう考えるとエルフネコさんたちの今回の気遣いは本当にありがたかったです。


「ノーラさん、指輪とチェーンを返却します」


「はい、確かに受け取りました。それでは報酬をご用意しますので少しお待ちください」


 ノーラさんはカウンターの奥の方に行き、しばらくして戻ってきました。


「こちらがユウナさんたちの報酬になります。まずは緊急クエストの参加料の金貨3枚です。ユウナさんたちは5人パーティーなので15枚ですね」


「ありがとうございます。でも参加料だけでこんなに貰っても街の財政は大丈夫なのですか?」


 私たちは途中から街の防衛から魔物討伐へと参加が内容が切り替わったので、報酬も金貨3枚になっています。ゴブリンキングとゴブリン約10匹の魔石で金貨5枚程度だったはずですが、街を守るための報酬とはいえ貰い過ぎでは?それにしても金貨15枚は本当に大きいですね。金貨1枚が10万円相当ですから150万円ですよ。


「カーヤの街は最大級のダンジョンに隣接する街だけあって人や物の動きが活発で、それに伴い税収が潤っているのですよ。それに冒険者は臨時収入があると飲食や装備品購入にお金を多く使う傾向があるので街の商業が潤い、結果的に税金として戻ってきますので安心してください。それではあとはワイバーンの魔石の買取りと魔石買取り報酬増加を合わせた報酬ですが、金貨22枚です。魔石買い取り額が金貨20枚で報酬増加額が金貨2枚という内訳です」


 何と!?ワイバーンはゴブリンキングの役4倍の値がつきました。


「皆さん、ありがとうございます。これでしばらく生活には困りませんね」


「にゃむっと」


 久しぶりの生活費の計算をしましょうか。今は自炊ができますから1食300円と仮決めすると、5人で1500円。1日3食で4500円。かける1月が30日で13万5000円。切りよく14万円として、金貨1枚と銀貨4枚。報酬総額が金貨37枚だから2年は暮らせます。


「よし。ではルゥちゃんのお店で買い物をしましょう。節約は明日からですよ!!」


「にゃふ!?」


 大事に使うと言っておきながらの買い物宣言にネコさんが驚いています。


「まだ、天使ネコさんとドワーフネコさんのリストバンドを買っていませんからね。あとは2人のポシェットも作りましょう」


「にゃふっと」


「にゃきゅ!?」


「にゃぷっと!!」


 私の説明にネコさんは納得して、天使ネコさんとドワーフネコさんは喜んでくれているようです。


「ユウナさんたちはこれから『妖精の針子』へ行くのですか?」


「はい、臨時収入があったので買い物をしようと思います」


「それなら、私たちとご一緒しますか?実は今日は叔父様が『妖精の針子』の予約を取っているんですよ」


 『妖精の針子』は予約のある日は貸切になって通常営業をしていないことがあります。


「そうだったのですか。それはありがたいのですが、ゼブ様に確認を取らなくても大丈夫ですか?」


「にゃきゅきゅ?」


「叔父様にアリスちゃん…孫への買い物に付き合ってほしいとお願いされているだけなので問題ありません。それに叔父様は防衛戦でのユウナさんたちの活躍を喜んでいて、また会いたいと言っていましたからちょうど良かったんですよ」


「ユウナさんたちと言いますか、ネコさんたちの活躍なのですが」


「そんなことありませんよ。ふふふ、ユウナさんも活躍していたじゃないですか。では、引継ぎをしてきますのでロビーで少し待っていてください」


「はい、わかりました」


「にゃぷっと」


 ▽▽▽


 『妖精の針子』に到着しましたが、入り口の扉には『本日は貸切です』の札が掛かっています。ゼブ様が予約をしているためのものですね。ノックをするとルゥちゃんが出迎えてくれ、ノーラさんが説明してくれたので私たちも店舗に入れてもらえました。


「ユウナお姉ちゃんにネコちゃんたち、昨日はお疲れ様でした~。怪我はありませんか~」


「えぇ、エルフネコさんたちの活躍で怪我はありませんよ」


「それはよかったです~」


「ルゥさん、叔父様はまだ来ていませんか?」


 コンッコンッ。


「あっ、ちょうど到着したようですね」


 ノーラさんの問いかけにタイミングよくゼブ様が来店したようです。


「すまない。少し遅れてしまった。おや、ユウナさんたちも来ていたのかい」


「叔父様、昨日の報酬を渡している時にユウナさんたちが『妖精の針子』で買い物を考えていると聞いたのでお誘いしたのです」


「すみません、ゼブ様。ノーラさんの言葉に甘えてしまいました」


「いや、構わないよ。私も君たちに会いたかったからね。昨日のワイバーンとの戦闘についてノーラから聞いたが本当に素晴らしかったと思う。怪我は無かったと聞いていたのだが、今日になって痛みとかは無かったかな?」


「はい、私もネコさんたちも大丈夫です」


「それはなによりだ。ふむ、それではあらためてこのカーヤの街の代表者としてお礼を言わせてもらうよ。街を救ってくれたことに感謝する」


「あっ、えっと、どういたしまして。あの、私たちは報酬をもらっていますので、ゼブ様に頭を下げてもらわなくても大丈夫ですよ」


「はははっ、そんなに恐縮しないでほしい。この街を守ってくれて本当に感謝しているんだ。しかし、君たちみたいな優秀な冒険者がいるとカーヤの街も安泰だな。ダンジョンの攻略も頑張ってほしいものだよ」


「いえ、私たちはこれからは魔物と戦わないで生計をたてようと考えています」


「そうなのかい?ノーラからは初の戦闘でゴブリンキングを倒したと活躍の話を聞いていたのだが」


「えっと、私は元々、清掃依頼の報酬で暮らしていこうと考えていました。ですが、清掃依頼が受けられなくなったので薬草採取を試そうとしたところゴブリンキングに襲われてミラさんやエルフネコさんたちの助けで倒すことができただけです」


「大まかな話は聞いていたが、ゴブリンキングは初心者の冒険者が倒せるような魔物ではないよ。他の人の助けを借りたとはいえ、ユウナさんも戦いに貢献しているのだから戦闘のセンスがある証拠だと思うのだが」


「実は昨日ヨナさんにゴブリンキングとの戦いに関して指摘を受けたのです。ルーキー特有の病気にかかっていると」


「ルーキーの内に大きな功績を上げてしまうと、自分の実力を見誤ってしまうというものですね」


「はい、私は危険なことはしないと決めていたのに、いつの間にか魔物との戦闘に参加することに抵抗がなくなっていたのです。だから、今後は危険のない仕事を探そうと思っています」


「…ユウナさんの決意は固そうだな。有力者の立場としては優秀な冒険者がダンジョンに潜らないのは痛手だと思うが、無理強いできるものでもない。ノーラ、機会があればユウナさんの仕事探しを手伝ってくれ。私たちもユウナさんにはお世話になっているからね」


「…そうですね。わかりました、叔父様」


「えっと、すみません」


「冒険者の良いところは自分で仕事を選べるところだ。気にしなくていいよ。そういえば、ルシアはいないのかい?」


「お祖母ちゃんは素材を集めるために今日の朝ダンジョンに潜りました~。5日後くらいに戻る予定です~」


「そうか。久しぶりに戻ってきたと聞いたから挨拶をしたかったのだがまた出直すとしよう」


「ゼブ様はルシアさんと知り合いなのですか?」


「あぁ。私はルゥさんが店を引き継ぐ前からの常連だよ。ところでユウナさんたちは何を買いに来たのかな」


「私たちは天使ネコさんとドワーフネコさんのリストバンドとポシェットの材料です」


「そうか。私は孫娘の服を買いに来たんだ。ただ、私では女の子にどんな服を買っていいのかわからないから、ノーラに助けを求めたのだよ」


「ノーラさんが頼まれていたのはお孫さんの服選びだったのですね。でも、それならお孫さんも一緒に来てもらったらいいのではないでしょうか?あっ、それとも遠い所に住んでいるのですか?」


「孫娘のアリスとは一緒に住んでいるんだが病気のため長らく寝込んでいてね」


「あっ、すみませんでした」


「いや、気にしないでくれ。病状は悪いが、必ず良くなると私は信じている。元気になったらピクニックに行きたいというアリスの願いにいつでも応えれるように、外出着やポシェットをプレゼントしているのだよ」


 場の空気が重くなってしまったので、ゼブ様は気をつかってか、明るい声で話してくれます。


「ふふふ、叔父様はアリスちゃんを溺愛しているのですよ。実際、アリスちゃんは本当に可愛いですからね。ユウナさんもそれだけ可愛いのですから、ご家族から溺愛されているのではないのですか?旅へ出るのも反対されたりしませんでしたか?」


「えっと…私は両親を亡くしていまして…」


 せっかくゼブ様とノーラさんが場を明るくしようとしてくれたので「そうですよ」と話を合わせようかと思ったのですが、お父さんとお母さんのことで嘘をつきたくはありませんでした。それにミラさんから街の説明を受ける時に両親が他界していることを伝えていますからね。


「そうだったのですか。すみません、ユウナさん」


「いえ、気にしないでください。今はネコさんたちが一緒にいてくれますから」


「にゃぷっと」


「そうか、ユウナさんもご両親をなくしていたのか」


「えっと、わたし()ですか?」


「アリスの両親はアリスが産まれてすぐに事故で亡くなったんだよ」


「アリスちゃんのご両親も事故で…ですか?」


「あぁ、事故と言っても2人が乗っていた馬車が魔物に襲われて逃げる途中に谷底へ転落してしまったので、魔物に殺されたようなものなのだが。…私は妻を病気で亡くし、一人息子とその嫁は事故で亡くなった。今の私にはアリスしかいない。だから、私はどんなことをしても、どれだけの金を使おうとも、アリスの病気を治したいと思っている」


 アリスちゃんのことを話すゼブ様の表情には鬼気迫るもの浮かんでいます。


「重い話をしてしまってすまないね。まぁ、私にはアリスだけと言ったが、この街にノーラが来てからはアリスの面倒を見てくれている。この年になって家族が1人増えたみたいで嬉しいよ」


「私こそ叔父様には良くして頂いていますから」


「さて、いつまでも話をしているとルゥさんに迷惑だね。良かったらユウナさんも服選びを手伝ってもらえないかな。アリスは10歳の金髪碧眼の可愛い女の子なんだ」


 ゼブ様にお願いされたので私も服選びに参加することになりました。といっても、アリスちゃんと面識もなく写真もありませんからゼブ様とノーラさんに判断してもらうと考え、ジャンルの違う可愛い系の服とシックな清楚系の服を提案します。ゼブ様は「どちらもアリスに似合うな」と言って、最終的には私とノーラさんが候補にあげた全部の服を買ったのです。本当にアリスちゃんのことが可愛いのですね。ゼブ様とノーラさんは午後からの仕事があるということで帰りました。私たちも予定通りポシェットの材料とリストバンドを購入します。天使ネコさんとドワーフネコさんは2人とも防御力上昇を2つを選び、色はやはり私のリボンと同じ青色を選んでくれました。


 その後はトラブルは発生せず、穏やかな日々が続きました。自炊にDIYに裁縫など今までしたかったことができ、カーヤの街にたどり着いて一番平和な時間を過ごせたのかもしれません。しかし、そのような日々は数日で終わってしまいます。次に浮かんできた記憶は、今私たちが置かれている状況の1時間ほど前から始まりました。

 

▽▽▽


 ピンポーン。


 インターホンが鳴ったので玄関を出ると門の外に、ラルフさんとマリアベルさん、そしてゴレットさんがいました。


「いらっしゃいませ」


「おはよう、ユウナ」


「おはようございます。ユウナさん」


「…久しぶりだな」


 3人をリビングに案内してソファーに座ってもらいます。このソファーは私とドワーフネコさんで材料を買って自作したものです。木材で骨組みを作り、大きめのクッションを数個のせた簡易的なものですが、ネコさんたちもお気に入りの逸品です。


「しかし、本当に家を手に入れていたんだね」


「幽霊屋敷の中にこんなにも先進的な設備があるとはな」


 ラルフさんとゴレットさんはミラさんと同じように興味深そうに部屋を眺めています。


「私は緊急クエストに参加した日にヨナさんたちとお邪魔させてもらいましたが凄いですよ、この屋敷は。水の出る魔道具やお風呂がありますからね」


 緊急クエストが終わってからヨナさんが晩御飯を奢るのでお風呂を借りたいと言われました。その時にマリアベルさんも誘って、最終的にはクーちゃんたち3人とミラさんも合流してのお泊り会となりました。


「ユウナ、ミラとヨナはまだ来ていないのか?」


「えぇ、まだ来ていません」


「おや、ゴレット。いつからユウナのことを名前で呼ぶようになったんだい」


「ふんっ、貴様には関係ないことだ。…いつまでも小娘と呼んでいては、俺の品性が疑われるからな」


 そういえば、娘や小娘に庶民などと呼ばれていましたね。ゴレットさんとはザインから助けてもらって以来久しぶりに会いますが、態度が柔らかくなっているように思えます。でも、品性を気にするのであれば初対面の時から名前で呼んでほしいのですが。


「そういえば、ゴレットさんはユウナさんの仕事に横やりを入れたとヨナさんに聞きましたが」


「くっ、公務に口を出されるいわれはない」


 尊大なゴレットさんには珍しく歯切れの悪い言葉を口にします。と言いますか、笑顔なのにマリアベルさんからプレッシャーのようなものがにじみ出ているのが私でもわかります。それにしても、ラルフさんとミラさんに強気なゴレットさんですが、マリアベルさんには一歩引いているような感じがしますね。元パーティー内には力関係のようなものがあったのでしょうか?


「あら、公務員の給与は私たちの税金から支払われていますよね。それでも関係ないと?」


「マリアベル、ゴレットを虐めるのは後にしてくれないか」


「ラルフさん、私は虐めてなんかいませんよ。か・く・に・んをしているだけですから」


「ふんっ、とにかくこの話は終わりだ」


「わかった、わかった。だが、ヨナが来ていないと話を始めることができないな」


「そうですね。ミラさんは昨日は夜勤だったので残業が発生したら遅くなるとは言っていましたが」


「脳筋女はともかく、ヨナが遅れるのは珍しいな」


「えっと、そもそも今日集まった理由は何なのですか?昨日ヨナさんから明日皆さんが集まって話をするから場所を貸してほしいと言われたのですが」


「ヨナは説明をしていなかったのかい?最近発生している魔物の不審な行動についてと、ユウナが多数のトラブルに巻き込まれている件について話し合おうと持ち掛けられたんだ」


「ふんっ、魔物の件なら冒険者ギルドか防犯課の事務所で話をすればいいだろうが。清掃局の俺には関係がない。帰らせてもらうぞ」


「魔物の異常行動は街の安全を脅かします。清掃局とはいえゴレットさんにも関係ありますよ。それにユウナさんのトラブルの方の1つはそれこそ清掃局の貴方たちが原因であるのですからね」


「ちっ」


「そうだな。ゴレット、ユウナはこの街に来てから多くのトラブルに見舞われている。気になってヨナに調べてもらったら今日の話し合いを提案された。しかも、依頼者の僕以外に君たちまで呼ばれている。ゴレットが呼ばれたのは、清掃局が横やりを入れたからユウナが清掃依頼を受けられなくなったことについて話を聞きたいからだと思う。清掃局のとった行動の理由について教えてくれないか?」


「特別な理由などない。冒険者ギルドでも言ったが、清掃局の仕事は街の美化を保つことだ。俺が清掃局に配属されてから街の衛生状況は改善されただろう。そのことに気を良くした上から個人商店の衛生状況も改善するように指示をされたから行動に移った。それが偶々、ユウナが活動を開始した時期と被った。ただそれだけのことだ」


「確かにゴレットさんが清掃局に入ってから街は綺麗になりましたね。子供たちとボランティア活動で街の掃除を行っていますが、ゴミがほとんど落ちていません」


「あぁ、前任者が何もしない無能だったから、現場の者も手抜き仕事で楽をしていたようだ。俺が入ってからは徹底的に教育しなおしたから、そのようなことは今後起きないだろう」


「経緯はわかったが、それでも冒険者ギルドに口をだして清掃依頼を受けないようにするなんてやりすぎだろう?」


「俺が考えたわけではない。上からの指示だ。だいたい、ユウナが受注するまでの冒険者の清掃依頼の受注率はひどいものだったぞ。だったら、昔みたいに清掃局が請け負う形に戻せば、店主の依頼する手間も、清掃局への配慮のための商業者ギルドからの街への寄付の増額も省けるだろうが」


「確かにそうだが」


 私から見ると横やりを入れられたと思えるものも、ゴレットさんの視点からだと正当な理由の下に行動していたのだとわかります。まぁ、あの時はゴレットさんのあまりにもな言い方によって頭に血が上っていたのですが。


「じゃあ、清掃局の行動は本当に偶然だったのか。…ゴレット、君の父親のことでよくない噂を聞いたのだが」


「父のよくない噂だと?」


「あぁ、カーヤの街の支配を目論んでいるというものだ」


「くっくっくっ、誰が言ったか知らないがラルフ、貴様はガセネタを掴まされたな」


「どういうことだ?」


「父、ユーゴ・ギャレットがこの街の支配を目論むわけはない。なぜなら、もうすぐ貴族に返り咲くのだからな」


「なっ、それは本当か?」


「文武ともに才能のあった父は、自分の地位を脅かされると考えた兄たちから疎まれてカーヤの街の有力者に仕立て上げられた。だが貴族としての誇りを人一倍重んじる父は、それを良しとせず有力者としての職を務めながら人脈作りを行い、金銭を貯め、来春にでも貴族の地位を買い戻せることが決まったのだ」


「そうだったのか…すまない」


「ふんっ。父は目的の為なら多少強引な手段を取ることがある。貴族に戻るという目的を知らなければ、カーヤの街の支配が目的だと勘違いする者もいるだろう」


「僕は君の父親が有力者の地位を確たるものにするために、自分の受け持つ清掃局の権限を強めることを目的にゴレットに指示を出していたのかと考えたのだが」


「確かに、清掃局が個人商店の清掃依頼を一手に引き受け、清掃の仕上がりでの評価を得て依頼料の値下げをすれば商業者ギルドから賛同を得られるだろう。商業者ギルドの協力の下、街の代表者を決める次の選挙の時に自分の配下の者を立候補させ当選できたとしたら、代表者会議での発言力は確実に大きくなる。まぁ、簡単に言ったが実際にやるとなると根回しや懐柔などやることは多いが、ラルフの考え自体は突拍子の無いものではないな。根本的な間違いを除いてだがな」


「根本的な間違い?」


「そうだ。俺の上司は父ではない」


「そうなのか?有力者の家族も公務員の重要な地位に就くのだろう。家族同士が同じ部署で働くようになると聞いたことがあるぞ」


「私もそのように聞いたことがあります。ゴレットさんが公務員になると聞いて、てっきりユーゴ様の部下になると思っていたのですが」


「俺は冒険者としての活動が長かったから他人の下で勉強させてもらえと、あえて違う部署に配属されたんだ。父の補佐は兄が務めているから人手は足りているしな。だから俺の上司は…なんだ、この魔力は!?」


「にゃきゅ!?」


「にゃむむ!!」


「どうしたのですか?」


「これは…屋敷が…いえ、規模的に庭も含めて魔力で包まれました。攻撃目的の魔法ではありませんが」


「ちっ、この感覚は空間魔法か?閉じ込められたのかもしれないぞ。ラルフ、マリアベル、装備を出せ。準備が出来次第、外に出るぞ。ユウナとネコたちも一緒に来い」


「わかった」


「わかりました」


「はっ、はい。ネコさんたちもいいですか?」


「にゃふっと」 


▽▽▽


 ゴレットさんたちに続いて庭に出ると異常事態ということが一目でわかります。なんと、敷地を囲っている塀から外の部分が黒い霧に覆われているのです。


「これはいったい何なんだ、ゴレット」


「ゾディアックの迷宮でパーティーが分断された罠があっただろう。その部類の空間魔法か、それに類似するマジックアイテムが使われていることには違いない」


「かなりの魔力を感じます。簡単には外には出れません」


「えっと、魔物の仕業でしょうか?」


「屋敷を隔離するように魔法を使う魔物はいません。確実に人が行っているはずです」


「だが、どうしてユウナの屋敷が隔離されたんだ。やはり、ユウナは何かのトラブルに巻き込まれているということなのか?」


「ラルフさん、私たちへの犯行かもしれませんよ。ユウナさんは具体的にどのようなトラブルに遭遇したのですか?」


「えっと、清掃局の件と、ザインという冒険者に2回襲われて、ゴブリンキングに、幽霊屋敷と、緊急クエストです」


「1月足らずでそれだけだと多いな。だが、俺の件は関係ないとして、人が絡んでいるのはあのザインとかいうやつだけだな」


「ですが、ザインはもうカーヤの街には戻れないはずです」


「ところがそうでもないんだな、これが」


「えっ?」


 屋敷の庭には幽霊屋敷と呼ばれる理由となった手入れのなされていない木々が植わっています。その奥から何かを肩に担いでいる人影が出てきました。


「なっ!?あなたはザイン!!」


「にゃふ!?」


「久しぶりだな、嬢ちゃんとネコ。それにラルフとゴレットには世話になったな」


「貴様、その担いでいるのはまさか…」


「おー、お前らのお仲間のミラとかいう防犯課の職員だぜ。ほら、返すぜ!!」


「ミラッ!!」


 肩に担がれていたミラさんをザインは軽々と宙に放り投げます。地面に落ちる前に何とかラルフさんが走り込み抱きかかえることに成功しました。


「大丈夫か、ミラ」


「うっ、ごめん、ラルフ」


 ミラさんは意識はあるようですが、至る所に怪我を負っているようです。


「マリアベル、天使ネコさん、治癒魔法を!!」


「わかりました」


「にゃきゅっと」


 マリアベルさんと天使ネコさんが駆け寄り、ミラさんに【キュア】を唱えます。


「なぜ、街に戻ってこれたのですか?あなたは指名手配をされてギルドカードの確認が必要なカーヤの街には入れないとノーラさんが言っていたのに」


「普通なら入ってこれないよなぁ。ただ、何にでも抜け道ってのはあるんだぜ。おっと、抜け道って言っても俺様はちゃんと門番に身分確認をしてもらって入ってきたがな。どうしたかわかるかい?」


「まさか門番に金を握らせたのか」


「不正解だ。この街の門番は優秀だからそんなちゃちな手は通用しないぜ。もちろん、脅迫なんて無粋な手も使ってないぜぇ」


 ザインはニヤニヤしながら私たちの顔を見ています。それにしても違和感があります。それはラルフさんに倒され、ゴレットさんに追い払われた経験があるのに2人とマリアベルさんとネコさんたちを前にしても余裕がある点です。そういえば、身分確認についての話を最近教えてもらった覚えがあるのですが…えっ!?まさか!!。


「まっ、まさかザイン、あなたはBランクの冒険者じゃ…ない?」


「おっ!!流石、嬢ちゃんだぜ。顔と身体だけだじゃくて頭も良いなんて完璧じゃねぇか!!大正解だぜ」


「どういうことだ、ユウナ」


「ラルフさん…ザインはもしかしたら…Sランクの冒険者です」


 私の言葉にザインはニヤリと笑いました。

お読みいただきありがとうございました。

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