◆34
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無事にトラバサミ地帯を抜け、彼らは再び土の床の区域に入った。
「やっぱりあの芝はトラバサミを隠すためだったんだね」
カイルは沈黙がちな仲間たちに話しかける。
「そうだね。しかし魔法人形に見つからなくてよかったよ。あの罠だらけのところで戦闘なんて考えたくもない」
レナスは明るく返すが、残り二人は軽く微笑しつつも積極的に会話に参加しない。
想像以上に二人は体力を消耗しているようだ。否、レナスも本当は疲れているに違いない。なにせアヤメと一緒ではあるが、罠解除の主役だったのだから。
とはいえ、ここで休むわけにもいかない。忘れてはいけないが、この迷宮の攻略は合戦中の任務、遅れて味方が窮地に陥れば大変なことになる。
ドレイクから聞いた限りでは戦況は悪くなさそうだが、いつ状況が変わるとも知れない。
「アヤメさん、セシリアさん、栄養水薬を飲むかい?」
彼は在庫の水薬を思い出し、声をかける。
「おお、ありがたい」
「それはいいな。ありがたくちょうだいしたい」
「レナス、渡してあげて」
「私も飲みたい!」
「分かった。一人一つだからね。……ああ、僕は要らないよ」
カイルは首を振る。
「えっなんで? カイル君もお疲れじゃないの?」
「僕には【司令】のほかに【主動頭首】も効いているから、持久力はレナスたちより高いんだ。まったく天性がそろうと困っちゃうなあ。か弱いレナスよりずっと困っちゃうなあ」
「もう! 他人をあおって!」
レナスはふくれ面をする。
カイルは冗談を言ったが、実際、彼も疲れてはいた。
しかしリーダーとして、弱いところを見せるわけにはいかない。
やせ我慢であった。
「じゃあ私たち三人で、女の子の栄養水薬を頂きます」
「女の子かどうかは関係ないと思う」
カイルは冷静に突っ込みながら、近くの段差に腰かけた。
やがて、石造りの部屋にたどり着いた。
目の前には階段が二つある。
「罠かな?」
「たぶん罠だね」
カイルとレナスがうなずき合う。
「さて、片方は正解だとして、もう片方はどこにつながっているのかな」
カイルは冗談交じりに言ったのだが、真面目に答えた者がいた。
「右側の階段は転移の罠ですな。道をしばらく戻ることになるようです。正解は左側と思料しまする」
アヤメである。
「おや、そうだったのか。レナスは?」
「私は確かに【罠解除師初級】だよ。けど、仮に転移の罠だとすると、そういう種類の罠は解除できないから、実のところよく分からない。ごめん」
しおらしく頭を下げるレナス。
「おっと、すまないことを聞いたね」
柄にもない素直ぶりに驚きつつ、カイルは二つの階段を見る。
しかし、レナスは反問する。
「で、【司令】と【主動頭首】の頭首様はいかがお考えですか、カイル閣下、二つも有効な天性を持っているなら、さぞ丸わかりでしょうなあカイル閣下」
反問というより皮肉だった。
自分に答えられない質問をぶつけたことに、軽く不満でもあったのだろう。
「エェ……僕の天性はそういうものじゃないし。まあしいて言うなら、アヤメさんの所見が正しい気がする。右側の階段は、なんかわずかにゆがんで見える」
「なるほど。カイル殿の天性だとそう見えるのですな」
「違うのかい?」
「私の鑑定によれば、右側の階段は明らかに危険な『色』を放っております。色というのは見た目のことではなく、なんというか、直感が視覚に訴えかけているというか、そういう感じですな」
「へえ。そういう感じ方なのか。……いずれにしても、左側が正解ということだね」
「それがしもそう思いまする」
意見が一致したところで、カイルはうなずいた。
「よし、じゃあ左側の階段を行こう」
彼は再び歩き出した。
それからしばらくして。
「魔法人形が増えてきたね」
巡回している魔法人形が頻繁に目につくようになってきた。
二メイル近い身長。土の身体を持ち、屈強そうな造りをしている、というより事実として大きな力を発揮できる、敵に回すと厄介な存在。
「そうだな。見つからないようにしよう」
とセシリア。
「私としては別に見つかっていいけどね」
「何を言っているんだレナス」
「だって、ここまでずっと、戦い、していないじゃん。仮にも合戦の最中なのに。それでもって私たちは冒険者で、戦いは冒険者の華なのに」
「いきなり物騒な……それに戦いを望むなんてレナスらしくもない」
カイルはあきれて言った。
「私だって命のやり取りは頻繁にはしたくないよ。けどさあ、魔法人形の目を気にしてかいくぐりつつ、罠を解除しているだけじゃ不満もたまるよ」
「だからって命のやり取りを望むのは……」
「たまにはパーッと暴れたいよ」
まるで酒場に行くような調子で、パーッと身振りをするレナス。
しかしそこへ。
「まあ気持ちは分かるな」
なんとセシリアが賛同。
「セシリアさんまで。あなたは止める側の人だと思っていたのに」
「いや、私もたまには大暴れしたい。私はレナス殿とも違って、罠の解除もできなかったからな。正直、対・魔法人形の見張りしかしていない」
「みんな血の気が多いなあ」
苦労するリーダーは頭をかく。
しかしそのとき。
「……しまった、皆様、魔法人形に見つかり申した!」
見やると、通路の奥から魔法人形がこちらを見ていた。
ドスンドスンと、地面を響かせながらこちらに駆けてくる魔法人形。
「くっ、戦うしかないのか!」
カイルらが武器をとる。
カイルは自分の剣だけではなく、電光の杖も構える。腕にはバリスタの腕輪セット。
四大魔道具を得たものだけができる、豪華な装備。
しかしそれを誇っている場合ではない。目の前まで迫った魔法人形は、その剛腕を振り回す。
「おっと!」
避けるカイル。
「ホホーイ、久々の戦いだ!」
はしゃぐように剣で斬りかかるレナス。
しかし、その剣はなかなか通らない。魔法人形は決して無傷ではないが、大きなダメージも与えられずに剣を止める。
「くっ、こいつめ、こしゃくな!」
悪態をつきつつ、レナスは剣を魔法人形から抜く。
「『こしゃくな』って、レナスは本当に若い人なの?」
「エェ、私をおばさん扱いして、本当にカイル君は失礼なんだから!」
「エェ……誰もが突っ込むところだと思うけど」
言いつつ、剣があまり効かないのを確認したカイルは。
「みんな離れて、これで一撃放つよ」
電光の杖を構えると、仲間たちは魔法人形から距離を取る。
「食らえ……電光の杖よ!」
杖に呼びかけると、一瞬だけわずかな電気が弾けた後に、杖から閃光がほとばしる。
それは魔法人形に直撃し、派手な音を立てて人形を撃ち砕く。
再び静寂が戻った後、そこには大破し、機能を停止した魔法人形が残った。
「……はぁー、あっという間だったね」
レナスが感心するように杖を見る。
「本当に機能停止しているかな?」
「間違いないですぞ。鑑定したところ、この魔法人形はもはや残骸でしかありませぬ」
アヤメが答える。
「そうか。それならよかった」
「よかったのかなあ?」
レナスが口をはさむ。
「よくないのかい?」
「だって私、暴れ足りないよ」
「そうはいっても、レナスの剣の攻撃はあまり効いていなかったじゃないか」
「でも全く効かなかったわけじゃない。セシリアさんもそう思わない?」
彼女はセシリアを向いて尋ねる。
「……まあ、私が役に立てるのは戦闘だけだから、こうもあっけなく終わると面目が立たないのは確かだな」
「ほら! やっぱり!」
「そうは言っても、せっかく電光の杖で片づけられるのに、使わないのもなんかなあ」
「それはその通りだ。無理に戦闘で見せ場を作ってほしいとまでは思わない」
「もう! セシリアさんの裏切り者!」
「もういいかい、いまはあくまで合戦の最中、迷宮攻略の最中だから、駄弁っている暇はないよ」
「もう!」
レナスはふくれ面をしながら、進行を再開した。




