ノミよりも小さく、そして誰にも揺らげさせることのできない俺の、プライド
メゾン文庫大賞へ応募してみようと思いました。
審査員の方が読まれてどう思うのか、ちょっときになるし…
とにかく応募することにしました。一次審査くらいとおるといいな
およそ1ヶ月ぶりの部活。
時間が時間なだけにすごく気まずい。
なんなんだこの構図。ドアのそばで一人黙って読書する俺をみんなが
取り囲み、黙ってジーっと見つめてくる。
気分はまるで肉食動物の群れに囲まれてしまった草食動物。
このまま俺の体を食い尽くしてしまうのだろうか。
しかも社研部員じゃ無いやつまで混じってやがる。
眼鏡と超売れっ子アイドルな。
流石にこんな中で黙って読書が出来るような鋼の心は持ち合わせていない。
「それで、何なの」
「「「「「何が?」」」」」
うわ、怖ッ!声そろってる。練習したのかな?
幼稚園の頃の学芸会を思い出す。ゲロ吐いて参加できなかった奴だ。
てかほんとずっと笑ったままこっち見るのはやめてほしいかな…
「はぁ。もういいよ、俺の負けだ。で、何。
それとその笑ったままこっち見るのはやめてほしいかな?」
「じゃ、私から。先輩、なんであの時私に頼って、いやこれも違う。
なんで私に少しでもどうするか、聞いてくれなかったんですか?」
佐野は少しだけ涙目でそう問いかけた。
「お前に聞いても何も解決しないと思ったからだ」
「そ、それって」
「お前なんかにどうするか聞くのは聞くだけ時間の無駄だと思ったからだ」
佐野はうつむき、俺からはその顔を伺うことは出来ない。
少しだけ口を動かしているようだが声は掠れて聞くことは出来ない。
ただ泣きそうになっている、いくら俺でもそのくらいは分かった。
「それで、他になんか聞きたいことはあるか?」
「い、いいえ。何も、何もありません…」
佐野は耳を澄ますとようやく聞こえるほどの大きさでそう言いうと
ばッと扉を開けて勢いよく走って出ていった。
「それで、お前らは何が聞きたいんだ?」
俺は読んでいた本にしおりを挟んで完全に質問に答える体勢に入った。
「う、上本君。我が生徒会に入らないかい?今なら書記が
一席空いているから君を入会させることが出来る」
「なんで俺?」
「君の花城さんを助けた時の行動を見ていたからだよ」
「そんで、お前は何してた?」
「私は緊急連絡先へ電話をするために
近くの公衆電話を探しに行ったよ」
「俺が殴られている間に、か」
「ん?私はてっきり堂々と男達に立ち向かっていく君の姿が見えたから
私は必要ないと思って公衆電話を探しに行ったのだが…」
この拍子抜けした二宮の顔を見る限りきっと俺が殴られていたのは
知らなったんだろう。それならわざわざ伝える必要もない。
「いや、何でもない、それでお前携帯は持ってないのか」
「家の方針で大学まで携帯は持てないという事になっていてな」
誇らしげに眼鏡をくッと持ち上げる。高校生で携帯一つ持っていないとか…
てか絶対こいつ友達いないだろ。
「それで生徒会には…」
「入らん。まず生徒会に入って何をする。たかが生徒会が行える
力はたかが知れている。せいぜい文化祭や体育祭やらでわいわい
するくらいだろ」
「言い方はちょっとあれだが…まぁ、君の言いたいことも一理あるな」
「だから、俺はそんなくだらない生徒会なんぞに入るつもりはない」
俺はきっぱりとそういい捨てた。
二宮は残念そうに眼鏡を掛けなおした。
自然と二宮の眼鏡にも艶が見えないような気がする。
「そうか…君の為に色々と手続きを済ませていたんだが…じゃあ、私も
仕事が残っているんでね。帰るとするよ」
残念そうに帰っていく二宮。
言い過ぎたかもしれない。だが、生徒会なんぞ俺がいる場所ではない。
「それで、次はだれ?」
「わ、私」
はいっと小さく手を挙げる花城。
ふうむ。これがアイドルパワーというもなのか。
「ちょっとまったー」
城津は手のひらをこちらに向けて待つように促すポーズを作ってそういった。
「これ以上私の大事な部員達を傷つけるのはやめてほしいかな?
多分今の上本君はこれ以上何を言っても人を傷つけちゃうと思うんだ。
今日は一旦家に帰ってもらってもいいかな?」
にっこりと優しそうにこちらに笑いかけた城津だが、俺には彼女の心のうちが
見えたような気がした。”お前はいらないから早く帰れ”そんな感じの。
まあ、俺自身居たくもなかったので帰ることにした。
「じゃ、俺かえるわ」
そう言い残して俺は社研部室をあとにした。
しょうがないじゃないか。
俺自身なんであの時あんな行動をしたのかわからない。
花城の時に限らず、佐野の時にも。
本当に彼女たちがかわいそうだと思って助けたんじゃない。
これは照れ隠しなんかじゃなくて本心だ。
それなのに体が勝手に動いた。
だがその結果俺は人助けをしたことになった。
人なんか他人なんか、社会の一部である人間なんか助けたくもなかったのに。
とにかく人助けをした結果、助けた人から、周りから
感謝、尊敬、色々浴びることになる。
俺はそれが嫌だった。それは照れくささなんかじゃない別のもの。
きっと花城や、二宮、社研部の奴らはとてもやさしい人なんだ。
きっとそんな優しい人から浴びるそれはとても美しい。
純粋で俺が今まで見たことのなかったほど綺麗な。
だから嫌だ。俺が10何年信じてきたこの世は汚くて薄汚れている、そう思っていた
ものがこうも簡単に、本当の優しさを持った人物が
数か月で、一気に見つけることが出来たのだ。
4人も、いや横野先生をいれたら5人かもしれない。
だから十何年も信じ続けたものが今否定されたような気がした。
いや否定されたのだ。お前が信じ続けたものは間違っていると
俺が信じもしない神にそう言われたような気がした。
十何年なんて短いなんて思われるかもしれない。
だが俺はこの青春と呼ばれる人生のだいご味ともいえよう
重要な時間をたった一人で生きてきた、いや生き抜いた。
その時間はとても辛かった。とても寂しかった。
友達を見つけようとしたが、友達を作ったら今まで信じてきた
社会は薄汚れているという考えを一瞬で否定したような気がして
俺のとても小さくて醜いプライドが許さなかった。
これだけは守りたい、
俺の積み重ねた独りの、重い、重い時間が俺自身を苦しめた。
俺を放さなかった。時間という誰にも解けない強い呪い。
だがこうも純粋な奴らを前にするとその呪いは一瞬で解けてしまう。
それだけは嫌だ。何十年も積み重ねてきた呪いを10分ほどで解かされるのは。
だから突き放した。もう二度と会うことはないほどに。
こうするしかなかった。
そんな簡単に解かされてたまるか。
俺の中に秘める小さい、女々しい、目苦しいプライドがそれを拒んだ。
子供みたいにぐじった。情けないと自分でも思う。
思うがこればかりは仕方がなかった。
実際一番腐っていたのは社会でもなく、
世の中でもなく、実は俺だったのかもしれない。
俺は家に帰る道中やっぱり一人でそう思った。




