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1 おバカさんたちへ断罪の時を

お楽しみいただけたら幸いです⸜( •⌄• )⸝

ざまぁ(とまでは言えないかもしれませんが)から始まります

「ミモレ・アザリアノ!お前との婚約は破棄する!お前のような醜悪でまともに口もきけない女を私が愛することはない、私が真に愛するのはこのフィオナだ!」

「お義姉様ごめんなさい。私、レオナール様と愛し合っているの!」



 しん、と静まり返る大ホール。

 ここは王家が持つ離宮の一つ、花飾りの宮。ここで開かれる夜会は王家に連なる人物の慶事と決まっている。

 今日は今大声を張り上げてる第四王子レオナールと、その婚約者である私の結婚式の日程を発表するための夜会だった。


(こうなるだろうと予想はしてたけど、本当にやるとは思わなかったわね)


 舞台上で大声を張り上げているレオナールは第四王子で側室の子ども。その側室は子爵の娘であまり力がない上に病弱で殆ど外に出てこないので社交界での繋がりも殆ど持っていない。レオナール本人は上の王子たちに比べ突出した才もなく勤勉さもない。王族ではあるけれど立場がすこぶる弱く、傀儡としての価値もないと噂されてしまうくらい。


 そんなレオナールを不憫に思った陛下と王妃様が、父がまだ生きていた頃に頼み込んで決まったのが私との婚姻だった。

 王家の親戚筋でもあるアザリアノ侯爵家には跡取りが私しかいない。性別関係なく家を継げるので次期当主は私。レオナールは将来婿入りして、侯爵家に入ることが決まっていた。

 婿入りの際には継承権を放棄することや、彼個人にも伯爵位が与えられることも決まっていると聞かされていた。レオナールもそれに了承した、と説明されたんだけど、これである。

 お互い六歳の頃の話ではあるけど、忘れるような事柄ではない、と思う。レオナールは忘れたようだけど。


 ここにいる殆どの人たちでもこのことは知ってる。だからその殆どの人たちは、壇上を見てかなり引いている。もちろん、例外もいる。


「お前いい加減にしろ!なんだその態度は!泣いて謝るのなら許してやってもいいと思っていたが」

「なにを、でしょう?」


 私は食い気味に問いかけた。一瞬フィオナの顔が歪む。私が反抗したことが信じられないらしい。


「貴様は自分のしたことすら思い出せない阿呆のようだな」


 クスクス、と小さな笑い声が上がる。

 主に笑っているのは学園に通う生徒たちだろう。私やレオナールだけでなく一つ下のフィオナと同じ学年の人たち。

 貴族が通う学園だから彼らも今日ここに呼ばれている。笑い出した自身の子どもたちを見て青ざめる親たち。


 笑ったのを咎められた子たちは、なぜ笑ってはいけなんだろう?という顔をしている。


 十五で成人を迎えるこの国で、彼らはみんな大人だ。それなのに分別もつかないし空気も読めない我が子が信じられないと数少ない良識ある大人たちは顔を顰める。


「わたくしは何もしておりません」

「酷いわお義姉様!あなたが私にしたことを謝ってくれたら黙っていて差し上げようと思ったのに・・・」


 フィオナは泣いている。


「わたくし、あなたの姉ではありませんけれど・・・どなたかとお間違いではありません?」

「ば、馬鹿にしないでよ!間違えるわけないじゃないこの悪魔!あばずれ!」


 フィオナの急な口の悪さに会場の人々は完全に引いている。


「まぁ・・・あなたは姉に向かってそのような口を利く方なのですね。あなたの姉君はそれはそれはお可哀想ですこと」


 真っ赤になってまた口を開き罵詈雑言を叫ぼうとしたフィオナの口をそっとレオナールが塞いだ。


「フィオナ、そのような口の利き方をしてはあの屑と同じになってしまう。落ち着くんだ私の天使」


 血走った目であばずれ!と叫ぶような女が天使だろうか?


 どちらにせよすでにたくさん暴言を吐いたところを貴族たちがしっかり見ていたので、これ以上茶番に長く付き合う必要はない。

 さっさと終わらせよう。不必要に虐げられ続ける趣味はないですから。


「どちらにせよお前との婚約は破棄だ」


 何に対しての”どちらにせよ”なのかさっぱりわかりません。彼の頭の中身どうなっているだろう?


「ええ、わかりましたわ。ですがその前に一言、よろしいです?」

「・・・なんだ、言ってみろ」


「告発いたします。アザリアノ侯爵代理とその家族を」


 フィオナとその親・・・アザリアノ侯爵代理をしている叔父夫妻がこちらをにらみつけた。


「お前何を言っている」

 レオナールが呆けた顔で聞き返す。


「わたくしに対し隷属魔法を許可なくかけた彼らを魔法法律と奴隷法律の両方に違反したとして告発いたしますわ。それに加えてアザリアノ侯爵家をわが物のように扱い、税収を不正に懐に入れたこと、違法取引に手を出していることなども同時に告発いたします」


「私たちは何もしてない!お前に頼まれて代理を務めてやっているのに何という言い草だ!」


 叔父がフィオナと同じように真っ赤な顔をして怒りだした。


「それに証拠もなく告発などと・・・ふざけたことを」


 私が何も証拠を出せないと思っているんでしょう。余裕なことです。


「証拠ならたっぷりございますわ。すでに宰相と国王陛下に提出済みでございます」


 その言葉と同時に兵士たちが一斉にホール内になだれ込んできて、あっという間に手早く叔父夫妻を確保した。


 兵士たちが全員配置についたのを見計らって舞台の奥、王族が入場するための扉がゆっくりと開き、国王陛下と王妃殿下が入ってきた。同時に私の後ろには宰相と魔法省と財務省の副官が立っている。


 私はにっこりと笑って叔父夫妻とフィオナ、そしてレオナールを見つめた。


「さぁ、断罪をいたしましょう。私ではなくあなた方の・・・ね?」


 私は小首をかしげてほほ笑んだ。


 -----


 宰相の手には長すぎて巻物のようになった罪状記録があり、読み上げるだけでも十数分かかった。


 レオナールはおそらく何も知らなかったんだと思う。いや、知ろうともしなかったおバカさんなだけだとは思う。おかしなことに気づきもせず、ただ楽な方に流されただけ。

 そんなおバカさんは聞いている間ずっとフィオナと私に視線を送りきょろきょろとしているだけだった。



「ーーー以上がミモレ・アザリアノ侯爵からの告発により調査した結果判明した罪状となります」


 税収横領から虚偽申告などお金に関することや、違法取引が物から人まで大量に出てきた上、アザリアノ家が出来た際に王家から下賜され代々守り続けていた魔道具を売り払っていたことなども罪になっていた。ただ、やはり目玉といっていいのかわからないけれどになったのは私に対する隷属魔法の無断使用。これは相手が侯爵の私に対してなのでこれだけで即斬首もあり得る大罪。会場にいる人たちの目がどんどん冷ややかなものに変わっていく。中には叔父と組んでいた馬鹿な人たちもいるので、こっそり逃げ出そうとして兵士たちに捕まったりもしていた。


 陛下は罪状を聞き終わり、ふう、と大きなため息をついた。


「よくわかった。ミモレ・アザリアノの告発に感謝する。・・・長年虐げられていたようだが、よく勇気をもってくれた」

「もったいないお言葉にございます陛下」


 私は膝を曲げて頭を下げる。足の治療が終わっていないので激痛が走るが、ここでみっともない姿を晒すことは出来ないので気合で耐える。ただ、顔色が悪くなるのは防げない。


「ところで顔色が悪いがどうした?」


 あえて顔色がわかるようにほんの少ししか粉をはたかなかったのが幸いして、いいタイミングで顔色が悪くなったのが伝わったらしい。


「お見苦しい姿を見せてしまい大変申し訳ございません。二日前に学園で足を負傷してしまいましたので、その痛みがまだ残っております」

「痛みが残る・・・?」


 陛下の顔色が私につられたかのように青く変わった。


 治癒魔法の技術が大陸一と言われているこのパリス国において、授業で受ける程度の怪我なんて一瞬で治るものだった。出産で受ける体のダメージですら一晩で回復させることが出来るとか、切れた足も切断された直後ならあっという間に元通りにできるとか他国ではまことしやかに噂されているらしいけれど、全部本当のこと。切断された先がないと大変だけど、それでも時間をかければ治すことは出来る。


 そんな国で痛みや傷跡が残るという傷は致命傷に近いものだと判断される。しかも二日前の傷が治っていないだなんて、戦時中でもなければ考えられないような重体レベルの怪我をしたと言っているようなものだ。

 しかも、学園内で。


「未婚女性に聞くことではないと承知の上で尋ねよう。どのような怪我をしたのか教えてくれ」


 陛下の言葉を聞いて次第に青ざめる人が増えていく。副学園長に魔法教師に学園保健医に生徒会長に・・・それ以外でも学生たちの多くが俯いている。


「二日前、一、二学年合同の魔法の授業中に、フィオナ・アザリアノの水魔法を足に受けるように命じられました。その結果私の足は内側からはじけ飛び、骨は砕け肉は飛び散り・・・ですが幸い学園で清掃員をされている方がその骨や肉塊を拾い集めてくださったおかげで何とか足としての形を取り戻すことが出来ました」


 ホール内のご婦人方の何人かがふらふらと貧血を起こして倒れられた。でも外には連れ出せない。兵士たちがその場に留まるようにと言っている。


 陛下にも話は通してあるけれど、今回のこの断罪劇は宰相と王国兵士団の全面協力のもとに行われている。

 彼らは一人も逃す気はない。今回の私の告発は下手すると国を揺るがすレベルの大罪塗れだったので、威信をかけて根絶やしにすると燃えている。


「清掃員が、か・・・生徒たちや教師は何もしなかったというわけだな。しかし保健医がそれほどの技術を持っていたのは不幸中の幸いか」

「いえ、学園では治療を断られましたので、自分で行いました。そのせいで魔力や集中力が足りずにこのような状態でこちらに来てしまったことをお詫びいたします」


 私の足は今ドレスで隠れているので見えないけれど、見たらご婦人方が叫ぶくらいには酷い状態になっている。主に皮膚が、ぼこぼこのでろでろ。傷自体は塞がっていて骨は全部拾えたんだけど、肉が足りなかった。

 足りない部分を足すための治癒魔法には魔力が大量に必要で、怪我による痛みや疲労で治療に回せるだけの魔力や集中力が足りずにこういう結果になってしまった。


(こちらに有利に事を運ぼうと思って甘んじて受けたけど、ちょっとやられすぎたわね)



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