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49、海辺の町カストル 〜暗殺貴族クリスティの魔道具

 ヒルース家のご隠居様の屋敷を出た僕達は、転移屋を使ってカストルへと戻ることにした。


 帰りも、僕はガメイの妖精達がいなくなった辺りから、魔道具メガネをかけた。暗殺者ピオンが帰るのだと知らせておく方がいいと考えたためだ。このガメイ村に、ピオンを狙っていろいろ集まって来ても困るからな。


 転移屋の付近にいた盗賊達は、なぜかペコペコと僕に頭を下げている。僕が暗殺者ピオンの姿をしていれば、奴らは恐れるかと予想していたが、魔道具メガネが見せる色は全く違っていた。


 まるで英雄でも見るかのような、尊敬と畏怖の入り混じった色に染まっている。


 あぁ、そうか。僕に『盗賊』の神矢を強制的に吸収させたことで、自分達の仲間だという意識なのか。ピオンを『盗賊』に引き入れたということは、彼らにとって誇るべきことなのかもしれない。



「ヴァンさん、あの女はいませんね」


 ブラウンさんは、騙されたあのジョブ『盗賊』の女性から、お金を取り返すつもりだったらしい。


「たぶん、僕がこの姿をしているからですよ。姿を見せたら殺されると思ってるんじゃないかな」


「あぁ、確かに、そうですね……」


 僕は見た目を変えているだけなのに、ブラウンさんは何かを思い出したのか、ぶるっと震えていた。


 これは、暗殺貴族のクリスティさんが、暗殺者ピオンの伝説を作り上げている弊害だな。彼女としては、そうすることで僕を守ろうとしてくれているようだ。


 簡単には殺せない実力者だと噂を流すことで、中途半端な暗殺者は、僕の元には来ないからな。




 ◇◆◇◆◇



 転移屋を使って、カストルに戻ってきたときには、もう夜になっていた。夕食の時間は、とっくに過ぎている。


 海辺は、観光客があふれていた。暗くなったら、いつもなら、静かになるんだけどな。



「ブラウンさん、なんだか人が多いですね」


「あぁ、今夜は、ドルチェ家が海で見せ物をするそうです。カストルに行く前に、貼り紙がありましたよ?」


 えっ? そんなの見てない。


「でも、夜の海に近寄るのは危険なんですけどね」


 僕がそう言うと、なぜかブラウンさんは首を傾げた。


「ヴァンさん、ドルチェ家の見せ物ですよ? ドルチェ家といえば、異界の住人を使用人として雇っていることで有名です」


 まぁ、それは知ってる。影の世界との交流が始まるよりずっと前から、ドルチェ家の地下倉庫では、影の世界の人を雇っていた。



 ◇◇◇



 ファシルド家の別邸に戻ると、まさかの旦那様が出迎えてくれて驚いた。


「あっ、ただいま戻りました」


「うむ、ポスネルクの畑を見つけたらしいな」


 はい? もう耳に入っていたのか。ポスネルクの畑というわけでもないけど。


「雑草畑が、魔物の稚魚を育てる沼地に……」


「あぁ、わかっている」


 報告は不要だということなのか? ヒルース家の年配の女性が、すでに連絡してきたということか。



「おぉ、戻ったな。ハーシルドの死人の坊ちゃん」


 ゼクトさんが、食事の間から顔を出すと、ヒラヒラと手を動かしている。僕ではなく、ブラウンさんに?


 すると、ブラウンさんは、腰に付けていた何かをゼクトさんに渡した。魔道具だろうか。うん? もしかして……。


「ゼクトさん、もしかして、その魔道具で僕達の話を聞いていたんですか。盗聴じゃないですか」


 僕は、思わず強い言い方をしてしまった。ゼクトさんは、冷ややかな視線を僕に向ける。うー、しまった、やらかした。


「あ、ゼクトさん、すみません。つい……」


「ヴァン、やり直しだ」


「はい? やり直しとは?」


「おまえなー、俺をエールの海で溺れさせる気か?」


「へ? あー、呼び方……」


 なぜ、呼び方にこだわるんだろう。師弟関係なら、さん呼びでいいじゃないか。


「ほれ、言ってみろ。じゃないと、その問いには答えねぇからな」


 は? 子供かよ。


「えーっと、ゼクト……その魔道具は……」


 そう呼ぶと、ゼクトさんはニヤッと笑った。


「ふふん、忘れるなよ。これは、クリスティが作った盗聴の魔道具だ。普通の魔道具とは違って、周りのマナを利用しないから、絶対にバレないぜ」


 暗殺貴族クリスティさんの魔道具? 僕がピオンに姿を変える魔道具メガネも、彼女の力作だ。


「なぜ、クリスティさんの魔道具をゼクトさ……ゼクトが、ブラウンさんに渡していたんですか」


「いちいち報告するのは面倒だろ? 受信器は、俺とクリスティが持っている。今、この会話も聞こえているはずだ」


 ファシルド家の旦那様は、ゼクトさんから聞いたのか。だけど、なぜクリスティさんまで聞いてるんだ? 彼女の暗殺対象が、ガメイ村にいるということ?



「赤ノレアが王宮に、ガメイ村の別邸に住むクルース家が主犯だと報告したからな。当然、クリスティが動く案件だ」


 ゼクトさんはそう言うと、食事の間の方を向いて、手招きしている。まさか……。



「ヴァン、久しぶりねぇ〜」


 あぁ、このテンションのクリスティさんは、芝居スイッチが入っている。ファシルド家の屋敷だからだろうか。


「お久しぶりです、クリスティさん。まさかとは思いましたが……」


「ふふっ、ヴァンが21歳になったから、お祝いしなきゃと思って、来ちゃったの」


 絶対、嘘だ。こんなキャピッとした彼女は、本来の姿ではない。彼女が暗殺貴族だとは、ブラウンさんは知らないだろうな。


「ありがとうございます。ですが、僕はもう……」


「契約の鍵は、狂人に使ったのね。そうだと思ってたから、私は参加しなかったのよ」


 クリスティさんの話は、どこまでが本当だかわからない。


「あはは、そうでしたか」


 僕は、適当にごまかすような笑顔を浮かべておく。 



「私も、顔合わせ会に参加することにしたの。フロリスちゃんもフランさんも参加するって」


「えっ!? フラン様まで、ですか」


 ちょっと待って。僕が派遣執事をしているこの屋敷で、なぜ僕の妻が、伴侶探しをするんだ? 僕は、頭をガツンと殴られたような衝撃を受けた。


 僕が、あんなことを言ったから、嫌われたのだろうか。でも、ルージュの弟か妹が居てもいいと思うんだ。



「ククッ、なんか変な顔をしてるな」


 ゼクトさんは、僕をからかってるのか?


「変な顔なんてしてませんよ」


「今にも泣き出しそうだぜ、泣き虫ヴァン。フランに捨てられるとでも思ったか?」


 図星だ。だけど、僕は……。


「そんなこと思ってないよ! もう、うるさいよ、ゼクト!」


 つい、酷い言葉を言ってしまった。頭からサーッと血の気が引いていくのを感じた。だけど……。


「あはは、ヴァンに叱られちまったぜ」


 なぜかゼクトさんは、嬉しそうな顔で、僕の頭をガシガシと撫でた。


「へぇ、ヴァンってば、ますます魅力的になったわね。狂人を手懐けるなんてねー」


 そう言うと、クリスティさんは意味深な笑みを浮かべていた。


【9.3追記】

皆様いつもありがとうございます。

台風のせいか、体調不良により数日休みます。すみません。活動報告に短い理由を書いています。


【9.7追記】

長らくお待たせしております。ごめんなさい。

活動報告に書きましたが、まだ目眩が止まらず、ちょっと今週中の更新は無理っぽいです。すみません。来週からは再開できるよう調整したいと思っています。よろしくお願いします。


【9.14追記】

大変お待たせしております。

更新頻度を落として、今日か明日くらいから再開しようと考えていたのですが……明後日にはまた止まりそうなので、今日発生した台風が去ってからにしたいと思います。

まだ、目眩が止まらない状態にイラつきつつ、少しずつ書き進めております。再開は、もうしばらくお待ちいただけますよう、お願い申し上げます。ごめんなさい。


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