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Language of a Flower 2

Language of a Flower 2


考え事をしながら一心不乱に走っていた。

気づけば村の外の平原に立っている。

全く、何をしているのか。

勝手に自国の話をして、少女の言葉に勝手に怒って。

幼稚にも程がある。

とりあえず、外にいても仕方がない。

村の方を振り返った。

その時。

荒々しい風が巻き起こった。

背後に気配を感じ、再び村に背を向ける。

そこには、大きな翼を広げるワシのような魔物が立っていた。

翼の先から反対の翼の先まで、5メートルはある。

「ガルーダ・・・!」

肉食性の魔物だ。

子育ての季節で餌が足りなくなり、村に人を狩りに来たのだろう。

珍しい話ではない。

村に入る前に獲物を見つけたガルーダは、じっとアスターに狙いを定める。

普段ならば手こずる相手でもない。

だが今は

「剣、無いんだよな・・・。」

村に入る時の条件で、普段使っている長剣を手放している。

隠し刀の小刀は持っているが、大型の魔物にはあまり効果が無いだろう。

逡巡している間に、ガルーダが飛び上がった。

爪を立てて襲ってくるのを、寸前で避ける。

「ったく、やるしかないか。」

時間はかかるかもしれないが、それしか方法が無い。

小刀を抜いた。


「アスター!」

ガルーダと対峙した時、高い声がふりかかった。

ガルーダを視界にいれつつ横目で見ると、なんとメイリスが走鳥に乗って駆けてきている。

戦えもしないくせに、何をしているのか。

焦燥に駆られる。

「アスター、投げるよ!」

メイリスが何かを投げた。

とっさに受けとる。

長剣だ。

瞬間、ガルーダがメイリスに狙いを定めて襲いかかる。

利口な走鳥がガルーダから逃れるように、全力で走ってこちらに向かってくる。

そうだ、こっちへ来い。


守ってやるよ。


長剣を鞘に入れたまま腰の位置で構えて、姿勢を低くする。

ガルーダの爪は走鳥の背に乗った少女にみるみる近づき、残り数メートルだ。

少女を乗せた走鳥が自分の横を抜けた瞬間

抜刀。

鞘から放たれた刀身は目の前の巨大な翼を両断し、片翼を失った魔物は勢いよく地面に堕ちて絶命した。



「アスター、やっぱり強いんだね。」

歩いて村に戻る途中、メイリスが走鳥を優しく撫でながら言った。

「お前、よく気づいたな。・・・その、剣。」

なぜか少し恥ずかしい気分になり、目をそらしながら言う。

メイリスは少し自慢げに返した。

「私、目は良いんだ。アスターが村の外に出た時に、あのタカの魔物が平原に降りるのが見えたから、大変だと思ったの。門番の詰所からこっそり剣をとって、この子、走鳥のサンクと一緒に走ってきたんだよ。サンクは私の、一番の友達なの。頭も良いんだよ。」

確かに、メイリスが剣を投げた後に自分の方に走ってくるという、この走鳥の機転がなかったらメイリスは危なかった。

「少なくともお前よりはな。」

ぶっきらぼうに返すと、メイリスはふくれた。

「あー!また馬鹿にした。もう、馬鹿って言う人が馬鹿だってお父さんのお父さんの孫が言ってるんだから。」

「それお前だろ・・・。」

あれ?と首をかしげるメイリスに、つい笑ってしまった。

「あ、初めて笑った。」

メイリスが満面の笑みを浮かべる。

花のような笑顔。


不思議な感情だ。

剣を受け取った時もそうだ。

守る?そんなことのために剣を振るったことが、今までにあっただろうか。

剣を持つ時は、目の前の敵を撃ち滅ぼすため。

誰かのために、剣を握ることなんて・・・

「なあ、お前。」

疑問があふれ、口を開く。

メイリスが期待に満ちた目で振り向く。

そういえば、こちらから話しかけることは初めてかもしれない。

「もし・・・いや、例えば、の話だけど。・・・誰かを守るための強さって、良いと思うか?」

ろくに推敲もせずに放った言葉が、ひどく不恰好で、抽象的すぎた。

「え?うーん、よくわからないけど、素敵なんじゃないかな?」

メイリスは笑顔で答えた。

絶対わかっていないだろうが、それで十分だった。


村に帰ってメイリスは武器を持ちだしたことを門番に謝罪し、だが、アスターのおかげで村に被害がなかったことを熱弁した。

アスターと同国の商人に対する村人の目線が少し和らいだように思えた。


「アスター、もう帰っちゃうんだね。」

「商談も無事終わったみたいだしな。」

残念そうに言うメイリスに、淡白に返す。

「ねえ、私たち、友達・・・かな。・・・また村に来てくれる?」

メイリスがおずおずと聞いてくる。

何故か鼓動が早まる。

「一番の友達は鳥のサンクだろ?」

悪戯らしく聞くと、目の前の少女は豪語した。

「並列1番!」

ふっと笑って言う。

「じゃあ、また来てやるから・・・その並列1番、俺とサンクだけにしておけよ。」

言った後に恥ずかしさがこみ上げてくる。

何を言っているんだ!馬鹿がうつったか!

だが、真の馬鹿は目の前にいた。

「え?・・・わかった!じゃあ、1番はサンクとアスターだけね。あとの友達は、並列2番。」

満面の笑みを向けてくる。

この少女の中で順位付けは意味を持つのだろうか。

村に来た時よりも暖かくなった風を受けながら、平和な土地を後にした。



あれから1年経って、アスターは本当にまた村に来てくれた。

「俺、ついに兄を打ち負かしてやった。模擬試合でな。」

14歳のアスターは、兄をしのいだという。

私は戦いのことはよくわからないし、アスターの国、カンタナグザのことも深く知らない。それでも、達成感にあふれたアスターの笑顔は好きだった。


アスターは年に数回村を訪れてくれた。

お父さんや村の人にとって、カンタナグザの国はやっぱり怖いみたいだったけれど、アスターには優しくて、なんだか嬉しかった。

あるとき、アスターは私をカンタナグザに連れて行ってくれた。

私が13歳で、アスターが16歳の時。

お父さんもアスターの強さを認めていたから、許してくれたんだ。


「すごいね!人が沢山だ。私、もっと殺伐とした国だと思っていた。もっと、通りで人が斬り合っているとか・・・。」

恐る恐る周りを見回しながらメイリスが言う。

「毎日そんなことしていたら国がもたないだろう。」

一体人の国を何だと思っているのか。

「力比べをする時は、街にある闘技場で試合をするんだよ。それに、そういう普通の試合は相手の命を奪ったりしない。そんなことしたら反則負けだ。」

ただひとつ、国王との一騎打ち以外は。

「私、こんなに人が沢山いるの初めてみたなあ。村は人より牛の方が多いもの。どこを見ても牛、牛、牛。」

おどけて言うメイリスに、つい笑ってしまう。

「お前の村があるユーラビア国の都市は、もっとすごいらしいぞ。どこを見ても人、人、人。」

メイリスが信じられない、と言って驚く。

「見てみたいなあ。」

昼前に着いて街を案内し、午後の日が傾きだした頃、日が落ちる前にメイリスを村まで送った。


夜中に城に戻ると、壮年の男が鋭い形相を向けてきた。

自分とそっくりな顔つき。

「また出歩いていたのか・・・お前は自分の立場をわかっているのか。」

「黙れ。日々の鍛錬はこなしているんだ。俺がどこに行こうが何をしようが父上には関係無いだろう。」

アスターがまた、鋭い形相で返す。

「減らず口は私の上に立ってから叩くことだな。そのままでは私に勝てんぞ。兄のようにな。」

兄は、成人した時の手合わせで、父上に勝てなかった。

元々戦闘の才能があまり無かったのだ。

それでも常人に比べればはるかに強いが、父上を上回ることは無かった。

手合わせは何度でも認められるため、兄は今も鍛錬の日々を過ごしている。

「・・・アスター。家を守れ。お前には才能がある。」

父は厳かに言った。

子が王に勝てなければ、他の家の人間が王に挑む。

そこで王が負け、殺されれば、王家の交代だ。

アスターは父親に背を向け、歩き去った。



今日は障害が多い日だ。

数日前に手紙を出したから、村でメイリスが待っているというのに。

村に向かう途中、20匹ほどの魔物の群れと正面から遭遇した。

難なく蹴散らした。

またその途中、10人ほどの野盗の集団にあった。

これもまた叩きのめすのは簡単だった。

世の中、何もかも弱すぎる。

障害を退けるのは容易いが、時間はかかった。

昼過ぎには着くはずが、村に着いた頃にはすでに日が暮れていた。

「アスター!心配したよ。途中で何かあったのかと思った・・・。」

メイリスが泣きそうな顔で駆け寄ってきた。

「俺がそのへんの魔物や野盗に負けると思うのか?」

ただ数が多く、時間がかかっただけだ。

怪我ひとつしていない。

メイリスはゆっくりと首を横にふり、結局流してしまった涙を拭って微笑んだ。

「ねえ、アスター。折角だから月を見に行かない?今日、満月なんだよ。」


夜空をゆっくりと見たのなんて初めてだった。

「アスター、あれ見て。あの7つの星。北斗七星っていうんだよ。」

「へえ、知らなかったな。覚えておこう。」

楽しそうにメイリスが星座を解説していく。

「夜空のお話は好きなんだ。」

「勉強はできないのに?」

「できるよ!初めて会った時みたいに馬鹿じゃ無いんですー。」

「123割る3は?」

「43」

「惜しい」

メイリスが悩み始めた。

おかしくなって、つい笑ってしまう。

「なあ」

出そうとしていなかったのに、声を出してしまった。

メイリスが振り向く。

しまった。まだ心の準備ができていない。

黙っていると、メイリスが催促した。

「どうしたの?」

言えることから言おう。

「俺・・・18歳の誕生日まであと1年だ。それまでにもっと強くなって・・・父様を倒さないといけない。王家を守るために。」

メイリスが頷く。

「うん。・・・やっぱり、立ち向かわないといけないんだね。・・・辛い、よね。」

悲しそうな顔をするメイリスに、力強く返す。

「いや、大丈夫だ。それがカンタナグザのやり方だから。そのおかげで大国に対抗できているんだ。国を守っていくためには、強くあらないといけない。」

不思議と笑顔になれる。

メイリスの優しい柔らかな笑顔とは違う、強気な笑顔。


一拍置いて、繋ぐ。

「なあ、メイリス。・・・その、俺が父上に勝ったらさ。」

言葉が途切れてしまう。

メイリスが首をかしげる。

ええい、いけ、俺。

「俺が父上に勝ったら、カンタナグザに来ないか。こういう国だ、生きづらいかもしれない。いや、生きづらいと思う。全部俺の勝手だ。だから、全然断ってくれてもいい。でも」

「アスター」

矢継ぎ早に言葉を繋げるのを、メイリスが遮った。

数秒沈黙が流れる。

断られるか?断られるよな。村の方がずっと住みやすいだろう。

「アスター、私も・・・勝手、が、ある。」

想定外の反応だった。

メイリスは珍しくうつむいて話し始めた。

不安が胸をよぎる。

「私・・・ね、病気がある家系なんだ。お母さん譲りの病気で、女性は必ず発症して、30歳まで生きられないんだ。男性は半々で、お母さんの男兄弟はお兄さんは死んでしまったけれど、弟さんは元気。」

胸に黒いもやがかかったように感じた。

「治らない・・・のか・・・?」

「うん。私も最近知らされて・・・詳しいことは知らないけれど、遺伝性の病気みたい。今の医療技術じゃあ、どうしても無理だって。」

沈黙が流れる。

重苦しい沈黙。

月光が冷ややかにさす。


メイリスがおもむろに立ちあがった。

「発症するまでは元気なんだけどね!ほら、元気100倍!」

何のつもりなのか、細い両腕でガッツポーズをとりながら、死を覚悟しているとは思えない笑顔を見せる。

「アスター、こんな勝手がある私だよ!だから、全然断ってくれてもいい!」

メイリスが冗談めかして、後半の部分で声を低くして言う。

真似をするな。

自分も立ち上がり、目の前の白いワンピースを着た黒髪の少女を抱きしめた。

「一緒にカンタナグザで暮らそう。」

月の光が心なしか、温かみを帯びた気がした。



その後、1年間アスターは村に来なかった。

約束を果たすために、今まで以上に鍛錬に励んでいたんだって。

18歳のアスターから手紙が来た時、私は15歳の誕生日を目前にしていた。

手紙には一言、『迎えに行く』って書いてあった。

・・・果たしたんだね。

またアスターに会える。

嬉しくて、家中走り回った。

お父さんに怒られた。

私の村では15歳で成人だから、あとひと月して誕生日を迎えたら、カンタナグザに行く。

もちろん村も、村のみんなも大好き。本当は離れたく無いよ。

お父さんなんて、泣くんだもの。大の大人の男のくせに。

でも、アスターと一緒に行きたいって思う気持ちも強いんだ。

ラクシュミにも背中を押されたから、もう迷わないよ。

命の時間は限られている。

そんなの私だけじゃ無い。皆限られている。精霊だって。

ただ、私の場合、それが少し短いだけ。

限られた時間を、十分に楽しく過ごす。沢山ものを見る。

それが私の夢。



自分の父親の命を奪った。

その事実に数日間苛まれた。

母親は兄を連れて城から、いや、国から出て行った。

それはそうだよな。俺はあんたの息子じゃあない。

かわいい兄とどこかへ行きな。

俺の母親はとうの昔に亡くなっているから、親族は皆いなくなった。

だが、これは悲劇の話じゃあ無い。

なぜかって、これがカンタナグザの連綿と繋がれてきた歴史だから。

魚が生まれながらにして泳ぎ方を知っているように。

ウミガメが生まれてすぐに海を目指すように。

この国にとって、当然のことなのだ。



メイリスとの生活が始まった。

メイリスの村では成人は15歳だが、カンタナグザでは18歳だ。3年一緒に暮らして、それから結婚した。

メイリスが22歳の時、新しい家族が生まれた。

男の子だと知った時、メイリスは嬉しさで涙を流した。

彼女の涙を見るのは2回目だった。

メイリスの病を受け継ぐ可能性は半々だが、希望がある。

「名前決めないとね!」

「強そうな名前。」

「そんなことしなくても、どうせあなたが強く育てるんでしょう?・・・私のすごく好きな花の名前からとりたいな。花言葉もぴったり。」

「花?軟弱そうだな。」

「アスターも花の名前のくせに。」

「うるせ!」


存分に、お前の優しさを伝えてやってくれ。

俺はそういうものを知らないから出来ないが、お前ならできる。

俺に笑顔を教えてくれたように。

新しい風だ。

冷酷なこの国の歴史に、新しい、暖かい風が吹き込んだ。



Aster, the language of the flower is… Loving heart leads a change.

(アスター、その花言葉は・・・”想いが変化を導く”)


Shinlily, the language of flower is…pure and gentle heart.

(シンリリィ(スイレン)、その花言葉は・・・”純粋たる優しき心”)


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