第十三話「水竜。またの名を…。」
セエレ編1-2「レヴィアタン」
早速、出発してから約数分。
セエレの能力を発動しまくって、あっという間に湖へと辿り着いた。ここには水の精霊が棲んでるなどと噂されてるが実際に見たものは居ない。とにかく広いのと、底は見えないほど深いからだ。
そんな湖の果ては見えず、今の所竜なんて居ないような……?
「セリエレ、ちょいと一周して見に行ってきてもらえる?」
「はい、承知致しました。」
それと共に座標の移動でテンポ良く進んでいき、1分も経たぬうちに帰ってくる。マーリンも止めようとしたのだが、執事になったセリエレの仕事は早く、何か言う前に行ってしまった。正直のところ、レケのサボりがちを治したかったのだが、一周するだけで体力が尽きそうなアセトもいるし、ある意味その判断は正しかったのかもしれない。そう自分に言い聞かせる。
「一周したところ、竜は居ませんでした。」
「なら、帰ろ!」
報告を聞くなり即座に回れ右をして帰ろうとしたので、マーリンが即座に止めた。
「もしかしたら、湖の中にいるかもしれないし、それは早計だよ。《煌き穿つ聖槍-ザ・サン・スピアー-》!!」
「ちょっ……」
「へ………」
反応は様々だったが、詠唱破棄とはいえ国を滅ぼせる禁断魔法を何の遠慮もなく湖へと投げたのを見て、驚愕する。というか、詠唱破棄出来るのかよと突っ込みたいこともありつつも、その光の槍は湖の真ん中へと貫かれ、湖の水が全て衝撃により空へと舞上がり、底に溜まってた水の全てが蒸発し、空から水が戻ってきた頃には湖の水位は半分まで下がっていた。ある種の環境破壊であるのは間違いないので後々ギルドか協会からそういうお達しが来るかもしれない。マーリンのことだから全部一人で済ませるんだろうから直接な被害はないとは思う。
生物?そんなものは蒸発した。
この調子だと竜の方も蒸発したんじゃ……と、皆が呆然としてる。てか、この辺の生態に影響を及ぼしたようなと最悪の状況も頭に浮かべていると、体中に傷の付いた水色の竜が空より降ってきた。レケ達の前の空間で漂いこちらを一瞥している。
その集団が自身へ傷を付けた者達だと気付くと共に湖から竜巻が巻き起こる。風が吹いてる訳ではなく、水を操作しているのだ。
「我の眠りを妨げし者達はお前達か。」
そんな水竜の叫びなどどこ吹く風。
マーリンは無視してレケに声を掛ける。
「レケ、今使える最大の魔法がどれくらい通用するのかやってみなよ。」
「んー、この間のガイアスパイラルくらいしか無いんだけど……どう見ても効かなさそうな…」
「そんなことはないよ。どんな魔法も魔力の上乗せでそこそこ強くなるよ。」
「貴様等。我を前にしてよくも。」
「《大地の支柱-ガイア・パイル-》」
マーリンの横に5メートルの大地の柱が出現し、発射される。本来なら1メートルが基本なのだが、魔力を上乗せしたことにより、巨大化したのだ。魔法を発動するのは手順や使い方なだけで、その強弱は関係ない。強弱を合わせているのはあくまで、その操作が難しく手順や使い方に差異を生み出してしまうからだ。
逆に言えば、詠唱破棄出来るのならその手順が殆ど必要ないのだから強弱を付けやすいというわけだ。とはいえ、強弱の付け方など学校で学ぶ範囲外のことだから、知らない人の方が多い。戦いの中で身につけるもので、まだピンチになったことがないレケにとっても無用の代物だったというわけだ。
ピンチと言えばアーサー戦があるが、実力差があり過ぎて強弱などそもそも関係はなかった。その戦いの最中であっても身につけられたなら天賦の才があっただろう。しかし、新たな魔法を取得出来たのは何かしらの才能は持っているのだろう。
その支柱は竜が常に展開してる障壁をいとも簡単に貫き、10枚全てを破壊する。これにより本体に攻撃が出来るようになった。単純に大きくしただけでなく実の大きさより少し圧縮しており、5倍より多くの魔力が込められていたとわかる。
「言ってもわかんないと思うし、私が使うタイミングで上乗せするから、感覚で覚えて。」
「わかった。」
マーリンがレケの肩に手を置く。そして、発動と共に魔力をレケの体に注ぎ込み、操作し、その魔法の回路へと組み込む。
「《貫き穿つ螺旋の鉄処女-ガイアスパイラルメイデン-》!!」
レケの魔力だけでは発動すら叶わず、マーリンの魔力で代用しつつ。更に5倍の魔力を上乗せする。それによりその魔術は威力だけなら上級魔法の壁を破り、究極魔法の一端に届かれる。
竜の背中から一本が発射され、その体の一部を削り取る。それに反応しようとするが、360度囲んだその支柱は隙間などなく、性格に視界の外から飛んでくる。
「グギャァァァァァアア。」
腕が飛ばされその激痛に身を捩る。そこを支柱が更に削り取り、とうとう空すら飛べなくなり、地へと落ちる。そこでようやく支柱が全発射される。正に虐殺。竜って蟻みたいに簡単に潰せるように思えるかもしれないが、マーリンが居なければ寧ろ真逆の立場だった。
その竜の破片は湖にぼとぼとと落ちていき、レケは魔力が枯渇した。体は気怠く何もやる気が起きない。そんなレケに魔力を注ぎ込み回復を促す。魔力の質が違う為回復にはならないが、魔力そのものは貯まる為に回復する手段として使用はされるのだ。
同じ属性を使う相手からの供給なら、より効率的に回復できるが、マーリンは光属性をよく使うので直ぐには回復しない。
魔力の注ぎ込みが終わると共に、帰ろうと踵を返すが、背後より声が聞こえる。
「貴様等、よくも…よくも我に……傷を……付ーけーたーなー。」
湖より出てきたのは水色と青色の装飾された鎧を身に包み、水色の鞘を腰に携えている少女。喋り方といい湖から出てきたといい、間違いなくあの竜だろう。あと、竜のときから気になっていたのだが、抑揚のない話し方。あと、無表情。グランニャーノのように人形とは言わなくとも感情の起伏は静かそうなイメージがある。
「あら、迷子かしら。」
アセトが盛大なボケをかます。
前まではこんな感じの人じゃなかったはずなのに、この雰囲気に毒されつつあるのだろうか?ついつい、ツバを飛ばしてしまうほどにレケが吹いた。マーリンはそんなアセトを見て、我が子の成長を祝うが如く、微笑んでる。
「は。ブッころすぞ。てめー。」
ダメだ。ちびっ子もちびで笑わせようとしに来てる。これはもう腹筋の方が保たない。
「我は魔神レヴィアタンだぞ。本気出したらゴミだぞー。どーだ。すごいだろー。」
「ぷっ……ふふふははははははははは!もうダメ!お腹…お腹が痛い!ふふふふふふふふ!!」
「《煌き穿つ聖槍-ザ・サン・スピアー-》!」
早口で名を固定し、そのレヴィアタンへと放つ。それをレヴィアタンは上体を後ろに曲げ、通過する瞬間にそれを手で持った。そして、そのまま上体を起こすタイミングでそのまま返す。マーリンはそれを即座に避ける。その一連の流れにより、流石のレケも笑いは止まり、戦闘態勢へと移行するが、まさか掴み返すとは予想だにしていなかった。
「レケ、不味いですよ。アレは本物の魔神。しかも、魔神の中で3番目に強い。つまり、セエレ!」
焦りのせいか、前の名前でつい呼んでしまう。マーリンとしては前の名の方が印象強いので仕方ないのだが、セリエレ自身も既に動いていたので、同時に座標の移動をする。
セリエレ自身も一度は其の姿を見たことがあった為に、アセトの手を握り、マーリンやレケの近くにまで移動してたのだ。マーリンの強さがあればもしかしたらとは思いもしたが、少なくとも自分たちが居たら足手まといなのは間違いない。故にレケの背後に居たのだが、マーリンが真名を呼んだことにより、迅速に行動を移せた。
街の方に行けば皆に危険が及ぶ為、その横の山の方へと移動する。ここから50キロ近く先にあるが、その山は見ることが出来たので瞬時に移動できた。到着すると共に念の為、マーリンが障壁を張る。
「《連奏・多重障壁-アッソシアティヴ・バリア-》発動!」
これで少なくとも一撃くらいはレケ達を守れるだろう。その瞬間を見逃さず致命の一撃を入れようとマーリンが即席の魔法陣を下に描く。詠唱だけでなく、その前に必要な長い手順の省略を行おうとしているのだ。魔術を発動するにあたってその完成度はどれだけ多くの手順を介し、発動させたかによる。魔法陣を描き、詠唱し、魔法を組み立てる。この3つのプロセスをどれだけ破棄出来るかがその者の強さを分けるのだが、基本的には左から順番に破棄するもので、中間のみなどやったことがある者など居ないだろう。
しかし、マーリンは状況に合わせそれをやってのけようとしてるのだ。そうして、待つこと数分。一向に来そうにない。念の為、30分ほど待つが、やはりこない。
魔力探知をしても、レヴィアタンは引っかからない。最初に湖に行ったときの魔力は感じなかった。つまり、レヴィアタンは帰ったのだろうか?それとも湖へと引いたのだろうか?
何はともあれ追撃をする気はなかったらしく、疲労もあり街へと帰ることにした。セリエレの能力を使い、街へと帰ろうと近くまで移動すると、すぐに異変を感じ取った。
いつもの活気な様子は悲鳴へと変わり、その街は燃えていた。
ほんの少し離れていただけで一体何が起きているのだろうか?




