第十二話「四帝集結会議」
セエレ編1-1「フェアツェルト&レケ」
アーサーの一件はその場のみにならず、4つのギルドマスターを集結させる事態へと発展した。脅威そのものは消えたのだから、対策するための会議ではなく、褒美を出す為である。
本来なら北のギルドマスターがその処理を行うのだが、そこに西のギルドマスターが加わったことにより、少しばかりややこしいことになってるのだ。ギルドマスターが二人も出るほどの相手となると、貴族級以上と確定され、払われる金額も桁が変わってくる為に、それぞれ四方のギルドから出し合い、均衡を保とうというわけだ。
今回の会議場所はハインツ家。
この街の統治者の一室を借りて、行われる。そこの参席者として、ギルドマスター達は二人ずつ部下をボディーガードとして呼べるのだが、それとは別で今回の事件の参加者も全員呼ばれることとなった。
本来ならマスターランク以外が立ち入ることは許されぬ神聖な部屋だ。本人に記憶はないがレケですら入ったことはない。Aランクでギリギリ入室を許可されるレベルのことなのだから、今後レケ達が入室する機会はマスターランクへ到達きたときぐらいだろう。
唯一来てないといえば、イシスだ。イシスに関しては事情説明のもと、口裏合わせて居なかったことにした。元々、いない存在なのだから、当然の処置である。スカーラに関しては依頼主なのだから、話すことはない。それに依頼主がスカーラだったからこそ証拠隠滅は完璧で余程のイレギュラーが居ない限りは見破れない。そういう技術も暗殺者として身につけているので一流というわけだ。
そんなハインツ家に久し振りに帰ったレケは、追い出された事自体は昔であるために大して覚えてなかった。少なくとも忌み嫌われた少女であったことは間違いないので、認識阻害を顔にかけて出席した。時々出会うメイドや執事に自身の存在がバレてないかいつも以上に緊張した部分もあれど、これを掛けた空いてへの信頼もあり顔にはあまり出さずに済んだ。
円のテーブルには4人のギルマスが座り、その背後に控えるように立っているのが、ボディーガードと今回の参席者である。参席者と言うだけあって、席は用意してもらえてる。
方向に準じて、東西南北で席に座っている。
東のギルドマスター、グランダ・ラヴェッロ。褐色肌に黒の短髪、瑠璃色の目と180cmという高身長の男性。ラフな格好で友達に会いに来たと言わんばかりの雰囲気と共に席に座っている。目が合うとニカッと笑ってくれることから、人当たりのいい人物だとわかる。だが、その体格は筋骨隆々で服の上からでも筋肉質な体型なのだとわかりやすい。その体にどれだけの力が秘めてるのか、魔力は完全に遮断されている。
南のギルドマスター、グランニャーノ・アトランニ。水色の長髪で髪に白い花の髪飾りを付けている。瑠璃色の目は鋭く、冷たく無表情だ。彼女からは何も感じられず、生きてるのかとさえ、疑問を持っても仕方ないだろう。体全てを隠すようにロープを羽織ってる。見たところ魔術師が持つであろう杖は無いみたいだ。彼女もラフな格好で来てるつもりなのだろう。全く微動だにしないが、周囲も流石に慣れてるらしく特に気にする様子はない。
「んじゃ、四帝会議を始めるが、資料はあるな?」
その手元には今回の一部始終をスカーラが書き記したものがある。それを軽くパラパラと確認し終えた上での開始なので、当然、全員の頭の中に既に収められているが、念の為その確認を行った。
「アーデルちゃん、その内容は間違いないか?」
「ええ、間違いありません。」
何気にグランダが会議を仕切ってるが、これも見るからに適正が一人しか居ないのは一目瞭然だ。ドジっ子のアーデルと無口無表情のグランニャーノ、何か仕掛けそうなスカーラ。この三人がいる時点で、愛想良く皆に慕われるグランダ以外まともに進行できそうな者がいないことはよくわかるだろう。仮にもまともなアーデルにやらせたら、何かしらでドジっ子属性を発揮しそうで何も任せられない。それ以外は論外だ。故に満場一致でグランダが会議代表ということになっている。そんなグランダも結局は問題児ではあるのだが……。
アーデルは快く同意し、スカーラは仕方ないなといった感じで同意。グランニャーノは無言でコクコクっと頷いたが本心は面倒臭いだけだろう。
その資料の中身が二人のギルマスにより、承認されたので次に移項される。ここに集まったのは他でもない。報酬とランク上げだ。
「先ずは、報酬の話だが、今回参戦した全員に貴族級としての報酬を出そう。アーデルちゃんはお金いらないと思うし、好きなやつ二人選んでくれ。1ランク上げよう。」
「……何故に二人と…全員やっちゃいましょうよ!」
アーデルが反対意見を出す。確かに二人というのはなんとも微妙な数字だ。どういう理由でそうなったのか知りたいものだと、レケやマーリンは思った。
「そうそう、今回僕頑張ったし、僕のランクを上げてよ。」
そこに二人目の反対意見も飛び出たが、スカーラは遊んでるだけでまともな意見を出す気は元から無いのがよくわかる。実際に頑張ったのは確かだが、彼とてこれ以上のランクはないことなどわかっているし、仮にも上げられてここの取締役などになったら、暗殺業引退もあり得るためにあまり着きたくないのが本望だった。
「おいおい、手続きがどんだけ面倒だと思ってんだよ。マジ二人で勘弁してくれよお。てか、スカーラはもう一番上なんだし無理だろ。仮にも作るんだったらお前だけ寧ろ取り残されるだろ。バーカ。」
単純な面倒臭いという理由に呆れ果てる三帝。寧ろ、そういう性格だとは熟知しているが、歳を重ねる毎に酷くなってるような気がする。権力者となり過ぎたせいか、強者になり過ぎたせいかは定かではなくとも、もう少し勤勉になって欲しいものだ。帝のまとめ役なのだから。
「なら、グランダと私が全員を二人ずつとかどうです?」
面倒臭がりやはグランダだけなのだし、この方法なら行き渡る。イシスは自分が管轄すれば良いのだし、この方法が良いだろう。それに、グランニャーノは元から動く気は無いだろう。レケ、マーリン、セリエレ(セエレ)、アセト(イシス)、シュワッツ・ヌーティゴン、エレイン・アインシー(受付嬢)の6人しかいないのだし、イシスは自分が多くやるとすれば、グランダは宣言した二人やって、もう一人の面倒くさがり屋のスカーラも文句は言えないだろう。ちなみに、シュワッツはマスターランクなのでこれ以上ランクは上がらない。単純な強さならスカーラと互角だろう。あくまでも初見だった場合の話ではある。初見で殺れなかったら、スカーラの力は激減するからだ。暗殺専門だからこそ、単純な戦闘は不向きなのだ。最もスカーラとて必殺技の1つや2つあるだろうから、必ずしも不向きとも限らない。尚、イシスに関してはスカーラに事前処理を行わせる。存在しない筈の相手が居て、ランク上昇の申請を無許可で行うのだ。当然裏処理は必要だ。代金に関しては後程話し合うつもりだ。した
「ん~?4人ってことは、イシスの嬢ちゃんは良いのか?」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。本来であればバレないと思っていた事実である為にスカーラの仕業と考えるのが必然であり、まっさきに予測することであったのだが、
「スカーラじゃねえよ。スカーラには振られちまったぜ。」
「本当の話だよ。」
スカーラがそれに対して肯定するが、その言葉さえも怪しい。しかし、グランダは嘘は付かない。隠し事をしてるのは間違いなくともそれが彼の信条であり、破ることはないはずだからだ。とすれば、あの場にいた誰かか、別の暗殺者か、はたまたそもそもの話、この街の人間ですらない可能性もあり得る。
グランダとて、その可能性を提示した時点で身の回りが危うくなることをわかった上で言ったのだから、イシスという存在を隠しておくことが非常に面倒だったのだろう。結局のところ、なんだかんだ面倒くさがり屋の本性は隠せないということだ。どうせ隠すならギルマス4人が手を組んだ方が圧倒的に安泰へ繋がるという意味である。纏め役なだけあり、表裏を完全に掌握している。
「はぁ、わかりました。イシスは私がしますので私が3人請け負いますよ。」
「いやいや、俺ら二人とも二人ずつやってんだから、俺の依頼蹴りやがったスカーラの野郎にもう一人くらい押し付けようぜ。どうせ、イシスの件はスカーラが一枚かんでるんだろう?隠し事は駄目だぜ。子猫ちゃん。」
それがただの予測なのか、見ていたのか最早判断のしようがない。
とりあえず、ここで話したと言うことは危害を加えることはないということだ。少なくとも今の時点はという折り紙付きだろうけど、それでもその情報さえなければ、アーデルの知る限り隠し事はない。
「ハイハイ、僕もやりますよ。な~んてね。もうイシスの分は終わらせちゃってたり!」
「おー、流石多重分身出来るやつは仕事が早いぜ。んじゃ、アーデル、この勤勉なやつにあとは全部任せて、俺らは食事行こうぜ!グランニャーノもたまには来いよ!」
「そうですね。あとはスカーラさんに任せますか。」
グランニャーノはコクコクっと頷いて、三人は席を立つ。
「んじゃ、会議終わりー!皆、お疲れさん!適当に帰っていいよ!」
両手に華を抱えながらスカーラを放置してスタスタと出ていった。
スカーラが不貞腐れながら出ていくときになんとなしに声をかけようと思ったが、こちらを一瞥したあとそのまま出て行ってしまった。マーリンと他の二人と共にギルドへと戻ることにした。
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次の日にはランクアップの書類が届いていた。
正直、今回はレケとイシスとセエレは何もしていない気がするのだが、マーリン達の手柄によりこのような結果を招いているのだ。故に、これからは今回上がるランクに相応しいよう鍛錬するしかなかろう。なお、昨日の会議後は体を休める為に休日としていた。一緒に帰ったシュワッツとエレインの二人と一緒にギルドで食事した後に、家へと帰りボードゲームで遊んだのだ。
書類に名前が書かれており、各々のランクを確認したところ1ランクのアップがされていた。マーリンに関してはAランクだ。これで、マーリンの依頼を手伝う形でパーティを組めば、良い経験がたくさん詰めるというわけだ。
「それじゃあ、レケ、イシス、早速依頼受けに行きましょうか。」
マーリンが行く準備を終えているのを見て、レケのサボりたい欲を先回りして潰されたのがわかった。まぁ、駄々こねる歳でもないので面倒ながら行くけど、イシスも同じく冷たい目でこっちを見てくるのは辛い。さっさと準備するとしよう。
ギルドに入ると、いつものアーデルは居なかった。そのまま、受付嬢のエレインの元へ向かうなり、聞いてみた。
「アーデルはメイド職どうしたの?」
「ギルマスとしてのお仕事ですよ。会議が終わったあとの食事会で街に結界を張るようにすることが取り決められたらしく、それの調整で留守にしてるんです。」
「へぇ~、あのドジっ子属性が発動しなきゃいいんだけどね。」
「それで、レケさんは今日はどうしたんですか?」
「そうそう、マーリンが依頼受けに来たのよ。なんか楽に…」
「いえ、一番難しい依頼ありますか?」
レケが楽な依頼を受けようと思ったら、マーリンが横から口を挟んでその逆でお願いをした。本来だったらそんなことを言われても実際に難しい依頼は出さない。昨日まではCランクだった相手に出して、死にでもしたらギルド的に不味いのだ。初心者に上級者向けの依頼を提供したとギルド協会が問題にして、最悪の場合解体もありうるからだ。
ただ、マーリンの強さを目撃したエレインは、マーリンの言うとおりに一番難易度の高い依頼を提供した。
『暴水竜の討伐』
その紙をタイトルを拝見して衝撃が走った。
神竜の子に比べたら優しいとはいえ、災害級なのは間違いない。そんな相手を差し出してくる鬼畜さ。唯一良かった点はレケの得意な土属性の攻撃が苦手な相手であるということぐらいだろうか。最も竜相手にどれだけ戦えるかは定かではないが、悪魔より遥かに強いのは間違いない。未だに戦ったことはなく、攻略法も未知。恐らくマーリンなら倒せるんだろうけど、私達邪魔者が居たら辛いのでは?
久し振りの編集。
セエレ編と第一章のラストが終わったら、アーデル編ですよー。
グランダのネタバレが遠回しにぶっこんじゃう予定というか、
一時的とはいえ、時間操る能力譲渡されてる時点で気づいてますかね?
何はともあれ早くお気に入り1のアーデルちゃんを書きたいものです。あと、第二章の続きもねー。第二章はとりあえず、島での一ヶ月はさっさと終わらせたいとこです。多分今までで一番長編になるので第一章より遥かに話数が多くなるかもですね。
それじゃあ、ほなねー!




