10『小野寺潤の秘密』
ひょっとしたら……という勘がしたから。
真夏ダイアリー
10『小野寺潤の秘密』
パソコンで小野寺潤を検索した……。
ひょっとしたら……という勘がしたから。
小野寺潤:2006年11月11日/さそり座/東京出身/AB型/155.5cm
HIKARIプロ所属、AKR2期生。2020年10月に研究生から抜擢され選抜メンバー入り。
当たり前のことしか出てこなかった。「小野寺潤、本名」で検索……本名も、小野寺潤だった。
ホッとした自分がいたが、まだ胸に湧いたモヤモヤが晴れない。
小野寺潤の画像を検索してみた。
メイクをしていると、似てるかなあ……うん、似てるという程度だけど、直に本人に会ったときは、鏡を見ているようだった。
並んで写メを撮ったとき、やや目元が違うと感じた。
互いに負けん気強そーって感じだけど、自分で言うのもなんだけど、わたしは、なんだかむき出し。潤のそれはシャープってか、カッコイイ。
まあアイドルなんだから、アタリマエっちゃアタリマエ。動画サイトで見たら、シャープな負けん気がコロっと、十六歳のあどけない少女の笑顔になったりする。なんだか、わたしより一枚上手って感じ。
一晩考え、通学途中、思い切って、教えてもらった潤の番号にメールを送った。
――昨日はありがとう。『冬の真夏』のヒット祈ってます。うちのお母さん(留美子)もAKRのファンです。お父さん(真一)は、離婚したんで分からないけど、チャンスがあったら聞いてみます。ファンでなかったら、絶対ファンにしちゃいます! 真夏(^&^)
お父さんとは、お母さんと離婚して以来会ってない。だから「チャンス」なんて無い。これは、わたしの作戦。
今日はテストの最終日、国語と数学のテストだ。
ダイアリーに書けるのは、テスト終わっちゃったから、途中なら書けない。なんたって、化学と現代社会じゃ、事前に書いて大トチリしちゃったから。
学校じゃ、早くも、わたしが小野寺潤に似てるってウワサがたち、試験が終わって廊下を歩いていたら、いろんな視線を感じた。目的地の食堂の前じゃ、写メも撮りまくられた。
ヘアースタイルいっしょになっただけで、この有り様。このヘアースタイルにしたことを少し後悔した。少しハナミズキの大谷チーフを恨まないでもなかったけど、ボブにしてくれって言ったのはわたしだったので、いたしかたない。
「こりゃ、おちおち食ってらんねえな」
省吾の提案で、ランチをさっさと食べたあと、カラオケにいくことにした。昨日の顛末を説明するって、夕べのメールで約束してある。そりゃあそうだろう、本屋さんで「潤!」と女子高生たちに追いかけ回され、拉致されるようにして居なくなってしまい。省吾も玉男も、心配と責任と、それと同じ量の好奇心がある。
で、下足室で、ちょっとした事件。
わたしじゃないわよ。省吾に!
「なんだ、こりゃ?」
省吾が、下足のロッカーを開けると、そこにピンクの可愛い封筒があった。
――春夏秋冬先輩が好きです。メールの交換とかでいいんです。それでOKなら同封のエヴァンゲリヲンのアスカ・ラングレーのシールを貼ってください。NGだったら綾波レイを貼ってください。決められなかったら、何も貼らなくてけっこうです。終業式の朝までに貼っていなかったら。問題外ということであきらめます。Y――
「チ、こんなもの、どうやって入れたんだ。ちゃんと鍵かけてんのに」
省吾は苦い顔をした。
「……フタの下の隙間よ。ほら二ミリほど空いてんじゃん。薄い封筒一枚くらい入るわよ」
玉男の目が輝いた。省吾は不機嫌そうに手紙を封筒にもどすと、クシャクシャにしかけた。
「だめよ。考えに考えて出した手紙だよ、ぞんざいにしちゃだめ」
わたしが止めると、省吾は不承不承、手紙をカバンにしまい込んだ。
「ねえ、さっきの手紙、先輩って書いてあったわよね」
カラオケボックスに入ると、まず聞いた。
「あ、そうだ。一年生の省吾に先輩って変だわよね?」
「玉男になら、いいや。真夏、説明してやって」
「……省吾は、過年度生なの」
「カネンドセイ?」
「省吾は、去年別の学校に入っていて、今年うちを受け直したの。だから、じつは一つ年上」
「ええ、知らなかった!」
「それ知ってんのは、ごく一部の人間だけよ」
「まあ、二学期も終わりだから、誰が知っててもおかしくは無いけどな……」
省吾は憮然としている。
「知っていたとしても悪意はないと思うわよ。うん、同性だから分かる。省吾のこと好きだから、つい書いちゃったのよ。字もきれいだし、コクりかたもよく考えてあるし。『先輩』ってのは、つい筆が滑ったんじゃないかな。こういう抜け方って、可愛いよ」
「そうか」
「そうよ。しっかり考えて返事してあげてね」
「そうよ、女心踏みにじったら、わたし許さないから」
玉男も、マジな顔で忠告した。
「分かった分かった。それより昨日の真夏の件は?」
わたしは、洗いざらい説明した。
「そんなに笑うことないでしょ!」
そう、二人は大笑い。でもって、スマホで小野寺潤を検索した。
「似てる!」
「そっくり!」
矛先がわたしに向いたところで、カラオケにした。今まであんまり聞いたことのないAKRの曲に挑戦してみた。進んだカラオケ屋で、新曲の『冬の真夏』もしっかり入っていた。
「真夏、こりゃ、しばらく冷やかされそうだな」
省吾の予言は正しいように感じられた。結局AKRの曲を三曲ほど覚えてしまった。
その夜、遅くに潤から、メールがきた。
―― メールありがとう。ビックリだけどうちのお父さんも真一。よかったら真夏のバースデイとか、血液型とか教えて! 潤 ――
わたしの心のモヤモヤはまた大きくなってきた……。
省吾が、下足のロッカーを開けると、そこにピンクの可愛い封筒があった。




