救出
いつまで経っても痛みは訪れない。
静か過ぎて私は薄目で辺りを見る。
魔獣の影は見えなかった。
あれは白昼夢だったのか?
「君は中々、無茶するよね。今回は特別だよ?」
あれは夢の中で聞いた声。
セヴィが「お姉ちゃん」と叫びながら抱きついてくる。
「もしかしてあれはアイテルの声」
「そうだよ、アイテルが助けてくれたんだ」
「セヴィもアイテルを知ってるの?」
セヴィは私の問いにうなずく。
セヴィは精霊の申し子、アイテルは精霊王。もしかしたら顔見知りなのかもしれない。
カイは呆然と魔獣がいた空間を見つめる。
アランは座り込んだまま動かない。
私は申し訳なくてスカートを握りしめる。
「リアナ、セヴィ、マリア」
お父様が慌てて私たちの元へ走ってくる。
「お父様、お母様、セヴィ。ごめんなさい。後先考えず、突っ走ってしまった。本当にごめんなさい」
涙が溢れてくる。私が後先考えないで発言し皆を危険に曝した。
傲っていたのだ。この世界が自分の知っているゲームの世界でこれから起こること全てわかると…。
神にでもなったつもりだったのだろうか。
申し訳なくて、申し訳なくて…ただただ子供のように泣いてしまった。
お母様が私の頭を撫で、「リアナが無事で良かった」と言ってくれる。
セヴィが心配そうにしてくれる。
お父様が「リアナが気にする必要はない。我々、大人の対応が悪かったのだ」と慰めてくれる。
私は優しい家族に恵まれている。
ドアが開き、屋敷の護衛が大量に入ってくる。
皆、魔獣が出るなどと予想がつかず、対応が後手へとなってしまった。
カイは拘束され、アランは何やらブツブツと「あれは何なのだ…」、「カイはどこで手に入れたのだ」と不穏な呟きをしていた。
不安なのでお父様にはお伝えはした。
まだ半日しかたっていないのに濃密である。
まさか魔獣なんか出てくるとは思っていなかったし、アイテルが私を助けてくれるとは思わなかった。
私は現実では精霊を見たことがないし、何処にいるかわからないが空に向かって手を合わせ「アイテル、ありがとうございました。助かりました」と感謝を伝えたのだった。
カイやアランからの聴取はお父様が行うため私とセヴィは部屋に戻るように指示された。
午後からの予定は全てキャンセルとなった。
その夜また夢を見た。
辺りを見渡すと以前と同じ畳の部屋に私はいた。今日は畳の香りだけではなく、焙じ茶の香りがした。
『やあ、はい。お茶』
目の前のちゃぶ台に湯飲みが置かれる。温かそうな湯気が湯飲みから立ち込める。
目の前にはやはりアイテルがいた。
『アイテル』
『君はなかなかデンジャーだね』
『はい、反省しています。でも助かりました。ありがとうございます』
『今回は特別だよ?』
お互いお茶をすする。
『でも少しずつだけど早まっているね』
『?』
アイテルは湯飲みを置き、真剣な眼差しで私を見つめる。
『これからもっと大変だよ?君は運命に逆らうんだ。今日みたいな事が沢山起こる。関わらない方が多分、幸せかも知れないよ?』
確かにそうかもしれない。
ロゼリアだってセヴィだって私が介入するのは求めていないかもしれない。
『でもやはり皆幸せにしたい。それが今の私の幸せだ』
アイテルはにっこりと『変な子』と笑った。




