第10話 逃げねば
※本作は一部に生成AI(ChatGPT)による言語補助を活用していますが、ストーリー・キャラクター・構成はすべて筆者が作成しています。
ご理解の上でお読みください。
1
一方そのころ――
スマラグドスは、明らかに壊れていた。
道路のあちこちには、事故で潰れた車が放置されている。
高級車も、配送車も、区別なく。
建物へ突っ込んだもの。
横転したまま止まっているもの。
炎を上げているものまであった。
なのに。
「……なんなの、これ」
誰も叫ばない。
助けを呼ぶ声も、怒鳴り声も、泣き声もない。
ただ、遠くで警報音だけが虚しく鳴り続けている。
都市全体が、呼吸を止めてしまったみたいだった。
ミチルは周囲を警戒しながら歩く。
(とにかく……離れないと)
何が起きているのか分からない。
政府なのか。
魔女なのか。
それとも、この都市そのものがおかしくなったのか。
だが、本能が告げていた。
ここにいてはいけない。
その時だった。
前方の街灯の下に、手ぶらの人影が立っている。
白いベール。
白い長袖の服。
白い手袋。
見覚えが、ありすぎた。
ミチルの足が止まる。
「……エイコ?」
喉から、勝手に声が漏れた。
その人物がゆっくり振り返る。
ジェーン。
ホステルで働いている少女。
けれど、ミチルにとっては違う。
ハサミ エイコ。
たった一人の友達。
胸が、強く締め付けられた。
探していた。
ずっと。
罰としてでも、使命としてでもなく。
本当は、もう一度会いたかった。
「……っ」
言葉が出ない。
一方、ジェーンは都市が混乱しているのを知らないのか
ただ、ぼんやり立っている。
どこか夢の中にいるみたいに。
遠くで、また轟音が鳴った。
地面がわずかに揺れる。
ミチルは反射的に空を見上げ――遠くにそびえる虹色の巨塔を視界に入れる。
嫌な汗が背中を伝った。
(分からない)
何も。
何が起きているのかも。
何が正しいのかも。
けれど。
たったひとつだけ、はっきりしていることがあった。
――この子を、ここに置いてはいけない。
ミチルは勢いよくジェーンへ駆け寄る。
「――?」
ジェーンが何か言うより早く、その手首を掴んだ。
白い手袋越しの感触。
細い。
昔と変わらない。
「来なさい!!」
ミチルは叫ぶ。
方向なんて分からない。
安全な場所がどこかも分からない。
それでも。
ただ、この都市から遠ざけたかった。
ミチルはジェーンの手を引き、がむしゃらに走り出す。
砕けたガラスを踏み越え。
横転した車の横を通り過ぎ。
不気味な静寂の都市を。
背後では、虹色の巨塔が脈打つように光っていた。
まるで、二人を見ているみたいに。
2
ケイは、白いカエルのぬいぐるみを静かに抱えたまま、パーティー会場を後にした。
ドアの向こう側。
そこに広がっていたのは、先ほどまでの煌びやかな都市とは別物の光景だった。
「……はぁ」
思わず、眉間のしわが深くなる。
道路は完全に機能を失っていた。
車は何台も衝突し、積み重なるように止まっている。
信号は狂ったように点滅し、道路標識はぐにゃりと曲がっていた。
なのに、人の悲鳴がほとんど聞こえない。
静かすぎる。
まるで都市全体が、何かに呑み込まれた後みたいだった。
「……交通網は死んでるな」
ケイは冷静に周囲を観察する。
この状態で“門”を探すのは危険すぎる。
人の流れも、都市構造も、既に正常じゃない。
(地上は駄目だ。これじゃあ地下鉄も混乱してるだろう。)
そう判断した瞬間、ケイは片手を軽く振った。
空間に魔法陣が走る。
次の瞬間、ホバースクーターが召喚された。
白銀色の流線型の機体。
だがサイズはユウ用に作られているため。成人サイズには少し小さい。
「……重量オーバーになりませんように!」
道具が道具に祈る。
それでも、飛べないよりはマシだった。
ケイは白いカエルのぬいぐるみを懐へ丁寧に押し込み、そのままスクーターへ跨がる。
浮力音。
機体がふわりと宙へ浮いた。
「ヨシ!行くぞ」
小さく呟き、アクセルを吹かす。
スクーターは夜のスマラグドスを駆け上がるように飛翔した。
ビル群を越え、さらに上へ。
地上の惨状が遠ざかっていく。
だが。
「……ん?」
ケイの表情が曇る。
空。
何かがおかしい。
最初は、ただの違和感だった。
星空が、不自然に揺れている。
いや――
星じゃない。
ケイは目を細める。
暗闇の向こうに、“何か”がある。
巨大すぎて、認識できなかったもの。
それは、空全体を覆うように存在していた。
びっしりと。
均一に。
無数の“光る宝石”が並んでいる。
暗闇の中で、淡く虹色に輝くそれら。
だが次の瞬間、ケイは理解する。
タイガにてユウが獣を倒した後にはぎ取っていたアレ。
「あれ……まさか魔核か?」
ぞわり、と背筋が冷える。
宝石のように見えたものは、すべて。
大量の魔核が貼り付けられた都市を覆う屋根だった。
巨大な何かの表面に、整列するように貼り付けられた無数の宝石たち。
空だと思っていたもの、そのものが。
“いのちだったもの”。
「――っ!?」
気づいた瞬間。
ゴンッ!!
激しい衝撃。
スクーターが屋根にぶつかった。
機体が大きくバランスを崩す。
「しまっ――」
ホバースクーターが回転する。
制御不能。
夜景が天地逆さまにひっくり返る。
ケイはとっさに懐を押さえた。
白いカエルのぬいぐるみだけは離すまいと。
そのまま。
彼は夜のスマラグドスへ向かって、真っ逆さまに落下していった。




