第8話 トリックスター
※本作は一部に生成AI(ChatGPT)による言語補助を活用していますが、ストーリー・キャラクター・構成はすべて筆者が作成しています。
ご理解の上でお読みください。
1
「昔、ある人間と出会うた。」
世間話のように語り始める。
「小しゃな菓子屋ばやっとー店主やったけど、
そん時は原料ん砂糖が高うなってしもうてて困っとった。」
魔女たちの何人かが笑う。
「やけん教えちゃったと、砂糖ん代わりになるもん。」
さらりと言う。
「作り方も、使い方も、全部。」
ヴェラの眉が、わずかに動く。
「そしたら売れに売れて、気づいたらそん代用品そのものば売り始めて――」
肩を揺らして笑う。
「小しゃな店が大企業になった。」
拍手と笑い。
「まあ、それはちょっと依存性が強かもんやったけどね。」
軽い口調のまま続ける。
「まあ、こん問題も金でもみ消しぇるけん。」
再び笑いが起きる。
ヴェラだけが笑っていなかった。
「で、そん一族とうちゃ、仲がよかと。」
“仲良し”という言葉に、妙な重み。
「あんレシピ、うちが握っとーけんね。」
黒猫は、ゆっくりと見渡す。
「つまりはあん一族ん金も、権力も、じぇーんぶ使えるってこと。」
ざわめきが興奮へと変わる。
「しぇっかくやけん」
両手を広げる。
「こん都市、貰おうて思いよーと」
一拍。
「スマラグドスを――魔女による、魔女のための都市にする」
歓声が爆発した。
「最高!」
「畜生使い放題じゃん!」
「ウケる!」
ノリで受け入れる魔女たち。
「……はぁ?」
ヴェラだけが呆れた声を漏らす。
「正気かよ……」
「まあまあ」
黒猫が手を叩く。
「現状、見しぇちゃるけん」
指を鳴らすと、空間に巨大なモニターが浮かび上がった。
映し出されたのは――豪奢なパーティー会場。
人間たちが、何かに取り憑かれたように食べている。
「ほらね」
黒猫は楽しげに言う。
「ちゃんと効いとるやろ?」
そのとき。
黒猫が、画面の中の少女へ向かって軽く手を振った。
「そこんお嬢しゃん。頼みたかことがあるっちゃけど」
声は届いているのか、少女はすぐに反応する。
優雅に歩み寄り、ひとりの客の前で立ち止まった。
その客は、皿に顔を近づけるようにして貪っている。
「……ああ、これだ……もっと……」
少女は、にこりと微笑む。
「お取込み中すみません。」
柔らかい声。
「あなたの持ってる土地、全部――私たちのものにしていいですよね?」
一瞬の間。
だが、客は顔も上げずに答えた。
「土地なんていらない!!」
食べる手を止めず、叫ぶ。
「これだけさえあればいい!!もっとくれ!!」
笑い声が、魔女会側で弾けた。
「ほらね」
黒猫が肩をすくめる。
「人間って、楽勝やろ?」
ヴェラの表情が、さらに険しくなる。
(……終わってる)
そう思った、その時。
画面の端に、見覚えのある男が映る。
「……うげっ」
思わず顔をしかめた。
「なんでアイツがいんだよ」
ロスティスラフ。
よりにもよって、あの男が。
(最悪だろ……)
そう思った直後。
その近くに、小さな影。
テーブルの下から、顔を出す少年。
「……は?」
息が止まる。
見間違えるはずがない。
「――なんでそこにいるんだよ!?」
思わず声が出た。
息子。
あいつが、なぜこんな場所にいる。
偶然なはずがない。
――嫌な予感だけが、はっきりと形を持った。
2
「……ユウ」
低く、しかし確かに自分の名を呼ぶ声。
ユウはゆっくりとテーブルクロスから這い出し、そのまま立ち上がった。
目の前にいるのは――父。
逃げ場は、もうない。
「……父さん」
短い沈黙。
周囲では、まだ皿を貪る音や笑い声が続いている。
だがその中で、この場だけが切り取られたように静かだった。
ロスティスラフは、ユウをまっすぐ見下ろす。
「しばらく、いなくなっていたな」
淡々とした声。
「森の中で、獣にでも食われたかと思っていた」
その言葉の奥に、わずかな重さがある。
「……無事で何よりだ」
ほんの一瞬、表情が緩む。
「戻るぞ。母さんのところへ」
(……終わるんだ)
ここまでの旅も、出会った人たちも。
カケルも、ジェーンも、ケイ先生も全部。
ユウは小さく頷いた。
その瞬間――
――ぼんっ。
白い煙が、会場のあちこちから一斉に噴き出した。
「……っ」
甘く、不自然な匂い。
視界がまっ白に塗りつぶされる。
体の輪郭が、ぼやけていく。
(なに……これ……)
足の感覚が消える。
指先が、ほどけるように消えていく。
声を出そうとした、その途中で――
意識が、途切れた。
* * *
煙が、ゆっくりと晴れていく。
先ほどまで喧騒に満ちていた会場は、嘘のように静まり返っていた。
テーブルの上も、床も、椅子の上も。
そこにあるのは、人ではない。
大小さまざまな、ぬいぐるみ。
鳥、うさぎ、魚。
それぞれが、動物の姿を模したまま、無造作に転がっている。
声はない。
動きもない。
完全な、沈黙。
コツ、と靴音が響いた。
煙の奥から現れたのは、ケイだった。
眉間に深くしわを寄せ、無言で会場を見渡す。
転がるぬいぐるみの一つを、足先で軽く転がした。
反応は、ない。
「……最悪だな」
低く吐き捨てる。
その視線が、ひとつのぬいぐるみに止まる。
白いカエルの姿を模した、小さなそれ。
そして、その隣に転がる、黒いヘビのぬいぐるみ。
ケイは一瞬だけ目を細めたが、すぐに表情を消した。
静寂の中、彼だけが立っていた。




