48、ガメイ村 〜招待状
「ぶどうの妖精が臭いと言うのは、単純なニオイだけではなく、汚れたマナを指すこともあります。複数人の魔力が混ざり合った状態を嫌うので」
僕は、言葉に気をつけながら話した。今、この部屋には、ガメイの妖精はいない。この人が現れるまでは、僕に纏わりついていたのにな。
「汚れたマナか。性質の異なる魔法発動をするとマナが乱れるね。それに転移魔法も、連続して使うと体内のマナが乱れるからさ、理由はいろいろ考えられるね」
年配の女性は、僕の意図がわかったのだろうか。数人で、コソコソとした話し合いが始まった。
僕がクルース家の使用人だと思っていた彼は、ベーレン家の生まれで、ヨルース家の人か。年配の女性の、ヨルース家がドゥ家を潰す宣言をしていたという話から、そうとしか考えられない。
そして、この年配の女性は、ヒルース家のご隠居様。彼女は、僕達にそんな情報を与えてどうするつもりだろう? 僕達を利用しようとしているのだろうか。
一連のポスネルクの件で、犯人探しになっているようだけど、このガメイ村では、ヒルース家が主犯だということになっているみたいだもんな。
でも、先入観を捨てて、冷静に判断しないと。
ファシルド家の旦那様やゼクトさんの話を思い出すと、やはりヒルース家は二つに割れている気がする。冒険者ギルドも、このガメイ村に主犯がいると思っているみたいだけど……。
犯人達を、どこかに誘き寄せられないだろうか……。
「お邪魔して申し訳ないのですが、クルース家の方はいらっしゃいますか?」
僕が、彼らのコソコソ話をぶった斬ると、ヨルース家の彼が明らかにホッとしたように見える。だが、僕は、彼が主犯、もしくは主犯に近い存在だと思っている。
彼の足元にくっついている弱い悪霊は、おそらく、ポスネルクの悪霊だ。彼は、カストル沖の小島に出入りしているのだと直感した。
まさに今、転移で行き来したことで、ガメイの妖精達には臭いと感じるのかもしれない。遅れて来たのは、再び畑に、壺の仕掛けをしたためだろうか。
「私がクルース家の者だが?」
怪訝な表情で名乗り出たのは、さっきから全く発言していない人だ。テーブル席に座っているから、このガメイ村にいる別邸の旦那様だろうな。つるんとした肌は、何よりの証拠だ。
僕は、魔法袋から封書を取り出した。クルース家の当主へと宛名が書かれたものだ。
「話し合いのお邪魔をしてすみません。ファシルド家の旦那様より、こちらをお届けするようにと預かって参りました」
「ファシルド家? また、何かを助けてくれということですかな」
彼に封書を渡すと、彼は中身を読もうともせずに、どこかへ消し去ってしまった。密書だと思ったのかもしれない。ファシルド家の旦那様は、普通の手紙の一部に密書を仕込んでいることもあるからな。
「詳細は聞いておりません。少し前に、海辺の町カストルに別邸を購入されました。顔合わせの会というものを、今回はカストルで開催されるとのことです」
「ふん、別邸を自慢したいのか。海が荒れると困るから、私の家の者を招きたいということか」
えっ、どうしよう。この旦那様は、どっちだ?
普通の貴族家なら、こんな言い方をするときはチヤホヤされたいのだろう。でもクルース家の人は、人間じゃなく人魚だよな。
すると、ブラウンさんが口を開く。
「カストルのファシルド家では、海辺の監視用に半魚人を雇っているので、その点のご心配はないかと」
えっ? 僕が雇っている形なんだけどな。ファシルド家として、魔物を雇っているというのはマズイんじゃないか。
だが、クルース家の人の表情は、若干、好意的なものに変わったと感じた。
「ふん、一応、知恵はあるらしいな。カストルの海を知る中で、知能の高い魔物は半魚人だ。どうせ薄給だろうが」
「ファシルド家の屋敷は高台にあります。地下室よりさらに低い場所に、彼らの棲家を作らせていますよ」
ちょ、そんなことまでバラすのか? 僕は、ブラウンさんに任せていいのか、ハラハラする。だが、僕達をガメイ村の調査に来させたのは、旦那様だ。
「ふん、半魚人に守られているということか。有力なナイトの貴族であっても、海には弱いらしい」
クルース家の人は、ケラケラと笑った。ファシルド家の旦那様をあざわらっているようにも聞こえたが、おそらく真逆だろうな。心を開いたのだと感じる。
ブラウンさんって、すごいな。
「では、お越しいただけますでしょうか」
僕が返事を促すと、彼は、力強く頷いた。
「へぇ、クルース家の誰を行かせるんだい? 顔合わせの会といえば、伴侶探しだよ。あぁ、あんた達も居るのかい?」
年配の女性は、ブラウンさんに何か目配せをしている。すると、ブラウンさんが口を開く。
「はい、黒服としてお手伝いをさせてもらいます。なお、ファシルド家は、お嬢様の出席が多いと聞いています。ジョブ『神矢ハンター』のお嬢様もいらっしゃるかと」
えっ? フロリスちゃん? そんな話は、初耳だ。あー、そうか。適当に、でっち上げてるのか。当日、参加してなくても言い訳はできるからな。
「神矢ハンターか、ぜひ当家と縁を結ばせたいものだな」
全く関係ない人がそんなことを言っている。まさか、招待してないのに、来る気じゃないよな。
「あんたの家とは、釣り合わないよ。神矢ハンターのお嬢さんは、確か母親がアウスレーゼ家の人だったね」
年配の女性は、フロリスちゃんの母サラ様のことまで、知っているのだろうか。
ファシルド家は、ヒルース家とは友好的だから、交流があったとしても不思議はないか。
「神官三家の血筋なら、あんたが行ってみたらどうだい? 招待状は、他にはないのかい?」
年配の女性は、ヨルース家の彼をカストルへ行かせようとしているらしい。ポスネルクを操って襲わせた犯人を、被害者であるファシルド家に行かせたいのか。
「あぁ、はい、宛名のない招待状は預かっています」
「じゃあ、それは私がもらうよ。あんた達には、荷物運びをさせたからね。適切な人に渡しておいてやるさね」
チラッとブラウンさんに視線を移すと、微かに頷いてくれた。任せておけばいいということか。
僕は、残りの招待状を彼女に渡した。
「じゃあ、よろしくお願いします。あの僕達は……」
「あぁ、忙しいんだろ。もう夜になるね。転移屋付近は物騒だから、気をつけて帰りなよ」
彼女の言葉に、ブラウンさんはピクリと反応していた。来たとき、ジョブ『盗賊』らしき女性に騙されたもんな。
「ヴァンさん、話し合いの邪魔になるから、失礼しましょう」
ブラウンさんは、そう言うと、また年配の女性と目配せをしていた。まぁ、うん、任せておけばいいよな。




