表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/22

10. white mountain

10. white mountain


朝日もはっきりと通さない雲が空を覆い、雪を降らせる。

「隊員の方も準備ができたみたいだね、そろそろ出発だよ。」

ロゼリアがシンとエドナの元に来て言う。

調査隊はロゼリアの他にふたりの男性研究者と、5人の傭兵からなる。

研究者は50代半ばと思われる男性と、ロゼリアと同年代の男性。

先の男性はロゼリアによると、今回のリーダーだそうだ。

傭兵はまず、大柄な3人の壮年の男。それぞれ大剣、双剣、槍を使う。

そして、細身な長身の男。

背中には矢立てが携えられている。弓を使うのだろう。

そしてもう一人は、フードマントに身を包んだ、短い赤いくせ毛の小柄な少女。

10歳ほどだろうか。


それぞれが簡単な自己紹介をした。

「私はクロ。よろしくね。道具や術式でみんなのサポートをするよ。」

赤髪の少女が名乗ると、槍使いの男が小さく悪態をついたのが聞こえた。

隊の中に子供が混じっているのが気にくわないのだろう。

シンとエドナも際どい所だ。

クロはその悪態が聞こえていなかったのか、槍使いには目もくれず、並んで立つシンとエドナ元に歩いてきた。

シンとエドナを交互に見つめた後、じっとシンを見つめる。

「どうかしたの?」

あまりの視線に居心地が悪くなったのか、シンが苦笑しながら尋ねると、クロが満面の笑みで言い放った。

「私、君、好きだなあ。」

あまりに急な告白に、エドナとロゼリアが同時に振り返る。

だが、シンは全く意に介していないようにあしらった。

「はいはい、ありがとう。ほら、出発みたいだよ。」

リーダーの男性研究員が出発を促した。

唖然とするエドナにロゼリアが歩み寄り、神妙な面持ちで言う。

「これは臨戦態勢だねえ。」


案の定、雪山ではアティカの南森のように凶悪化した魔物が闊歩していた。

が、基本的に大柄な男3人が魔物をなぎ倒していくので、非常に楽な戦いであった。

「ここはプロの傭兵に任せて、子供は休んでな。」

シン、エドナ、そしてクロのことを見ながら、大剣使いが少し嫌みをきかせた口調で言うのを、シンが軽く受け流す。

「どうもありがとう。頼りにしてまーす。」

エドナが少し悔しそうに言う。

「シン様、絶対あの人たちより強いと思うのですが・・・。」

傭兵たちは確かに力強いが、その戦い方には隙が多い。

知能が高くない魔物相手なので優勢でいられるが、利巧な魔物や、それこそ人には通用しないだろう。

だが、シンは気楽に返した。

「いいの、いいの。楽できるでしょう。」

「気が合うね、私も楽できるなって思ってた。」

クロが嬉しそうに同調した。

「ロゼさん、なんだか私、今までに感じたことのない感情に包まれています。何でしょうか。」

エドナが呟くように漏らした。

「・・・後でゆっくり教えてやるよ。」

ロゼリアはゆっくりと溜息をつきながら答えた。が、その表情は普段のような悪戯らしい笑顔を欠いていた。


山の中腹を越えた頃、ふいに弓使いが大声を上げた。

「大きいのが来るぞ!」

歩いている斜面の上を見上げると、そこには巨大な狼が佇んでいた。

狼は唸り声を上げ、こちらを見据えている。

距離があるのと雪が降っているのとで遠近感が掴めず、正確な大きさがわからない。

ただ言えることは、その巨狼の敵意が尋常では無い、ということだ。

弓使いが矢を引き絞る。

ロゼリアがシンとエドナの元に来た。

「なあ、シン。あんた、あれに何か感じないか。」

ロゼリアが珍しく疑問を投げかける。

言われてみると、違和感を感じる。

ただの魔物ではない。

むしろ、精霊に近いもののように思える。

だが、精霊のそれとも違う。

思考の整理がつかずに悩んでいると、隣にいたクロが短く呟やいた。

「フェンリル・・・。」

クロの小さな声に被せるように矢が風を切る音が聞こえたと思うと、急に狼が飛び上がってこちらに向かってきた。

弓使いが矢を放ったのだ。


5メートルはあるであろう、巨大な灰色の塊が向かってくる。

迎撃が間に合わない、と思ったその時、狼は何故かただ調査隊員の間をすり抜けて走り、そのまま方向転換して森の奥に消えた。

呆気にとられて狼が消え去った森を見つめていると、斜面の上方から不気味な振動が伝わってきた。

「まずいね・・・雪崩を起こしたってのか。」

ロゼリアがつぶやく。

次の瞬間。

斜面上方が波打ち

全てが白に包まれ、咄嗟に目を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ