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◆29

◆29


 数日後。

 最後の四大魔道具の情報収集をしていたアヤメは、ついでに勇者パーティの動向を注意深く探っていた。

 本来的な任務ではない。四大魔道具探しに必須かというとそうでもない。

 しかし、ミレディはあの性格である。

 カイル一党が三つ目の四大魔道具を獲得し、多額の報償金が出たことはもはや公知の事実。ギルド側は口止めをしていないし、通常はする必要もない。アヤメはそこを責める気はないが、しかし、ミレディがそれを聞きつけることは充分にありうるだろう。

 それを知った彼女が何をするか?

 何度も言うがミレディはあの性格である。報奨金、少なくともその一部を、なんやかや理由を付けて巻き上げようとするのではないか?

 いや、勇者の剣と交換に駄賃を巻き上げたり、因縁をつけてきた勇者から逆に賠償金を巻き上げたりしたカイルのパーティが責められることではないかもしれない。

 しかし、誰が悪いのかとは別の問題として、大金を手にした一行に恐喝を仕掛けてくるおそれは否定できない。

 またもや戦闘ともなれば面倒だ。

 ……しかし。

「勇者が何しているかって?」

 以前顔を合わせた冒険者バーツは、その顔の傷をかきながら答えた。

「確か勇者一党は事実上解散したって聞いたぞ」

「解散? 魔王を倒したのでござるか?」

「いや、そうじゃない。大変言いにくいが、その」

「どうなさった」

「ううむ、一言でいえば、きみらもおそらくだが、その、深く関与している」

「我らがですか……?」

 いわく。

 勇者の剣を買う羽目になったり、パーティ同士の真剣勝負で負けたりと、みじめな敗北を重ねた勇者パーティ。その評判は地に落ち、仲間が抜け、代わりの補充もままならず、ついに勇者ミレディ一人となった。

 人望は失われた。勇者の名誉は失墜し、それにより勇者に協力する仲間もいなくなった。

 金銭等の提供者、スポンサーはまだ少しはついているらしいが、それも「お義理」によるものと解したほうがよさそうだ。

 そして、スポンサーはついているものの、現に旅をともにする仲間は一向に集まらず、ミレディの進退は窮まっているようだ。

「後ろ盾のほうも仲間集めに協力しているみたいだけども、なかなか上手くいかないらしい」

「なるほど、勇者は現在、単独であると」

 ならば襲われる心配もない。

 そう考えたアヤメは、しかし。

「そうなると魔王討伐もおぼつかなさそうでございますな」

「そうだな。彼女に一人旅の素質がなければ、なかなか、だろうな」

 冒険者でも、一人旅をしている者はそれほど多くない。難しいからである。

 旅の全てを一人でまかなう必要がある。多芸でないと務まらない。そこには天性の傾向など関係なく、必要なこと全てを単独で行える必要がある。

 目の前のバーツは、むしろその適性が充分にある天才とされているようだが、それは希少な例である。

 普通は各方面の専門家を束ねたほうが早いし、効率的でもあるので、単独行動は冒険者の中では少ないということになる。

 ともあれ、魔王討伐が遠のくとなると、困るのは冒険者を含む一般人。

 悪の首領である魔王を、結果的にであるが延命または増長させるのは、いかにもまずい。

 少しやりすぎたようだ。

 反省したアヤメは「バーツ殿、貴重な情報をありがとうございまする」と少しの金銭を渡すと、カイルに報告すべくその場を離れた。


 その報告を聞いて、カイルは。

「うぅん、確かに魔王討伐が遠のくのは困るけどさあ」

 自分たちのせいにしないでほしいと内心思った。

「それ、ミレディの自業自得じゃないかな」

「それは……そういう見方もあるとは思いまするが」

 思いのほか強気の反応を見たアヤメは、多少たじろいでいるようだ。

「ああ、ごめん。アヤメさんは何も悪くないよ。ただミレディがまた勝手に何かされると困るからさ」

「むむ……」

 カイルはなだめつつも、自分がこうもミレディに苛酷な態度を取るのは、勇者パーティを追放されたことがやはり大きいのだろうと、表情には出さずに感じていた。

 勇者パーティに未練があるわけではない。冒険者になってからのほうが明らかに成功している。四大魔道具のうち三つを手中に収め、全ての制覇に手が届きそうになっているというのは、快挙かどうかはさておき、一定の成果には違いない。

 未練とは違う。自分の居場所を、カイル自身も分かっていたとはいえ、ミレディはいともたやすく奪い去って、埋め合わせもなく野に放った。

 そう、自分がお荷物なのはカイル自身も分かっていた。それでもって、自分の天性がミレディのリーダーの座を脅かしていたのも知っていた。

 しかし、それでも追放という敵意の塊のような仕打ちを受ければ、ミレディに大きな悪感情しか残らないのは当然ではないか。それは未練とは言わない。

 もっとも、魔王討伐が遠のくのは確かに困る。

 困るが、いまのカイルにはどうしてやることもできない。

 否、カイルがわざわざどうにかしてやる気は起きない。

「カイル殿、やはりミレディを未だ許してはいないのでござろうか」

「許しているか、いないかでいえば、許していないね。でも僕は、ミレディへの干渉は最小限にしてきたつもりだよ。勇者の剣の一件は、確かに僕たちから接触したようなものだけど、四大魔道具を巻き上げようとした件では、僕たちは正真正銘何もしていない。ただ火の粉を払っただけだ」

「カイル殿……」

「まあ確かに、結果的にではあるけど、僕たちはミレディが進退窮まることに少なからず関与しているんだろう。それは認めなければならない。でも勇者のそういった現状に責任を感じる必要はない、と僕は思うよ」

 彼はあくまで穏やかに話を進める。

「勇者は勇者、僕たちは僕たちだ。分けて、割り切って考えないと」

 アヤメは「そうですな……」とどこか悲しげにうなずいた。


 一方、同じく情報収集に出ていたレナスは、きな臭さを感じていた。

 合戦が始まるという噂を耳にした。

 レナスは政治に疎い。連合王国を中心とした国際関係はよく知らない。詳しい冒険者もいるが、基本的に外交関係までは知らなくても、大多数の冒険者の生活には困らない。

 しかし、噂を聞いてから注意深く観察すると、やはりきな臭いものがある。

 輸送隊が城に物資を運ぶ頻度が、明らかに多くなっている。兵士たちが武装したまま城を出入りし、街を歩き回る姿を頻繁に見るようになった。街の警察軍についても、最近取り締まりの様子が厳しくなったように感じる。

 これらが指し示すものはただ一つ、合戦の気配にあるのではないか。

 レナスは確信すると、カイルのもとへ報告に向かった。


 最近のカイルは、面倒臭い報告ばかり受ける。彼自身はそう感じている。

「勇者関連の次は合戦か。やっかいごとは続くねえ」

「勇者関連?」

 彼はレナスに、アヤメから聞いた勇者の最近の動向について伝えた。

「ほえ、そんなことがあったんだ」

「少なくとも客観的に、勇者の落ちぶれぶりに、僕たちが多かれ少なかれ関与しているのは、まあ認めざるをえない。だけど僕たちのせいで、といえるかといえば、全くもって責任転嫁としかいいようがない」

「そうかなあ」

「そうだよ。僕たちは何も悪くない。勇者の代わりに剣を取ってきてあげて、手間賃を頂いたことも、四大魔道具を巻き上げようとした勇者に抵抗したことも、僕たちが正しい」

「まあ、そういうならそうなんだろうけど」

 レナスは困惑気味ではあるが、同調するようだ。

「それより合戦の気配って、そっちのほうがやっかいだよ」

「移動制限とかそういうこと?」

「いや……たぶんそれ以上だ」

 カイルは腕を組む。知らず、柄にもなく眉間に力が入る。

「いまの僕たちは四大魔道具のうち三つを支配している。率直にいうと、それで合戦への協力を連合王国から要請される可能性が、ないとはいえない。いや、それだけじゃない」

 彼は唇を噛んだ。

「僕たちが持っている魔道具を没収されるおそれすらある」

「戦いのために?」

「ああ。そうなったら、今度は返してもらうための行動を始める必要がある。場合によっては……敵国に寝返ってでも」

 彼の眼光が一瞬鋭くなった。

 が、すぐに緩む。

「……まあ、これはあくまで最悪の筋書き。実際はそうはならないと思う」

「なぜ?」

 冷静な声で続ける。

「魔道具を召し上げるより、僕たちに協力を要請したほうが穏便だからだよ」

 実際、カイルも自分の悲観的で過激な発想を、内心反省していた。

「うーん」

 彼は事もなげに続ける。

「だってそうだろう。四大魔道具は冒険者、ひいては冒険者ギルドの悲願。下手に没収したら、連合王国はギルドと業界を敵に回すことになるよね」

「そうかも、しれない」

「それだったら、僕たちに協力を願ったり命令したりして、四大魔道具ごと僕たちを動かしたほうがよほど波風が立たないよ」

 彼は淡々と説明する。

「まあ、その場合でもやっかいには違いないけどね。なにせ合戦に参加するんだから」

「いや、戦いは冒険者につきものだよ、それなら私たちも慣れてるよ。……なるほど、それならいつかの勇者の剣みたいに、手間賃をもらいつつ協力するのが、まあまあの答えだよね」

「その間、四大魔道具集めはちょっと止まるけど、まあ仕方がない」

「……それについて一瞬思ったんだけど……」

「どうしたんだい?」

 彼女はあごに手を当てる。

「これは、私の勘というか、漠然とした予感でしかないけど」

「うん」

「この合戦と最後の魔道具……『除却の指輪』はつながっている気がする」

 語尾は弱いものの、どうやら勘に自信はあるようだ。

「戦いの褒賞とか、敵が持っていて奪う機会があるとか、中身は分からないけども、だけど合戦が最後の四大魔道具への入口になりそうな気がするんだ」

「……なるほど。でも勘でしかないからなあ。物証も何もない」

「でも」

「まあ、どうせ国王陛下が宣戦布告をすれば、きっと僕たちにもなんらかの波が来るだろう。それまでせいぜい、ギルド理事長からもらったお金で支度でもしようか」

「そうだね。いまの私たちにはそれぐらいしかできないからね」

 セシリアとアヤメが戻ってきたら、改めて方針を話そう。

 彼はそう決めると、心を落ち着けるため、武具の手入れを始めた。



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