番外編:バレンタインSS
『バレンタイン?
なんだ、それ?』
『異国の怪しげな風習らしいですよ。
媚薬の材料になるカカオの実を粉にした物を異性に贈り、相手が食べてくれたらカップル成立するとか。
苦味の強い薬らしいので、砂糖やハチミツ等で甘くしないと食べられないらしいんですけどね。』
媚薬の材料?
そんな風習があるのは一体、どこの国だ?
『マスターの奥様の国はどうなんでしょうかね?』
冒険者ギルドの受付のクルミンがニヤニヤしている。
俺が婚姻し、いずれギルドを辞めて嫁の国に移住する事になったと報告してからはたまに嫌みを言ってくるのだ。
このギルドを、この国を捨てる訳では無いと言ってはいるのだが。
まあ、忙しすぎるのがいけないのだろう。
『クルミン、休暇とっても良いんだぞ。』
『新人の採用時期ですので、休めないんです!
マスターはさっさと書類を終わらせて愛妻の待つ家にお帰り下さい!!』
はあ、彼女の慰労会を考えなきゃだな。
★
数日経ち家に帰ると何やら甘い匂いが充満していた。
『マティアスさん、お帰りなさい。
お疲れ様でした。』
愛しいヒロが出迎えてくれる。
『ただいま。
甘い匂いがするな。
体調はどうだ?』
『とっても元気ですよ、私もこの子も。』
ニコニコと、お腹をさするヒロ。
まだ膨らみが分かるかどうか位だ。
『そうか、良かった。』
ヒロを軽く抱きしめお腹を撫でる。
俺たちの子が宿っているのだなと不思議な心地がする。
『今日は何をしてすごしたんだ?』
『えへへ。
今日はバレンタインなんですよ。
バレンタインって知ってますか?
愛する人にカカオチョコレートを贈って愛を確かめあうんですよ。
ホットカカオ作ってみました。
飲んでくれますか?』
バレンタイン!
カカオ!!
え、苦い媚薬?!
いや、ヒロがくれるものだ。
薬だろうが媚薬だろうが口にしてみせるが。
毒は愛するヒロたちを遺して逝く訳にはいかないから勘弁してもらうが。
だが、媚薬だろ?
どの程度の作用があるか知らないが、妊婦のヒロを抱き潰してしまうかも知れなくて。
ヒロに危険が及ぶようなものは排除すべきなのだが、、。
キラキラと期待した瞳で見詰められては口にしないのも心苦しい。
ええい、ままよ!!
俺の理性が保てなくなったなら、薬が切れるまで何処かに逃亡するなり、ナイフを膝に突き立てるなりすればいいんだ!
決死の覚悟でカップの焦げ茶色の液体を口にした。
苦味は無い。
それどころか、濃厚に甘く香る。
『旨いな。』
『上手に出来たと思うんです。
お砂糖とミルクが入ってるんですよ。
体が温まるし、栄養があるんですよね。
こちらの国ではあまり見かけないから、クルミンさんに頼んで探してもらったんですよ、カカオの粉。』
『クルミンに?』
『はい!
バレンタインのプレゼントにしたいって相談してたんです。
子供の頃から飲んでたから、私大好きなんですよね。』
は?
子供の頃から、、?
『媚薬の材料だろう?!』
『え、媚薬の材料ですか?
昔はそんな話もあった気がしますけど、現在手に入るカカオの粉は子供でも口に出来る物ですよ?』
くぅ~!!
クルミンに騙されたのか、俺?!
『はぁ、まあ分かった。
旨いよ、ヒロ。
口付けしても良いか?』
『いつでもどうぞ!』
口付けはカカオチョコレートの味がした。




