56『ニューヨークへの原爆投下』
真夏ダイアリー
56『ニューヨークへの原爆投下』
「少し、遊覧飛行をやろう」
トニー(省吾のアバター)が言った。
「何がしたいの……?」
「この飛行機は、ダグラスDC3。日本でライセンス生産しているけど、アメリカ人には見慣れた機体だ。低空でデモンストレーションやっておかないと、日本の飛行機だと分かってもらえない」
トニーは急降下すると、ニューヨークのビルの間を縫うように飛び回った。道行く人たちや、ビルの窓から覗く人たちの顔は、一様にびっくりし、やがて恐怖に変わっていく。人々の声は聞こえないけど、口のかたちから「ジャップ!」「シット(ちくしょう)!」「オーマイガー!」などと叫んでいるのが分かる。
「空軍がきて、墜とされてしまうわよ」
「その前に、仕事は終わらせる……ミリー、すまないね。こんなことに付き合わせて。大丈夫、撃墜される前にテレポで戻るから。あのミリーにそっくりな奴に邪魔させないためなんだ、しばらく辛抱してくれ。ちょっとイタズラするよ……」
トニーがボタンを押すと、翼から機関銃が出てきた。
「何を撃つつもりなの!?」
トニーは黙って、トリガーを引いた。
ドドドドドドドドド! ドドドドドドドドド!
光るアイスキャンディーの列が両翼から打ち出され、エンパイアーステイトビルの最上階のアンテナの根本が粉々に吹き飛び、ゆっくりと落ちていった。
「400メートルもあるんだ。下敷きになる人はいないさ」
それから、トニーはマンハッタンの低空をゆっくり旋回して、機体の下に付けてある三発の爆弾をひけらかした。
セントラルパークの上空3000メートルまで上昇したところで、二発の爆弾が落とされた。爆弾は「ヒュー」という音を残し、高度2000メートルのところで、小さく爆発し、無数のビラをまき散らした。
「これが、ビラの見本だよ」
『アメリカ市民に告ぐ』
ただ今より、ニューヨーク湾の真ん中に原子爆弾を投下する。
この爆弾は、普通の爆弾の数万倍の威力がる。
けして爆発の瞬間は見ないように。太陽のような閃光がするので、見れば失明する。
大日本帝国は、貴国との講和を希望する。
講和のテーブルに着かなければ、以後同じ爆弾を、アメリカの諸都市に落とすであろう。
「同じ内容をラジオの電波でも流している。できるだけ人の命は損なわないようにしている」
「爆弾はダミー……本体は、そのトランクの中でしょう?」
機体が一瞬揺れた。トニーにはショックであった。
「ミリー、どうして、そんなことを……」
「わたしは真夏。IDリングはミリーの頭に付けてきたわ」
「真夏……!」
「さあ、そろそろ、戻りましょうか。後ろにグラマンが貼り付いているわ」
一瞬光が走り、わたしとトニーは、元の空港にテレポした……。




