◆22
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にらみ合いが続く。
決めるとすれば一撃。経験を積み鍛錬をした【剣聖】と、強力なリーダー効果を二重に積んだ男との戦いは、基本的に一撃での決着をもってその機を待たれる。
「見た限り、貴殿はなかなか強いな。しかし本当の強さではない」
ダルトンの挑発。しかしカイルは警戒を解かず、落ち着いて返す。
「そうですか」
「貴殿のその強さは、ひとえに【司令】と【主動頭首】の底上げによるもの。たゆまぬ鍛錬や経験の蓄積も、してきたのではあろうが、貴殿を支えているものは八割方は天性の効果といってよい。それを本当の強さなどといえようか?」
「天性の効果ならダルトン殿も受けているではありませんか。【剣聖】という、とびきりのものを」
「戦闘系、特に武器の扱いに関する天性は、鍛錬と経験がないと充分には作用せん。貴殿は高位の戦闘系天性を持った素人と戦ったことはあるか?」
「あります」
紫電の山で学士と行った一戦である。
「なら分かるのではないかな。一方で貴殿の二つの天性は、効果が広く及ぶゆえ、中途半端な蓄積であっても格段にお主の性能を底上げする。つまり天性におんぶにだっこだ」
ダルトンは薄笑いを浮かべるが、カイルは全く動じない。
「天性が本当の強さかどうかなんてどうでもいいことです。僕は僕のすべきことをやり遂げます。天性がどうであったとしても、それは変わりません。天性が強力なのだとすれば、それに見合った業績を挙げて、己の使命を果たしたいと思っています」
「若いな」
ダルトンは侮蔑するかのような薄ら笑い。
「偽物の強さで業績を挙げたところで、群衆は貴殿を褒め称えるかな」
「褒め称えなくても、使命は使命です。勇者一党を追放され、冒険者となったときから、その本質である四大魔道具の獲得を目指してきました。その前には、天性が本当の強さかどうかなんて、『本当に』関係がありません」
「ふ、しょせんは偽物の言い分か、群衆とはわがままなもの。偽物が四大魔道具を獲得するなど、はたして民衆が納得するかな」
「ですから納得以前の問題です。誰がどう言おうと、仮に建前であっても僕たちは四大魔道具の獲得を目指さなければなりません」
「ふふ、やはり若い。これはすぐに勝負がつくかな」
カイルは悟った。
このダルトンという男、口が上手い。まともに言うことを聞いていては、いつか挑発され隙を突かれる。
冷静に、剣先と挙動にのみ集中する。
ダルトンはしばらくガタガタぬかしていたが、カイルが沈黙の姿勢をとると、やがてその口数も少なくなってきた。
「全ては剣と戦いによってのみ決するというのか?」
カイルは無言。
「つまらぬ男だ。言葉とはすなわち論理。武力では決して到達しえぬ正義がそこにあるというのに」
無言。
「それとも議論に勝てんから、わしの放つ論理を力によって押しつぶそうとしているのか。卑劣極まる蛮行というしかないな」
あくまで無言。
「……やれやれ、若いうちから議論を好かぬというのは、いつか老いて害をなす証。力によってのみ物事を――」
構えに一瞬、ゆるみが生じた。
カイルはそこを逃さず、素早く踏み込み、閃光のごとき一撃。
しかし、すんでのところでダルトンは受け止める。
「くっ!」
「ぬう、これは!」
だが、その一撃は受け止めたものの、乱れに対し正確に撃ち込まれたのは事実。ダルトンはわずかに姿勢を崩す。
そこへ敵を打ち崩さんとカイルの猛攻。
「こわっぱめ、くう、むむ!」
「はっ! やあ!」
ダルトンは徐々に格好を崩し、やがて。
「しまっ――!」
カイルはダルトンの剣を弾き飛ばした。剣は石造りの壁に激しく当たり、その刀身は折れた。
「勝負ありましたね」
彼はダルトンの首元に剣を突き付けた。
「僕は貴殿の首までは求めません。敗北を認め、バリスタの月光をいただければそれで」
「……ぬう……剣を取るより、貴殿の剣がわしの首をはねるほうが速いな」
ダルトンはため息をつくと。
「分かった。負けを認めよう。だが条件がある」
「迷宮の真相を黙っておくこと、ですか?」
「その通り。話が早いな」
彼はのど元に剣がある状況で、しかしなおも不敵に笑う。
「まあ広めたところで、わしは人脈を駆使して握りつぶすがな。クク」
「そもそも、真相を広めたところで僕にこれといった得はありませんからね。分かりました、条件を受け入れます」
「助かる。出入口の封印を解こう。貴殿を仲間と合流させる。……久しぶりに全力を出せた。貴殿には感謝するぞ」
ダルトンの口が上手いことは、彼は戦いの中ですでに知っている。
しかしこの言葉は本心からのものであると、直感的に察した。
「……これでよし。わしも同行し、お仲間たちに迷宮踏破の旨を説明しよう。安心せい、これは罠などではない」
「本当ですか?」
「疑り深いな。物事を疑うのは老人だけの特権だというに」
ダルトンは面倒そうに頭をかいていた。
その後、仲間のもとへ戻ったカイルは。
「カイル君、大丈夫?」
仲間たちからの心配を受けた。
「大丈夫、僕は五体満足だし、迷宮は終点までたどり着いたよ」
「カイル殿、よく頑張ったな、一人では心細かっただろう」
本当に心細かったのは、ひたすら待っていたセシリアのほうなのだろうが、カイルはそれをからかえるほどおどけた人間ではなかった。
「詳細はこちらのダルトンさんから聞くといいよ」
「うむ。わしから経緯を話そう」
いわく。
扉のワープ後、カイルは一人で最深部へと向かった。それまでとは比較にならないぐらい難しい罠がいくつも控えていたが、カイルはそれらをなんとか潜り抜け、最後の部屋へとたどり着いた。
そこで待っていた迷宮の主、富豪ダルトンは迷宮の踏破を告げ、カイルとともに仲間のもとへ説明をしに同行した。
「道中、もしかして緩い罠ばかりでおかしいと思ったかな」
ダルトンの問いに、答えたのはレナス。
「思いました。この迷宮には何かがあるんじゃないかって、私たちは話していました」
「そう。その何かが、この扉の先にあったものだ」
緩い罠ばかりで冒険者たちを油断させ、最深部に本命の厳しい罠の嵐を敷き、さらには連携を封じてご丁寧にも一人ずつ葬り去る。それがダルトンの考えた構図だった。
よくそこまで嘘をペラペラ話せるものだ。カイルは思った。
「なるほど、ここまでとは比べ物にならないほど厳しい罠だったんだろうね」
「そうだね。僕もひやりとしたよ」
嘘ではない。鍛錬と経験を積んだ【剣聖】ダルトンとの対峙は、本当に大変だった。
「しかし無事に戻ってきてよかった、カイル殿、本当に……」
「我々一同、ひらすらカイル殿の無事を願っていました」
仲間たちが口々にねぎらいの声をかける。
「しかしこれでバリスタの月光は僕たちのものだ。そうでしょう、ダルトンさん」
「うむ。迷宮が店じまいなのは残念だが、約束は守ろう。いまから屋敷に招待するゆえ、まずはこれで皆で迷宮入口に戻るぞ」
そう言うと、ダルトンは魔道具である脱出の石を掲げた。
その後、入口まで戻った一行は、ダルトンの屋敷に行き、バリスタの月光を受け取った。
繊細な細工により光り輝く腕輪。
「これが二つ目の四大魔道具……!」
「間違いありませんな、これは四大魔道具の一つですぞ」
念のため、アヤメが鑑定する。
「これで引力と斥力が完成するのか」
「然り。ようやく四大魔道具が戦いにも使えるようになりますな」
「誰が使うか、考えないといけないね。魔法の道具袋の肥やしにするわけにはいかない」
言うと、ダルトンがせき払いして制する。
「わしの責任は、これを受け渡すまでだ。その後のことは、あとで拠点でゆるりと話してほしい」
「ああ、失礼しました。とりあえず明朝、宿を引き払って、王都まで戻ろう。ギルドになるべく早く報告したいからね」
「サハッコ麺! 食べたい!」
レナスが主張する。
「ああ、今日の晩御飯はそうしよう。みんなよく頑張ったからね。……とりあえずダルトンさん、お世話になりました」
「むう、このわしから四大魔道具を譲り受けたのだ、どうかさらなる活躍を約束してほしいものだな」
「もちろんです。というわけで、ひとまず宿に戻ろう」
「あぁーサハッコ麺!」
カイルは内心複雑ながら、ダルトンに改めて「ありがとうございました」と礼を述べた。




