◆36
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やがて、一つの扉にたどり着いた。
「なんとなくだけど、この先にジークフリート将軍がいる気がするね。ここが迷宮探索の終着点だって勘が告げている」
勘ではあるが、【司令】と【主動頭首】によって強化されたカイルの直感は当たるものだ。
「風の流れも、ここが最深部であると告げていますな」
アヤメも首肯する。
「とうとう主とのご対面ってやつだね。はぁー長い探索だったよ」
「レナス、戦いで油断はしないでね」
「分かってるよ。精一杯戦うよ」
レナスはうざったそうに手をひらひらさせる。
その行為自体がうざいが、あえてカイルは触れなかった。
「やっと私の本領発揮だな。長かったぞ!」
セシリアは対照的に張り切っている。
「みんな、準備はいいかい?」
「いいよ!」
レナスの声を聞くと、「いざ!」とカイルは扉を開けた。
中に入った瞬間、猛烈な勢いで誰かが槍を繰り出してきた。
「うわっ!」
カイルはとっさに避け、片手剣を抜く。
もう片方の手には電光の杖。
「やはり冒険者カイルか、密偵からお前が従軍しているとは聞いてはいたが、本当にこの迷宮に挑戦してくるとはな!」
言いながら猛攻を繰り出すのは、おそらくジークフリート将軍その人。どうもカイルのことを聞き及んでいるようだ。
そしてジークフリートの容姿。
浅黒い肌。筋骨のたくましさ。低い声。
事前にドレイクから聞いていた風貌と合致している。
「くっ!」
突然の奇襲から防戦になるカイル。
しかしすぐに持ち直す。
セシリアらの援護で。
「卑怯だぞジークフリート、出入りの間際を狙うとは!」
「戦場に卑怯も何もない、危険な人間から奇襲で潰すのは当然のことだ!」
将軍はカイルを集中的に攻撃しながら反論する。
しかしそこでカイルはあることに気が付いた。
「危険な人間? そうか、僕が四大魔道具を持っているからか!」
バリスタセットと電光の杖。特に魔法人形を一撃で壊すほどの火力を持つ後者は、ジークフリートにとって危険そのものなのであろう。
もっとも、どちらも行使するためには、一瞬ではあるが高度な集中を要する。
その集中の時間を与えないために、ひたすら攻勢に回っているのだろう。
しかし、初動でカイルを討ち取れなかったのは、彼にとって失敗だったに違いない。
「カイル殿!」
仲間たち、特に【武芸者】セシリアから反撃を受け、ジークフリートの奇襲は失敗に終わった。
「卑劣な奴め、将軍の名を冠しておいて恥ずかしくないのか!」
しかしジークフリートは答えない。
強引にセシリアたちを押し返し、カイルへ向かおうとする。
カイルもなかなか四大魔道具による攻撃に回ることができなかった。
余裕がない。ジークフリートの攻勢は猛烈で、いつパーティによる包囲を突破してくるか
分からなかったのだ。
だが。
「カイル殿、ここは私たちが責任を持って押しとどめる、早く魔道具を!」
その声で、カイルは自分が何をすべきか、改めて自覚した。
いまのカイルは、四大魔道具の砲台。その役を全うすべきだ!
「バリスタよ!」
斥力を引き出して、ジークフリートを壁にまで飛ばし、叩きつける。
「がはっ!」
「電光の杖よ!」
続いて本命の攻撃。一瞬の発光ののち、閃光と轟音、撃砕の主砲が放たれる。
「ぐあぁ!」
直撃を受けたジークフリートは、その場に倒れ伏した。
「はあ、はあ」
「……生体反応は止まったようですな」
アヤメはジークフリートの脈拍などを確認する。
「我らの勝ちですぞ」
「はあ、はあ、やったのか」
「やったみたいだよ。私たちの勝ち!」
あっけない幕切れだった。
いや、少し違う。初動の奇襲が失敗した時点で、ジークフリートは四大魔道具を三つ持っているカイルに勝つ見込みがなくなった。そこからこうなるのは誰もが予想できることだった。
「この迷宮は魔道具で造られたものです。その主が倒れたのですから、まもなく迷宮が消滅して、我らは入口のあった場所に戻りますぞ」
「ジークフリート将軍を弔う余裕もないのか……」
「然り。すぐに戻りますぞ」
カイルがしばし目を閉じて黙とうをし、また開くと、言うとおり入口のあった場所に戻っていた。
迷宮は跡形もなく消えていた。
カイルが留守番の兵士に迷宮の踏破を告げると、すぐに事務次官ドレイクが駆けてきた。
「カイル殿、ご無事ですか!」
「ドレイク殿、僕たちは無事です。迷宮を攻略しました」
カイルは落ち着いて報告する。
「そちらの戦況はどうでしたか」
「別の進路を進んでいた、敵の本軍は打ち破りました。この道の先にいた敵の軍団も、本軍敗走の報せを聞いて退却しているようです」
「つまり、戦いは」
「はい。我らの勝利で終わりました。……もっとも、反攻に転じて敵の領地に攻め入る余裕は、さすがにありませんが」
「よかった……」
カイルらにとって、迷宮攻略も任務ではあったが、最終的な目標は戦争の終結であった。
そしてジークフリートの迷宮も攻略し、合戦も終結した以上、カイルにとってはひとまず課題がなくなったといえる。
「これから我らは引き揚げます。急ですみませんが、忘れ物などなきよう」
「分かりました」
彼はただうなずいた。
引き揚げたカイルらは、約束通り褒美として除却の指輪を手に入れた。
彼らは館を引き払い、久しぶりに彼の自宅に戻る。
「これが除却の指輪かあ」
「敵の帯びた魔道具の効果を打ち消すらしいですぞ。古い文献でそう見た記憶がありますし、鑑定によってもどうやらそれは正しいようです」
「ふーん、へえ、うん」
指輪の簡素な装飾をいじりながら、カイルは達成感を味わう。
するとレナス。
「ギルドから報奨金も出たし、しばらくはゆったりできるね」
「そうだね。冒険者としての使命は全て果たした。ギルドの理事長も直々に面会して、快挙だと称賛してくれた。……だけど気がかりな点がある」
彼は腕を組んだ。
「勇者が魔王を討伐する気配がない」
「……つまり、例えば私たちに補助を依頼されるかもしれないってこと?」
「その通り。さっきドレイク殿に聞いたところ、勇者はどうも何もできないみたいだ。仲間がいないから」
「まあ、あの勇者じゃね……」
レナスは渋い表情。
「どちらにしても、補助を依頼される可能性はある。なにせ僕たちは冒険者として『アガリ』に到達してしまったからね。暇だと思われる余地は大きいし、お金の蓄えが減るまでは実際に暇だ」
「勇者ミレディ殿は、いま何をしているのだろう」
セシリアが率直な疑問を口にする。
「それも多少気にかかることだけど、まあどうにかしているだろうね」
「どうにかしている、って」
「酒浸りとかじゃなければいいけどね。僕もかつては勇者一党にいた身だから、その程度は心配するよ」
「心配って、お金を何度か巻き上げたでしょ……」
「それは、どれも仕方がないことさ。まあ、依頼が来てから考えよう」
カイルは適当な気分だった。




