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第三話『霧中』


「迷った・・・」


最初は水を探して森を歩いて見つけた霧に誘われた。だがそれは大きな間違いだった、少しずつ霧は濃くなって今じゃ何処からきたか、もうさっぱり。


「動けないからって焦るな、今することは落ち着くことなんだ。ふぅ…心を乱すな、死ぬぞ」


そう深く深呼吸をしながら、【解析】を強く意識。霧を透視する様に強く観察する。

 目に薄くパチパチと弾ける様な感覚が走る度に少しずつ見える様になったのは、濃度が高くまるで触手の様な霧だった。周りに紛れかなり分かりにくい。


(あれか)


霧は少しずつずれ、いやより深く潜ろうとしている様だ。気づかれたとバレたか。

 だがその瞬間「ふっ!」と強く夢喰いを振るい霧を裂く、一寸先も見通せなかった壁の様な霧が一瞬で周囲に飲まれる様に薄まる。多分切り裂いた程度じゃ急がないとまたすぐもとに戻るだろう。


「はっ、はっ、はっ」


腕を振るい足を進め霧中を駆ける度に、少しずつ先が見えるように霧が薄く減っていく。息は少し苦しいが気力は溢れている、踏み込む度に大地の活力を吸うことでいつまでも走り続けられそうだ。


「はぁはぁはぁ、すぅはぁ。よし…………霧の先でも桃源郷には程遠いな」


更に進んで見えた景色は――

 森の左右に反りたつ巨大な断崖やひどく割れ波打つ地形。周囲の木の三倍は確実な、崖から飛び出す根とその間に点在するどどめ色としか言い様の無い大沼。無数の蔓が地面を縛り、岩を引っ提げている。

――そんな普段なら近づこうとも思わないおかしな地形。そこに異様に近い雲いや霧か?断崖から上が見えないからまるで谷底だ。


「ここに飲み食い出来そうな物は無いな、匂いは無くても毒でもありそうだ」


先が見えた丘の様な場所から坂を下って目に入ったのは、無数の蔓。

 それに折れた木や石が吊り上げられて、まるでバリケードだ。どうもこの先には行かせたくない、そんな風に感じる。そう言えば植物もそうだが特に霧だ、薄く霧が貼られてやけに重くジメっとする。

 でもそれほど寒くはないな。


「長いし広いな……行くか……」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


歩き初めて一時間くらいかそこらたったあと、この身体にもようやくこなれてきた。素で一メートルも跳べる身体だ。イメージ出来る身体とのギャップが薄れるのも時間がかかると思ったが、こんな被災地みたいな地面がちょうど良いサポーターになってくれた。


「やっと刃を真っ直ぐ振り下ろせる様になったな」


白の絵の具に近い色の濃い霧の触手が藍色の蔓や黒い岩ごと、空間にのたうち回りそして地面に強く絡んでいる。

 それを切って、切って、切る。なれてきたのか今じゃもう蔓の断面はツルツルだ、何度か【錬金術】で刃のヒビを直したけど。

 

剣道は習ってないから効率の良い全身の使い方何て分からないが、肉体の精密操作はそれなりに意思しなくても出来る様になった。もう、つい気がそれて無造作に振るって蔓でつり上がった岩にあたっても、刃にヒビが入らない位に押さえられる。


夢喰いの軟化は魔力を柔らかくして取り込む、まあ歯みたいな効果で岩にはなんの効果もなかった。


やっぱり魔剣みたいな物でも刃の材質が石だからか、それなりに脆かった。早く鉄とか金属でも見つけたい。

 でもこの辺りの素材はあんまり魔力を流し難くて、無理すると脆くなったり爆発したりで使えないしなぁ。早くどっか集中できる場所にいきたい。

 

周囲の材料は使えないから刃に無理させない様に斬撃の引き延ばし方も覚えた。魔力と言うのはかなり応用が効く力で。それなりの練習で、イメージと共に振るえば見えない刃が蔓を断つ。


「まだいけるーなんて行ってたらヤバいな、ふぅ…少し休憩するか」


まあ大雑把に三十分かそこら少し進んでようやく平地に出る、ここで少し休むことにした。それに今の俺の自衛能力にそんなに自信は無い、疲れてればなおのことそうだろう。


周りを見渡すと何本かの獣道が繋がってるのがわかる。その獣道に何処かしら踏みしめた痕がみえる、近くに人がいるのか?


「獣道か…それにしては動物とか一切見なかったな」


今まではまともな環境ではなかったからそこまで思わなかったが。痕跡がはっきりわかると、人に会える希望が強く沸き上がる。


「この辺なら何か居るかも。いつまでも刃が剥き出しのままだと嫌だし」


その辺の大きめの岩に腰をかけ、目を閉じて気を立てる。……やっぱり心臓の鼓動以外何も聞こえない。そう虫の声や生物の音も自然ならありふれる物が何も、

この森はまるで死体だ。そんなことを考えながら目を開けると、―――おかしい。


「何処か、切って繋げたみたいな…」


目立たない様になっているが、やっぱりそうだ。しゃがみながら地面に手をついて近くで見ると、地面の色が途中から唐突もなく変わっている。地面がまるでフランケンシュタインの怪物みたいに継ぎ接ぎになっていた。


「とりあえず、誰か見つけないと」


意識がより強く張りつめる。【解析】も【補助魔法】で聴覚を高め、【夢魔法】を使って意識を強く集中する。

 

「━━━━っ!」


遠くからザッと林を開く様なほんの小さな音が聞こえた。そこからは特に何も考えなかった、いや、考えることさえ惜しかった。何か危険あるとかそんなことよりも一人がずっと嫌だったんだ。


「あーうん。これはちょっときつい」


林を抜けた先は、所々に大岩とそれに食い込んだ根が生い茂っている。それは何処から見ても崖でしかない。

 道を間違えたかとまた戻って違う道を探す、薄まった霧で周りがわかるが何処から出ても同じように崖、崖、崖。

 繰り返し過ぎて方向感覚がもう滅茶苦茶だ。


「いったいなんなんだ? 罠にしても変だぞ」


今度は近くからまた音が聞こえた。少し露骨すぎやしないかと近づいていく。

 それなりに林で身を隠しながら進むと、遠目で少女が見えた。やっぱり人がいたと林から出て多分驚くだろう少女に落着かせる言葉を考えながら近づいていくと。




「━━━化物っ!」


とそんな自己に向けられた様な悲鳴の言葉が心を一気に冷ました。まるでヒビが入る様な痛みが急に顔に走る、だがそんなことよりも。目の前の異様な光景に顔を強くひきつらせた。理由は目の前の少女の腹、それが音もなく斬れたからだ。


「━━━っ!」


姿の無い化物から守ろうと言葉も無しに抱えようと触れるが只すり抜けるばかり。

 気づけば少女は崖に寄りかかる様に崩れ落ちていた、顔色もどんどん悪くなってそのまま吹き消された様に亡くなっていくのを見ていることしか出来ない。少女の残した血も肉も全てが光となって消えていく。

 そして擦り傷だらけの、また焦る様な顔で何かを摘む少女の姿が再生された。


「幽霊、か」


ただ繰り返すそれを見るたびに心が叫んでいた。こぼれる臓腑が、噴き出す血球が、目に反射する度に。━━とても 悔しい(懐かしい)


「何も知らないけど。…けども!こんなっ…こんなのおかしいだろ!」


繰り返す姿の虚しさからかつい少女の魂(残光)に触れた。その瞬間複数の儚い記憶と守れなかったと言う強い怒りが伝わってくる。そして浮かびかけた彼女の姿が見えなくなった瞬間、残光は俺に吸い込まれる様に消えた。


「えっ? とりつかれた?…もしかして取りつかれ…てはないの、か?」


慌てて身体を探るも違和感なく、ほんの少しの知識だけ残して消えてしまった様だった。

 心は荒れまくりだし、無謀に走り回ってぜんぜん休めもない。それでも。


「ありがとうございました。━━よし、崖の上か」


記憶には元はこの場所は崖下らしい、それに霧に空いた穴の様なこの場所のお陰もあって最初よりわかることは。元の場所にはここから真っ直ぐには戻れない訳だ。


「水探しがまさかこんなことになるなんて、今日は不運だな」


 道の繋がりや土地の形を無理矢理集められて、誰かにこんな風にされている。生き物がいないのもその誰かのせいかもしれない。それでも今わかる道先は上だ。


「よいっしょ!っと」


━━バキッ━━岩に、木に、指をかける。

彼女の魂が教えてくれたおかげで、ようやく魔力操作のイメージが補完できた。魔力は使い方次第でほぼ万能だ。

 魔力をスキルの燃料や送信機にするだけじゃなく、魔力自体の操作も出来れば登山道具変わりにもなる。

 身体の硬度を上げて簡単に崖登りが出来るのはこの性質による物だろう。


「|ふぇほふぇっほうごふごふふぃててたふかっはー《けど結構ゴツゴツしてて助かったぁー》」


夢喰いを咥えながら、それなりに登りやすい断崖を登って行く。何個か大岩や木が崖に食い込んで広い凹凸があるから所々で休憩が出来るのもよし。

 やっぱり風は全くない。あおられて落ちる心配は無いのはいいけど、彼女と出会った辺りから霧はほとんど無かったのにまだ乾かない。

 クッソ重たい霧に濡れた身体が重い、滑らない様に一々指を食い込ませるのも大変だ。使い続けるのはなかなか慣れなくて、やり過ぎると集中からか防護服が途切れそうになる。


木や岩が多くそれで影になっている域を越えると上の曇天に空いた穴が見える、まあ何も無しに霧に空いた穴なんて物も慣れたな。手の感覚だけを頼りに進まなくても良さそうだ。


「うぅぅーっと。後もう少しって何処か。いつまでも咥えてる訳にもいかないしそろそろ鞘でも…うん?」


そんなことを口にしながら下を見ると渦を巻く様に霧が集まっている。


「…悪いけどもう少し待ってもらおうかな」


 霧の動きは彼女が消えたからか?と思いながら、手足を軽く回す。その瞬間身体にコントロール出来る程度に【補助魔法】をかけると手足はより鋭く変わり、何処か獣じみたしなやかさで一気に崖を翔る様に登り上がった。

 

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