(1)
宇宙船の運転スペースにて、タコ星人たちはもめていた。
「やっぱりさっきの所でワープするべきだったでしょ?」
とタコイチが言った。
「さっきじゃわからん。方位を示せ」
とタコニが言った。
「え? 引き返すの?」
とタコサン。
「ただ引き返すだけじゃあだめだよ。前にも言ったと思うけどさ、今進んでいる方向を向いた形で加速してないと」
とタコシ。
「っていうことは、もっと先まで戻って、こっちに飛び直せばいいってこと?」
とタコゴ。
「いやいや、そういうことじゃあないだろう。まずワープが必要だったかどうかがわかっとらん」
とタコロク。
「ワープは必要でした。あそこでワープしなかったら、タコ星に帰れなくなるんです」
とタコイチ。
「だから、あそことか、さっきとかそういう漠然とした指摘じゃあわからん。具体的な場所と時間を示せ」
とタコニ。
「タコ星に帰るんですか? もう?」
とタコシチ。
「ゆくゆくは帰ると言う意味ですが、今のうちに帰る距離と時間を念頭に置いていないと、引き返し点を過ぎてしまうと帰れなくなります」
とタコイチ。
「そんなことは今更言わなくてもわかっておる」
とタコロク。
「計算結果は出ています。ワープはまだです。ワープ地点に到着していません」
とタコハチ。
「もお。タコイチは夢見が悪いとね、突拍子もないこと言い始めるのよ」
とタコキュ。
それでタコイチは黙ってしまった。
タコ星人は二本の足で立っていて、第1手から6までの6本の手がある。タコイチはすっかり気落ちしてしまい、第1~4本の手で頭をかかえ、第5、6手を絡ませて、黙ったまま運転スペースを出て行ってしまった。
「大丈夫かなあいつ」
とタコゴが言った。
「まだ折り返し地点に来ていないのに…。先週も騒いだな。ほぼ、今と同じやりとりだったな。記録は採れてる?」
「採れてます。後で聞き比べてみましょう」
とタコキュ。
「え? そうなんですか? 先週、ボク、オフだったもんで、知りませんでした」
とタコシチ。
「おまえももう休んだ方が良さそうだな」
とタコニが、第2、4手でタコシチの背中を押し、運転スペースから押し出した。
タコシチは第1~4本の手で頭をかかえ、第5、6手を絡ませて、とぼとぼと運転スペースを出て行ってしまった。
「タコシチは、記憶が飛ぶな。先週オフでもないのにな。だいいち、運転手に選ばれている間はオフってものがあったためしがないってのにな」
とタコシは続けて
「もうしわけないが、タコサン、君も休んだ方が良さそうだな。君、先週もタコイチがワープのことを言ったら、引き返すのか確認してたな…。大丈夫か?」
とタコサンに言った。
「え? れれれ? そうすか? 同じでした? れれれ?」
タコニが第2、4手でタコサンの背中を押し、運転スペースから押し出した。
タコサンは第1~4本の手で頭をかかえ、第5、6手を絡ませて、ぼうぜんと運転スペースを出て行った。
「来週から運転スペースを封鎖するぞ」
とタコキュが宣言した。
「まてまて、運転するのに、最低5人は必要だからな、交代を考えると、タコジュを起こした方が良さそうだな」
とタコサン。
「まったく、しょうがないな。宇宙って所は考え自体を混乱させる場所だな」
とタコハチ。
「それはかのタコタコダイゴジンが言っておられます」
とタコキュ。
「じゃ、まずタコジュを起こしてから、封鎖のことについては改めて見当するか」
とタコゴが言って、その日はタコシ、タコゴ、タコロク、タコハチ、タコキュが残って宇宙船の運転を続けた。




