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追放令嬢の和食食堂経営 ~バカにされた土魔法で最高の相棒とともに和食を作ったら、最強のもふもふが住み着きました~  作者: 速水静香
第一章:追放と辺境での新しい生活

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第一話:泥遊びと蔑まれた土魔法。婚約破棄されて辺境へ向かいます

 昼下がり。王都にあるエヴァンス伯爵邸の、広い客間。

 ふかふかの絨毯が敷かれたその部屋の真ん中に、私は立っていた。

 目の前には、三人の人物が並んで座っている。


「今日をもって、お前との婚約は破棄させてもらう」


 冷たい声でそう告げたのは、私の婚約者であるユリウス・ヴァン・グランチェスターだ。

 彼は金色の髪をきれいに整え、いかにも貴族の青年といった身なりをしている。

 その隣には、私の腹違いの妹であるイザベラが、勝ち誇ったような顔で座っている。彼女は豪華なドレスを着て、ユリウスの腕に自分の腕を絡ませていた。


「そういうことだ、シャーロット」


 二人の向こう側で、面倒そうに顔を背けたまま口を開いたのは、この家の当主である私の父だった。


「お前には今日限りで、このエヴァンス家から出ていってもらおう」


 私は少しだけ首を傾げた。

 婚約を破棄される。家から追い出される。

 まったく訳が分からない状況。


 婚約を破棄された挙句に、実家から追放される。

 ただ一つだけ言えることは、この状況は、貴族社会でいえば、地獄の底に落とされるような状況だということだ。

 普通であれば、泣き叫んだり、理由を問い詰めたりする場面なのだろう。


 だけど、私の心の中に湧き上がってきたのは、悲しみでも怒りでもなかった。


『これで、やっと自由に料理ができる』


 ただその一つの思いだけが、頭の中を満たしていたのだ。


「聞いてるの、お姉さま。お姉さまはもう、この家には必要ないのよ。いい加減にしてよね。あなたみたいな泥遊びばかりしている人は、エヴァンス家にはいらないの」


 イザベラが、高圧的な口調で口元を手で覆いながら言った。彼女はいつも、私を見下すような態度をとる。今日も例外ではないようだ。


「ええ、聞いています。ユリウス様との婚約が取り消しになり、私がこの家を出ていくということですね」


 私はできるだけ丁寧に返事をした。怒る理由は見当たらない。


「全く、その落ち着き払った態度が腹立たしい。自分がどれだけ恥ずかしいことをしているのか、理解していないようだな」


 ユリウスが鼻で笑うように言った。


「恥ずかしいこと、とは何でしょうか」


 私が尋ねると、ユリウスは立ち上がり、私を指差した。


「お前のその、泥遊びのような魔法のことだ!貴族の令嬢でありながら、土をいじり、泥にまみれる。そんな卑しい魔法しか使えない女を、私の妻に迎えることなどできるはずがないだろう」


 ユリウスは、私が使う土属性魔法をひどく嫌っていた。

 この世界では、魔法は火、水、風、土の四つに分けられている。

 誰もがわずかな魔力を持って生まれるが、それを使いこなせるかどうかは才能と訓練次第だ。

 火の魔法は派手で攻撃力が高く、多くの人が憧れる。風の魔法は素早い移動や鋭い攻撃ができ、水の魔法は傷を治すことができる。

 それに比べて、土の魔法は地面を盛り上げて壁を作ったり、敵の足止めをしたりする地味なものだとされている。

 確かに、戦いの場では盾になることが多い魔法だ。

 しかし、私はこの土魔法が大好きだった。

 なぜなら、土や岩を思い通りの形に変えることができるからだ。


「土魔法は、とても便利ですよ。かまどだって、鍋だって作れますから」


 私がそう言うと、ユリウスはさらに顔を真っ赤にして怒り出した。


「そこだ! お前は魔法をそんな下働きのようなことに使っている。貴族の誇りというものがないのか。そもそも魔法とは、もっと高尚な目的に使うものだ。私の火属性魔法のように、敵を打ち倒すためのものだぞ」

「お姉さまの振る舞いは、本当に品がないわ。台所に近づいてはならないと、お父様からきつく言われているのに、隠れてコソコソと何かを作ろうとするなんて。この前なんて、庭の隅で変な形の石を組み立てて火を燃やしていたじゃない。使用人たちが怯えていたわよ」


 イザベラがユリウスの言葉に同調した。

 この屋敷では、私が台所に入ることや、自由に料理をすることが固く禁じられていた。

 貴族としての体面を保つことを第一に考えると、たしかに貴族が料理をするなんてありえないことなのだろう。


 けれども、それが私にとって一番の不満だった。 


 前世の記憶を持つ私にとって、この世界の食事はどこか物足りなかった。

 私が食べたいのは、ほかほかの白いご飯だ。湯気が立ち上る味噌汁だ。皮がパリッと焼けた魚だ。

 あの味をもう一度楽しみたい。そのために、私は自分の土魔法を使って、理想の調理器具を作ろうとあれこれ試していたのだ。

 イザベラが言っていた変な形の石というのは、私がパンを焼くために作った即席の石窯のことだ。あれはとても良くできたと思ったのだけれど、見つかってすぐに壊されてしまった。


「それに、お前は教会にも背いている。あの気味の悪いゴーレムを、家事や遊びに使っているだろう。魔法をそんなふうに悪用するのは、異端の行いだ!」


 ユリウスが声を張り上げた。

 ゴーレム。それは、私が土と岩を集めて作った、人型の相棒のことだ。

 私は、彼にコテツという名前をつけている。

 土属性魔法の中でも、ゴーレムを作るのはたくさんの魔力と集中が必要な魔法だ。

 本来は戦場で味方を守るために使うものらしいけれど。

 しかし、コテツは少し特別だった。

 私が長く使い続けた結果、彼自身の意思を持つようになったのだ。

 言葉を話すことはないが、私の指示を正確に理解し、黙々と働いてくれる。

 重い荷物を運ぶのも、お湯を沸かすのも、掃除をするのも、文句一つ言わずにこなしてくれる、最高の相棒だ。

 とても頼りになる存在である。


「コテツちゃんは、気味の悪い土塊ではありません。とても優秀な私の相棒です」


 私が反論すると、ユリウスはあきれたように首を振った。


「相棒だと?ゴーレムを相棒と呼ぶとは、いよいよ頭がおかしくなったようだな。とにかく、お前のような異端者をこのまま置いておくわけにはいかない」

「お父様も、そう言っているわ。ねえ、お父様」


 イザベラが父の方を向いた。

 父は重い腰を上げるようにして口を開いた。


「そういうことだ。ユリウス殿は、お前ではなくイザベラを妻に迎えたいとおっしゃっている。エヴァンス家としても、ユリウス殿との繋がりは失いたくない。お前には、少しのお金を持たせてやるから、どこへでも行くがいい。その気味の悪い泥人形も一緒に連れて行け」


 父の言葉には、私への愛情は少しも感じられなかった。

 妹のイザベラとユリウスを結婚させるために、私を邪魔者として追い出す。

 そして、その理由を正当化するために、魔法を悪用したという嘘の罪を着せたのだ。

 事実無根の言いがかりだ。

 しかし、私は反論する気にはなれなかった。

 ここで言い争ってこの家に残っても、台所に入れない窮屈な生活が続くだけだ。

 それならば、この家を出て、誰も私の邪魔をしない場所へ行った方が、ずっといい。

 それに、少しのお金をもらえるというのも好都合だった。私が自分で貯めていたお金と合わせれば、当面は暮らしていけるだろう。


「わかりました。そういうことでしたら、喜んでこの家を出ていきます」


 私が深くお辞儀をしてそう言うと、三人は拍子抜けしたような顔をした。


「な、なんだその態度は。泣いて謝るかと思ったが……強がっているのか」


 ユリウスが不思議そうに言った。


「いいえ、強がりではありません。これまでお世話になりました。イザベラ、ユリウス様と仲良くね」


 私はもう一度お辞儀をして、客間を後にした。

 背後から、イザベラの勝ち誇ったような笑い声が聞こえてきたが、私の心はすでに別のことでいっぱいだった。


『ついに、自由だ。誰にも文句を言われずに、自分の好きなように料理ができるんだ』


 足取りは自然と軽くなった。

 トントンと階段を上がり、自分の小さな部屋へ戻る。

 部屋のドアを開けると、部屋の隅でじっと立っていた大きな土と岩でできた頑丈な体が動いた。

 人の背丈よりも少し大きく、無骨な形をしているが、私にとっては見慣れた姿だ。


「コテツちゃん、ただいま」


 私が声をかけると、コテツはゆっくりと近づいてきて、その大きな手を私の前に差し出した。

 何も言わないが、どうしたのかと聞いているようだ。


「あのね、私、この家を出ていくことになったの」


 私がそう言うと、コテツはぴたりと動きを止めた。


「ユリウス様との婚約もなくなったし、お父様からは追い出されちゃった。でもね、全然悲しくないの。だって、これでやっと、思い切り料理ができるようになるんだもの!」


 私が笑顔で言うと、コテツはこくりと大きく頷いた。

 彼には表情がないが、私には彼が一緒に喜んでくれているのがわかった。


「さあ、急いで荷造りをしましょう。持っていくものは……そんなにないわね」


 私は部屋の中を見渡した。

 高価なドレスや装飾品は、すべてこの家に置いていくつもりだ。

 私が持っていくのは、動きやすい簡素な服が数着と、わずかな本。それから、これまでに私がこっそりと作り溜めてきた、土魔法で作った調理器具の試作品たちだ。


「コテツちゃん、この荷物と、この鍋をお願いね。あと、そっちの棚に入っているナイフとまな板も持ってきて」


 私が指差すと、コテツはガシャン、ガシャンと足音を立てて歩き、指示されたものをひょいと持ち上げた。

 彼にとっては、大人が二人で持ち上げるような重い荷物でも、紙切れのように軽いのだろう。

 本当に頼りになる。


 荷造りをしながら、私は頭の中でこれからのことを考えた。

 父から渡されるお金と、私がこれまでにこっそり貯めていたお金。

 向かう先は、ここ王都から遠く離れた、辺境の町フロンティアがいい。

 町で買い物をした時に商人から聞いた話では、そこは色々な冒険者が集まる活気のある場所だという。

 そこなら、貴族のうるさいしきたりもないし、自由にお店を開くことができるかもしれない。

 お店を開いて、美味しい料理をたくさんの人に食べてもらう。

 それが、私の新しい目標だ。


『でも、問題は食材ね』


 私はふうと息を吐いた。

 この世界には、パンや肉、チーズなどはあるが、私の一番食べたいものがない。

 お米だ。あの、白くてツヤツヤした、甘みのあるお米。

 そして、大豆。味噌や醤油を作るためには、絶対に欠かせないものだ。


『お米と大豆がなければ、私の理想の食事は完成しない』


 頭の中には、前世で食べていた食卓の風景がはっきりと浮かんでいた。

 お茶碗に盛られたほかほかのお米。

 豆腐とわかめが入った、湯気の立つ味噌汁。

 香ばしく焼けた、脂の乗った魚。

 それらを順番に口へ運ぶときの、あの満ち足りた気持ち。

 想像しただけで、お腹がぐうと鳴りそうになる。


「コテツちゃん、私、絶対にお米とお味噌を見つけるからね。そして、世界で一番美味しいご飯を作るの」


 私が拳を握りしめて宣言すると、コテツは両手を持ち上げて、バンザイのようなポーズをとった。

 彼なりの応援のようだ。


 荷造りはあっという間に終わった。

 私は着慣れた簡素な服に着替え、小さな鞄を肩から下げた。


「よし、準備完了。行きましょうか」


 部屋を出て、廊下を歩く。

 すれ違う使用人たちは、私とコテツを見てギョッとした顔をした。

 彼らも、ユリウスやイザベラと同じように、コテツのことを気味の悪いものだと思っているのだろう。

 しかし、私にとっては大切な家族のようなものだ。


 屋敷の裏口に回ると、馬車が用意されていた。

 父が手配してくれた、おんぼろの馬車だ。

 荷台には、コテツが運んできた荷物がすでに積まれている。

 近くにいた使用人から、革の袋に入ったお金を受け取った。これが父からの手切れ金というわけだ。


「コテツちゃん、馬車の操縦をお願いしてもいい?」


 私が頼むと、コテツは運転席に座り、手綱を握った。

 彼の手つきはとても丁寧で、馬も全く怖がっていない。

 本当に、何でもできる器用な子だ。


 私は馬車の後ろを振り返り、自分が育った大きな屋敷を見上げた。

 立派な建物だが、私にとっては窮屈な鳥かごのような場所だった。


「さようなら。もう二度と戻ってくることはないわ」


 私は誰に言うともなくそうつぶやき、馬車に乗り込んだ。


「出発してちょうだい、コテツちゃん」


 私の合図とともに、コテツが手綱を揺らす。

 ヒヒーンという馬のいななきとともに、馬車はゆっくりと動き出した。


 ガタガタと揺れる馬車の中で、私は窓の外の景色を眺めた。

 王都のきれいな街並みが、少しずつ遠ざかっていく。

 これから向かう先には、どんな出会いが待っているのだろうか。

 どんな美味しい食材があるのだろうか。


 新しい生活への期待で、私の胸はワクワクと高鳴っていた。

 不安はない。私には、土魔法という力と、コテツという最強の相棒がいるのだから。


『まずは、フロンティアの町へ着いたら、住む場所を探さなくちゃ。それから、かまどを作って、鍋を用意して……』


 頭の中は、これから作る厨房のことでいっぱいだ。

 理不尽な理由で家を追い出されたというのに、私の心はどこまでも晴れやかだった。


「待っていてね、白いご飯。絶対に探し出してみせるから」


 私は窓の外に向かって、心の中で宣言をする。

 こうして、私の新しい生活が始まった。

 辺境の町へ向かう馬車は、土煙を上げながら、真っ直ぐに道を突き進んでいくのだった。



 馬車は順調に街道を進んでいた。

 王都から離れるにつれて、石畳の道は少しずつでこぼこの土の道になり、周りの景色も立派な建物から緑の多い森や草原へと変わっていく。

 太陽は空高く昇り、ぽかぽかとした暖かな光を投げかけている。


 馬車の中で揺られながら、私は鞄から小さなノートを取り出した。

 これは、私がこっそりと書き溜めていた料理の覚書だ。

 前世の記憶を頼りに、作りたい料理のレシピや、必要な食材をリストアップしてある。


 ページをめくると、そこにはたくさんの料理の名前が並んでいた。

 肉じゃが、卵焼き、天ぷら、うどん、そば、そしておにぎり。

 文字を見ているだけで、口の中にその味が広がってくるような気がする。


「肉じゃがを作るには、お肉とジャガイモと玉ねぎと……やっぱり、お醤油が必要よね。甘みは砂糖でなんとかなるとして、あのお醤油の香ばしさと塩気は、塩だけじゃ絶対に出せないわ」


 私はぶつぶつと独り言を言いながら、ノートにペンで丸をつけた。

 どんな料理を思い浮かべても、結局はそこに行き着く。

 和食の基本である、味噌と醤油。

 これがなければ、私の料理は始まらないのだ。


「この世界にも、大豆に似た豆は絶対にあるはず。気候も自然も、前世の世界とそんなに大きくは違わないもの。見つからないのは、ただ誰もそれを料理に使おうとしていないからよ」


 私はそう自分に言い聞かせた。

 この世界の人たちは、パンや肉を焼いたり煮たりして、塩やハーブで味付けをするのが一般的だ。

 豆を時間をかけて発酵させて、調味料を作るという発想がないのだろう。

 だからこそ、私が探し出さなければならない。


 馬車の前の方から、パカッ、パカッという規則正しい馬の足音が聞こえてくる。

 コテツの操縦は本当に滑らかで、おんぼろの馬車でもあまり揺れを感じない。

 普通の人が馬車を操縦すると、馬の機嫌や道の状態によってもっとガタガタと揺れるものだ。

 しかし、コテツは重さのバランスを取りながら、一番走りやすい道を選んでくれているようだ。


「コテツちゃん、疲れてない? 大丈夫?」


 私が運転席に向かって声をかけると、コテツは後ろを振り返り、大きな手をパタパタと振ってみせた。

 まだまだ元気だという合図だ。


「ありがとう。フロンティアの町まではまだ何日もかかるから、無理しないでね」


 コテツは魔法で作られた存在だから、普通の人間のようにお腹が空いたり、眠くなったりすることはない。

 しかし、彼を動かしているのは私の魔力だ。

 私が極端に疲れたり、意識を失ったりすれば、コテツも動けなくなってしまう。

 だから、私自身もしっかりと食べて、休まなければならない。


 私は鞄の中から、屋敷を出る前にこっそり持ち出してきたパンと干し肉を取り出した。

 硬いパンをかじり、塩気だけが強い干し肉を咀嚼する。


「……やっぱり、パサパサしてるわね」


 文句を言いながらも、しっかりと噛んで飲み込む。

 こんな食事とも、もうすぐお別れだ。

 フロンティアに着いたら、まずは手に入る食材で、できるだけ美味しいものを作ろう。


 食べ終わった後、私はふと窓の外を見た。

 遠くに、緑の深い森が見える。

 あの森の中には、どんな生き物が住んでいるのだろう。


「なんだか、冒険みたいで楽しくなってきたわ」


 私はふふっと笑った。

 貴族の令嬢として屋敷の中に閉じ込められていた時には、こんなふうに外の世界を自分の目で見ることなんてできなかった。

 ある意味で、理不尽な婚約破棄と追放は、私にとって最高の贈り物だったのだ。


 夕方が近づくにつれて、空は少しずつオレンジ色に染まり始めた。

 今日はこの辺りで野宿をすることになりそうだ。


「コテツちゃん、そろそろ休めそうな場所を見つけて止まってくれる?」


 私が言うと、コテツはすぐに馬車を道から少し外れた、開けた場所へと誘導した。

 馬車が止まると、コテツはひらりと地面に飛び降り、馬を木に繋いで手際よく世話を始めた。

 私は馬車から降りて、大きく伸びをした。


「うーん、空気が美味しい!」


 王都の空気とは違う、草と土の匂いがする。それは自然の匂いだった。

 私は地面に手をつき、少しだけ魔力を練り上げた。


「クリエイト」


 私が言葉に出すと同時に、地面の土がもこもこと盛り上がり、あっという間に四角いかまどの形になった。

 風を防ぎ、火を効率よく燃やせるように形を工夫してある。


 土属性魔法は、こうしてすぐに形あるものを作れるから素晴らしい。

 ユリウスはこれを泥遊びだと言ったが、私に言わせれば、これほど生活の役に立つ魔法はない。

 私はさらに魔力を込めて、今度は浅くて丸い器の形を作る。

 土の成分を固めて、火にかけても割れない頑丈な土鍋の出来上がりだ。


 コテツが近くの森から枯れ枝を拾い集めてきて、かまどの中に並べた。

 私は火打石を使って、カチカチと火を起こす。

 小さな火種が枯れ葉に移り、パチパチと音を立てて燃え広がった。


 炎の暖かさが、少しずつ冷えてきた空気を和らげてくれる。

 私はかまどの上に、さっき作った土鍋を置いた。

 水筒の水を入れて、干し肉と少しだけ持っていた野菜を細かく切って入れる。


「本当は、ここでお出汁が欲しいところなんだけどね」


 昆布やカツオの風味が恋しい。

 今は塩で味を整えるしかないのがもどかしいが、それでも温かいスープが飲めるだけマシだ。


 グツグツと鍋が煮える音を聞きながら、私は火を見つめた。

 パチッ、と木が爆ぜる音が空間に響く。

 隣には、コテツがどっしりと座っている。


「コテツちゃん、これから私たち、二人きりね」


 私が声をかけると、コテツはゆっくりと私の頭に大きな手を乗せ、ポンポンと軽く叩いた。

 無骨で硬い手だが、とても優しい動きだった。


「ふふ、ありがとう。大丈夫よ、私、絶対にお店を成功させるから。そして、みんながびっくりするような、美味しいご飯を作ってみせるわ」


 スープが煮上がり、私は木のお椀によそってふーふーと息を吹きかけながら飲んだ。

 シンプルな塩味のスープだが、外で食べる温かい食事は、屋敷の中で食べる冷めた豪華な食事よりも、ずっとずっと美味しく感じられた。


 空には、たくさんの星が輝き始めていた。

 明日もまた、馬車での長旅が続く。

 辺境の町フロンティアは、まだ遠い。


「早く着かないかな。私のお店になる場所」


 私はスープを飲み干し、お腹も心も少しだけ満たされた状態で、馬車の中へと戻った。

 毛布にくるまり、目を閉じる。


 白いご飯への思いを強く抱きながら、私は静かに眠りについた。


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