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君のためなら、何でもできる。   作者: 足早ダッシュマン
第2章 ─アイドルゲーム編─
22/39

第7話 準々決勝

※本作は一部に生成AI(ChatGPT)による言語補助を活用していますが、ストーリー・キャラクター・構成はすべて筆者が作成しています。

ご理解の上でお読みください。


1

朝の光がチキン屋の窓から差し込む。

まだ開店前の厨房には、揚げ油の香りがかすかに残りつつも、今はテーブルに並べられた簡素な朝食の湯気が、柔らかく立ち上っていた。


「うちで朝ごはんって、なんか変な感じだね」

とピッピが笑いながら、カリッと焼けたパンをかじった。


ユウとハナもカウンターの向こう側でそれぞれの皿を手にしていて、まだ眠そうな表情のユウの隣では、ハナが紅茶を吹いて冷ましている。


「そういえばさ、準々決勝って、今日どんな感じなの?」

とユウが口を動かしながら聞いた。


「ん、説明しとくか〜」

ピッピはパンを一旦置き、指を折って数えながら話し始める。


「まずね、前と変わらず“課題曲”があるの。でも何曲か出されてて、その中からランダムで一つ、当日ステージで発表されるってやつ。つまり、どの曲が来ても歌えるようにしとけってこと!」


「つまり、ガチャ?」

とユウがぼそっと言う。


「ガチャだね。まじで。でも、どの曲もちゃんと練習したし、大丈夫!」

ピッピはサムズアップしながら言った。


「あとね、今回からはプロも混ざってくる。デビュー済みの子も出てくるんだって」


「ふぅん…」

とハナが呟き、わずかに眉を上げる。


「で、審査の方式も変わるの。観客の投票が入る。でもね、割合は審査員7割、観客3割だから。基本はこれまでどおり、ちゃんと歌えば評価してもらえると思う!」


「観客って、現地の人たち?」

ユウが聞くと、ピッピはこくこくと頷いた。


「そ。だから、ちょっとした人気も見られるかもだけど……うん、私たちは私たちらしくやればいいんだよ」


「なるほどなー」

ユウはパンをもぐもぐ噛みながら、少し口元を緩める。


「やることは変わらない。だったら気持ちよく歌えばいいだけよね」

とハナが静かに言う。


「うん。じゃ、がんばろー!」

ピッピが手を高く掲げ、ユウとハナもそれぞれ手を合わせた。


窓の外では、白無窮の朝が少しずつ街を動かし始めていた。

それぞれの決意を胸に、今日という日がまた始まる。


2

本番前、舞台袖に立ったハナとピッピは、互いに視線を交わした。


「同じブロックなんてね。勝ち上がれるのは、一人だけか……」

ピッピが言葉を濁しながらも、笑う。


「でも、どっちかが絶対に準決勝に行こう。ね?」

ハナの声は迷いなく、真っ直ぐだった。


ピッピはその言葉に拳を出す。ハナがそっとそれに拳を重ね、二人は小さく気合いを入れた。


その直後、ステージへ向かう扉が開く。静かに、それでも確かな覚悟とともに、彼女たちはそれぞれの順番を待った。



同じブロックにいるのは計4人。

その中には、すでにファンの声援を集めている、アイドルグループに所属する少女の姿もあった。立ち居振る舞いひとつとっても場馴れしており、ステージ上では完璧な笑顔を見せる。会場の一部にはその子を目当てに来ている観客もおり、歓声も一際大きい。



ハナに出された課題曲は、凛とした旋律が特徴のクラシカルなポップ。技巧と繊細さが問われる一曲だが、彼女の声質にはぴったりだった。

舞台に立つ彼女は落ち着いていて、音の一粒一粒を磨きながら丁寧に歌いきる。

その歌声には説得力があり、審査員たちは皆、目を見張って彼女のパフォーマンスに聞き入った。

控室に戻る頃には、審査員席から穏やかな頷きが幾つも見えた。


ただ──

観客の反応は、どこかおとなしかった。感動はしているようだが、拍手の大きさもまばらで、歓声が爆発することはなかった。

印象的な歌ではあった。けれど、その良さがすぐに伝わるかどうかというと、少し距離がある──そんな空気が漂っていた。



続いて登場したのはピッピ。スクリーンに表示された課題曲を見た瞬間、一瞬だけ眉をひそめる。それは、彼女が苦手としていたバラード系の一曲だった。


それでも彼女はマイクの前に立ち、深呼吸をして、静かに歌い出す。


正確さには欠ける箇所もあった。音程の揺れや、感情が先走った箇所もあった。

けれど、彼女の歌には「心から歌っている」ことがはっきりと伝わった。

声が震えるたび、観客の心も揺さぶられていく。

感情がほとばしるようなラストには、自然と拍手と歓声が沸き起こった。


観客の反応は明確だった。会場の空気は、彼女の歌で一気に熱を帯びた。

一方で、審査員たちは慎重な表情を崩さず、何人かは記録用の紙に何かをメモしながら考え込んでいた。



すべてのパフォーマンスが終わり、審査結果が発表された。


観客の投票、そして審査員の評価が総合され、名前が読み上げられる。


「準決勝進出者は──ピッピ!」


客席から歓声が上がる中、ピッピは一瞬言葉を失い、呆然と立ち尽くす。


その隣にいたハナは、すぐに彼女に視線を送り、そして優しく微笑んだ。


「おめでとう、ピッピ。あなたの歌、ちゃんと届いてたよ」


ピッピの瞳に、うっすらと涙がにじむ。口を開くと、震える声でひとことだけ返す。


「……ありがとう」


ふたりは並んで舞台裏に戻る。その途中、ふと触れた肩と肩──

そのわずかな接触に、言葉にできないほどの想いが込められていた。


3

控室のテレビに映る舞台の様子が、最後の拍手とともにフェードアウトする。

ヘレンは背筋を伸ばして座り、静かにテレビを見つめていた。観客の歓声が終わり、司会の声だけが部屋に響く。


「準決勝進出者は──ピッピ!」


わずかに笑みを浮かべながらも、ヘレンは隣に立つ側近に目を向ける。


「今のブロックの点数比率、確認させて」


「かしこまりました」


側近は手元の魔道具を操作し、審査の内訳をヘレンに見せる。

その図はシンプルな割合図だったが、そこには明確な偏りがあった。


「審査員の評価では、ハナの技術が他より明らかに上でした。しかし……観客票は、ピッピに圧倒的に集まりました」

側近の声は慎重だった。


「この偏り……理由は?」


しばし沈黙が流れる。側近は少しためらいつつも、控えめに言葉を選ぶ。


「観客の大半は、白無窮出身者で占められています。ハナは桃木蘭出身ですから……」

そこで言葉を止めた。


ヘレンは目を細め、グラフをじっと見つめる。

まるで、その不均衡の線の内側に、見えないものを探すかのように。


「……やはり、まだ国はひとつになっていないのね」


淡々と、だが確かな重さをもって、彼女はそう呟いた。

白と桃、ふたつの旗が一つに畳まれたはずの国で──

それでも、人の心は、まだ交わりきっていない。


ヘレンは背もたれに寄りかかり、窓の向こうに落ちていく夕日を見た。

その光は美しく、けれどどこか寂しげだった。


4

会場の熱がようやく冷め始めた夕暮れ、ステージ裏から出たピッピとハナは、ひんやりとした空気に包まれながら出口へと歩いていた。扉を抜けると、そこには不安そうに立つユウの姿があった。


「……ハナ、ピッピ!」


ユウはふたりを見つけると、ぱっと表情を明るくして駆け寄ってきた。息を切らしながら、けれど、その声はどこまでも優しかった。


「準々決勝、おつかれさま。どっちもすごくよかった……」


ピッピは気まずそうに視線を彷徨わせ、ハナは少し驚いたようにユウを見つめた。


「ハナ……その、ほんとに……ぼく、うまく言えないけど……」


ユウはハナの前に立ち止まり、言葉を探すように一瞬目を伏せた。


「すごく綺麗だった。胸にぐっときた。ぼくは、ちゃんと届いたって思ったよ。結果とかじゃなくて……その……」


語尾がかすれていく。ユウはそれでも懸命に言葉を繋いだ。


「ぼく、応援しててよかったって思った」


その一言に、ハナの肩がほんのわずか震えた。


「……ありがとう、ユウ」


ハナは小さく笑った。目元が赤いけれど、涙はもう流れていない。


「ぼく、うまく慰められてないかもだけど……」


「ううん、十分だよ」


ハナは優しく首を振る。ピッピが小さくうなずいて、ハナの背中にそっと手を置いた。


「……少しだけ、一人になりたいな。ごめんね」


そう言ってハナはふたりから一歩離れ、夕焼けに染まった道を歩き出す。背筋はまっすぐで、どこか凛としていた。


ユウとピッピは言葉を交わさず、ただその後ろ姿を見送る。

オレンジ色の光の中に、ハナの影が静かに伸びていった。

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