◆16
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その後、カイル一党は、今回の道中で得た肉を加工して売ったり、道具袋を整理したりして、冒険の後始末をした。
それなりの金額が入ってきた。まずまずの金策になったといえよう。
四大魔道具「バリスタの星光」をギルドに寄贈していれば多額の報奨金がもらえただろうが、彼らの都合上、そうするわけにはいかなかったのは前述の通り。
ジェイナスからは、四大魔道具の価値から考えて当然ではあるが「バリスタの星光」以外の報酬を受け取れなかったので、その分、金策をカイルらは頑張ったのだった。
とはいえ、勇者からふんだくった「手間賃」と併せると、とりあえず当面の生活には困らない額にはなったので、カイルとしては悪くはない結果だった。
彼の自宅でつぶやく。
「またミレディが来て、お金を『落として』いく展開にならないかなあ」
「カイル君、またそんな……」
彼の言葉にレナスは呆れ返った様子。
しかしカイルは窓の外を見て。
「……いや、少なくとも勇者のお出ましではあるみたいだね」
「えっ?」
その直後、扉を叩く音。
「全員、武器を持って警戒して。行くよ」
緊張が走る。
外に出ると、勇者ミレディ。
「あんた、『バリスタの星光』を手に入れたみたいね」
「そうだね。それで?」
カイルは扉を閉め、戦闘に移れるようにさりげなく指示し、陣形を整えた。
「私に譲りなさいよ」
「なぜ? 四大魔道具の入手は冒険者の使命であって、勇者一党の任務では」
「御託はいいの! 勇者一党も魔王を倒す力を得るために、四大魔道具を集めることがあった。あんたの好きな前例やら歴史にあるはずよ。知らないとは言わせない」
「そうだね。でも勇者一党の目的は、あくまで魔王の討伐。四大魔道具は寄り道でしかない。冒険者にとってはそれが本質だけど。だから冒険者が勇者に四大魔道具の譲渡を命じられる理由はない」
「勇者に協力するのは善良な市民の責務でしょう!」
「それは道義的責任にすぎない。そこから四大魔道具を、いわれもなく没収される義務は導けないよ」
カイルは「やれやれ」とでもいいたげに肩をすくめる。
実際、冒険者が勇者パーティに四大魔道具を譲り渡した前例はある。しかし彼のいうように、四大魔道具を勇者が強制的に接収する権利は、いまだかつて認められたことがない。仮に有償だとしても、それが肯定された例はない。
標記の前例は、あくまで自由意思に基づく任意の判断だったといわれているし、実際、冒険者のほとんどがそう認識している。
しかし、ミレディは納得できなかったようだ。
「あくまで『バリスタの星光』を渡さないというのね」
「渡す理由がないからね」
「力づくで奪い取る、と言ったら?」
勇者パーティが武器を抜くのと同時に、カイルのパーティは各々得物を構える。
「勇者とはいえ無法は無法。これは正当な抵抗だよ」
言って、カイルは静かに剣を抜いた。
最初に打ち掛かってきたのは、勇者ミレディ。
「どうしてあんたは、いつもいつも!」
さすがは天性【勇者】持ち、鋭く力強い振りでカイルの命に肉薄する。
しかし天性の強力さはカイルも同じ。
「いつも絡んでくるのはミレディ、きみじゃないか」
いや、この一戦は天性だけで量れるものではない。
ミレディのたゆまぬ鍛錬。そしてカイルの重ねてきた経験。
それらが各々の天性を、最大限にまで発揮させている。
命を懸けた極限のやり取りを、天性と積み重ねが、これ以上ないほどにきらびやかに彩る。
「くっ!」
ミレディはつば競り合いから、弾かれるようにして距離を取る。
その瞬間にカイルは周囲の様子に目を配らせた。
セシリアとレナスが、勇者パーティの重戦士、剣士との攻防を。
アヤメが短剣を使って、道具使いと思われる勇者側の戦力に攻撃している。
全体的な形勢は、カイル側の有利。
勇者パーティは、勇者を除いて押され気味とみえる。
仲間全体に効果を及ぼす、天性【司令】のおかげか。いや、仮にそうだったとしても、メンバー各々の実力、そして安心して背中を預けられるという信頼関係の作用も否定できない。
それに……カイルには、彼の脱退したときや前回会ったときより、勇者側の構成員のグレードが下がっているように思えた。よく言えば仲間の構成を刷新したのだろうが、彼の強化された観察眼を通してみるに、刷新というより弱体化といったほうがよい。
「ミレディ、さては前回の仲間たちに愛想をつかされたのかい?」
「う、うるさい、仲間を一新したのよ!」
どうやら図星だったようだ。
勇者の剣の一件は、勇者らしからぬ醜態である。その上、四大魔道具の一つについて冒険者に先を越されたとなれば、求心力を失うのもやむをえないだろう。
「仲間ってそう簡単に切ったり補充したりするものかな。あまり気軽に交替していると――」
「うるさい、黙れ!」
勇者の突進。暴風のごとき袈裟斬り。
しかし怒りに我を忘れた攻撃は、むしろ容易に処理できる。動きが直線的になる分、読みやすくなり、また余計な力みが入ってたやすく受け流され、体力も消耗する。
戦いは冷静にしたほうが、実力を充分に発揮できる。怒りをもって行う戦闘は、いとも簡単に制圧される。
ミレディもその例に違わなかった。
「きゃあ!」
力みによるわずかな隙を見逃さなかったカイル。その冷徹な最適の一撃によって、勇者の剣を弾き飛ばした。
体勢を崩して尻もちをついた彼女ののど元に、彼は剣を突き付けた。
「全員に告ぐ、決着はついた、話し合いの席につきたい!」
交戦中だった一同は、それを見て、特に勇者側は意外にも大人しく武器をしまった。
レナスが指示通り勇者ミレディに縄をかけ、木に縛り付けている。
カイルは口を開いた。
「さて、勇者様が善良な冒険者に剣を抜いたこの一件、どうしようかな」
「どうする気よ」
「ああ、勇者様はご自分のしたことが分かっておいででないようだね。僕がいまから警察軍の番所に報告すれば、司法院での吟味、刑罰もありうるというのに」
刑罰という言葉に、彼女は一瞬凍り付く。
「……私を牢屋にぶち込むつもり?」
「僕としてもそうはしたくないなあ。けれど誠意がなければ、牢屋で自分のしたことを反省してもらうしかないのかなあ」
「勇者を牢屋に入れるとは思えないけど」
「どう思うかはきみの勝手だよ。でも冒険者に因縁をつけて一戦交えた勇者なんて前例がないからね。放免された前例もないってことだ。それに」
カイルは、青い顔のミレディに静かに語りかける。
「勇者は確かに魔王討伐の任務を帯びた、特別な人間だ、でもこれほどの無法を、連合王国が許すとは思えないなあ。そこまで特別じゃない。きみは勇者というものの地位を、高く見積もりすぎだと思うよ」
淡々と。
「……誠意を示すわ。いくら?」
「そうだね、前回と同じ、二千ドラースにしようか」
「また……!」
「安いものとは思わないかな。司法院で損害賠償請求の訴訟をすれば、もっとずっと高くつくと思うけど」
あえて高値を請求しないのは、前回も述べたように、勇者パーティが自分の財布だけで支払えるギリギリの額を狙っているからである。
「くっ、分かったわよ、ジェロム、二千ダラース支払ってあげて!」
道具使いと思しき男が、道具袋から金銭を取り出した。
「まいど。レナス、縄を解いてあげて」
呼ばれたレナスが縄をほどく。
「勇者にこんな屈辱を、絶対許さないからね!」
「同じことをしたら、また誠意を求めることになるよ?」
「うるさい、勇者から金を絞り取るなんて、とんだ悪党だわ!」
毒づきながら、彼女は憤然として去っていった。




