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狂魔伝  作者: ラジオ
第二章
42/67

story41‐‐狂科学者(マッドサイエンティスト)‐‐

 泉が追いついた時には、さすがの小塚で、もう秘密の地下へ通じると思われる入口の円盤らしきものが外されていた。

「まず、俺と佐川と安藤で地下に下りる。野芝はここを見張っていてくれ。万が一、五分以上トランシーバーから連絡がなかったら、野芝、お前も下りてきてくれ。連絡を入れられないほど援護が必要だという意味だ」

「わかった」

 小塚、佐川と続いて泉も地下への階段を下りていった。

 階段を下りるのに、長々と五分はかかった。小塚が途中でトランシーバーから連絡を入れなかったら、隼人が心配して下りてきただろう。

 小塚が床へ下り立った時には、泉にも緑色の不気味な光が床を照らしているのが見えた。

 そこはやたらと長い部屋だった。部屋というより、通路という方が近いかもしれない。ずっと奥まで続く長い通路の両側に、高さが何メートルもある大きなガラスの容器がずらっと並んでいた。どの容器もスライド式らしいガラスが横に開きっぱなしで、下から緑のライトで空っぽな容器の中を照らしている。

「何か入っていたんでしょうか?」

 泉が素朴な疑問を口にする。

 小塚が手前の左側の容器に歩み寄った。

「人間が入っていたみたいだな」

 容器の内側から見つけたらしい一本の黒い髪の毛を二人に見せた。

〈ようこそ、我が秘密の研究室へ〉

 どこからともなく声が聞こえてきた。

 聞き覚えのない老いた声だった。

 三人とも周囲に気を集中させる。

 上から聞こえてきた気がして泉は天井を見上げたが、深い闇があるだけだった。暗いからか、あるいはただ単純に天井が高いだけかもしれない。

〈君たちネズミは、どうしてそんなに蒼井の化け猫を邪魔したがる? ネズミの分際で化け猫を止められるはずもねえのは、自分たちがよく身にしみてわかっているだろう〉

「蒼井の……仲間?」

 佐川が半信半疑で呟いた。この声の主は蒼井を知ってはいるようだが、仲間という印象をあまり強くは感じられない。

〈狂魔特別対策組織なんざ、さっさと解散するんだな。蒼井の力は本物だ。お前らがいくら勇敢に立ち向かったって、徒労に終わるどころか、寿命を縮めるだけだ。悪いことは言わねえ。さっさとここから身を引いて、二度と蒼井のガキには近づくな。そうすれば、俺もここで実験を続けられるようになり、お前らを殺す必要もなくなる。つまり、逃がしてやってもいいって意味だ。今すぐここから引かなかったら、遠慮なくお前らには俺の実験材料になってもらう〉

 小塚は背中の刀を二本とも引き抜いた。敵意を隠そうともしない挑戦的な態度そのものだった。

 それを見た佐川も、両手を懐に突っ込んで二丁の拳銃を握る。

 やがて百メートルほど向こうの壁が開き、メガネに白衣という、いかにも科学者らしい痩せぎすの老いた男が歩いてきた。

「身を引くつもりはなさそうだな」

 男は後ろを振り返った。

「お前たち! あいつらの手足を縛って拘束するんだ!」

 男の命令と共に、奥の部屋から無数の白いローブに身を包んだ人間が出てきた。

「全員殺すぞ」

 小塚が死神のように冷酷な目をして言った。

 二人とも返事こそしなかったが、あの男が蒼井の情報をもっている以上、向かってくる相手を全員倒さなければいけないことは重々承知していた。

 先陣を切って攻撃を仕掛けたのは佐川だった。向かってくる先頭の男を狙って撃ったが、軽々とかわされる。

「やっぱり、あいつら全員狂魔――」

 言い終わる前に、「うっ」と呻いた小塚の身体が痙攣したようにまっすぐ伸びた。

「まさか……こいつら……」

 泉が佐川に視線を移した時には、もう佐川は倒れていた。

「これって……正の感情物質?」

 泉は狂魔と遭遇した時とは異なる感覚を身体に感じていた。感知器に反応しない男に負の感情物質で病院送りにされた時と同じくらい不快だったが、なぜか今の泉は小塚たちほど影響を受けない。

「佐川を……安全なところに……」

 何ともなさそうな泉を見て、小塚が切れ切れの息で言った。

 泉は少し考えてから、動けなくなった小塚と佐川を階段のそばまで運び、一人でローブの集団の中に突っ込んだ。

 奥の方から眺めていた男は泉の行動に目を疑っていた。

「な……どうして動けるんだ?」

 メガネの奥の爬虫類のように飛び出た目でよく観察すると、泉の髪が真っ白であることに初めて気付いた。容器の緑のライトに照らされていたために今まで気付かなかったが、男の目に映った泉の髪は確かに純白だった。

「……そういうことか。蒼井のガキ、小賢しいまねをしやがって」

 泉は次々とローブの集団を倒していった。戦闘能力は狂魔並みにはあるようだったが、相手はどうやら非常に動揺しているようで、訓練を積んだ泉にとっては鈍い動きだと言えた。

「お前たち! その女に感情物質は効かない! 力づくで拘束しろ!」

 後ろの方から男が声を張り上げた。

 今度は泉が動揺していた。あの男の言い草では、まるでこのローブの集団も蒼井と同じように感情物質を操れるかのようだ。

 徐々に相手の動きが機敏なものに変わっていき、ついに泉の突きを受け止める者が現れ始めた。

「……そんな!」

 泉は背後から片腕ずつ順に両足まで拘束されていき、正面の人間の蹴りを脇腹に受けた。

 思わず呻く。狂魔の筋力だけあって、激痛が走った。

「縛れ!」

 また後ろの方から男が声を張り上げた。

 ローブの二人が懐から金属の鉄かせを取り出した。

 両手と両足に触れる金属の冷たい感触。

 頭の中では逃げなければと思っているが、それを実行するだけの力を出すことができなかった。何人もの人間が泉の身体を押さえ込んでいる。泉の視界に、今にも鉄かせを閉じようとするローブの人間の顔が映った。若い女性で、表情は沈んでいる。気乗りして戦っているわけではないようだった。

 もうだめだと思ったその時、何発もの銃声が立て続けに響いた。

 泉を取り囲んでいたローブの人間がみな倒れていた。

 振り向くと、地面に這った状態の佐川と、その隣に立つ隼人が拳銃を向けていた。ローブの集団の注意が泉に向いていたことで、佐川たちへの感情物質の放出まで気が回っていなかったようだった。

 すぐに佐川と隼人が苦しそうに叫び始める。

 泉は振り返って戦闘を再開した。油断しなければ勝てる相手だ。

 数を減らしていくうち、隼人の呻き声も収まっていった。

 残りわずかになってきたところで、相手が二手に分かれた。一方の集団が泉を牽制し、その隙に両隅から泉をさけて、残りの数名が小塚たちの方へ向かった。

 泉の真横を通り過ぎた瞬間、再び小塚たちが激しく痙攣したように身体を震わせて固まり、倒れた。

「もう生かさないでいいから、とっとと殺せぇ!」

 奥から手下のほとんどを殺された男の怒りの声が響いた。

 泉の身体から激しい焦燥感が噴き出してくる。

 このままでは本当に三人とも殺されてしまう、そう思った瞬間、ローブの人間の間から、奥の男の顔がちらりと見えた。品のない表情、歯並びが悪くところどころ黄色くなった前歯、そして一番特徴的なのは、あの爬虫類のように飛び出た眼球。泉は男の顔を知っていた。つい最近見たばかりの顔だった。

 全てを悟った泉の表情が割れたガラスのように歪み、目には黒々とした憎悪の炎が燃え盛った。

 泉の動きが数倍速くなったように俊敏になり、十秒と経たぬうちに周囲の相手全員の腹部を指で突き貫いていた。

 小塚たちを殺しに向かっていたローブの者たちが、異様な気配を察して振り向いたその時にはもう泉は目の前にいた。

 ローブの者を全員倒すと、泉が獣のような叫び声を上げ、男の方へ走り出した。

「く、来るな! 怪物が!」

 男は泉の急激な変化に腰を抜かしたように尻もちをついて足をばたばたさせていた。

「お、おい、カリン!」

 男が奥の部屋に呼びかけた。

「この怪物を止めろ!」

 中からやはりローブに身を包んだ者が現れた。

「こ、こいつは桁外れに優秀な出来だ。こいつなら……」

 カリンはまっすぐ泉の方へ歩いていった。

 泉は走り込んだ勢いのまま、刀のように鋭利で真っ赤に染まった指先をカリンの顔目がけて突き出した。

 だが相手はぎりぎりで顔をそらす。そのまま泉の首を両手で掴み、もち上げる。頬に細い切り傷があった。避けきれたわけではなかったようだった。

 足が地を離れた泉の顔に、悪鬼のごとき恐ろしく歪んだ笑みが現れた。カリンの両手首を掴み、骨ごと砕く。足が地面に着くと、首元に残っていた両手を潰してその場に捨てた。

 カリンは自分の両手を見て、甲高い声で絶叫し始めた。想像を絶する激痛や、目の前の血に染まった残酷な光景が受け入れられないように泣き叫ぶ。

 泉の顔に再び狂気の笑みが浮かんだ。

「うわぁ……気持ち悪い」

 泉はカリンの両腕を見て、さも気持ち悪そうに言った。

「それじゃあ、今度こそその頭蓋骨を砕こうかしら!」

 泉の言葉を聞いて危機を悟ったのか、カリンは恐怖で白目をむき、そのまま気絶した。

「チッ」

 泉は舌打ちをすると、男に歩み寄った。頭を掴んでもち上げる。

「お、おい、何をする気だ! やめてくれ、痛い! 離してくれ!」

 恐怖で怯える男の表情に嬉しくなったのか、泉が満面の笑みを浮かべた。

 男の頭に泉の指がめり込んでいく。

「泉ちゃん!」

 佐川の声で我に返り、泉は手を放した。

 床に倒れた男が苦悶の表情で呻く。

 泉が振り向くと、哀れな眼差しを送る佐川たちの姿があった。急に力が抜けたようにその場に座り込む。

 首元にかけた金のネックレスが、じゃらっと音を立てた。





「一体どうした?」

 小塚がペンダントを見つめる泉に訊いた。

 泉たちは奥の部屋で腰を下ろして休んでいた。隣のやたら長い部屋ほどではないが、数多の機械が並び、それなりに広々としている。小塚が引きずってきた男は気を失っていた。

「……この男は……日比野徹という組織の元メンバーです」

「日比野?」

 小塚が驚いて日比野の方を向いた。

「死んだんじゃなかったのか?」

「ボスになってから見せてもらった資料の中に、この男の顔写真がありました。日比野は七年前に事故を起こして死んだことになっていましたが、今ここにこうして生きています」

「どうして死んだはずの男がここにいるんだ?」

 隼人が当然の疑問を投じる。

「おそらく……」

 泉が答える前に、部屋中に大きな衝撃が響いた。

 小塚が機械を思い切り蹴りつけていた。大きな穴が開いている。

「……小塚君?」

 佐川はここまで苛立った小塚を見るのは初めてだった。そしてその理由も皆目わからない。

「小塚さん以外は知らなかったようですが、実は組織では七年前まで孤児を預かっていました。狂魔と戦えるよう訓練させるためです。その頃は組織の被害は常に甚大なものでしたから、苦渋の決断だったとは思いますが、必然でもあったでしょう。そして七年前、日比野が事故を起こしたことにより、孤児たちは全員死亡しました。記録上は……です」

「まさか……」

 佐川はようやく状況をのみ込めたようだった。

「はい。日比野がこうしてここにいるということは、だれかがその事故を仕組んだことになります。おそらく、その時日比野と蒼井は繋がったんでしょう。蒼井が記録を改竄、日比野が孤児たちを誘拐し、彼らを狂魔の実験に利用する。蒼井が組織に潜入したのは、もしかしたら日比野に狂魔の研究をさせるためかもしれません」

「どうして日比野はそんなことをする必要があるの?」

「日比野は人体実験に全てを捧ぐマッドサイエンティストだと聞いています。おそらく、そこを蒼井につけ込まれ、これからいくらでも人体実験をさせてやるとでも言われたんでしょう。そして蒼井は狂魔に関する知識を得るために孤児たちを狂魔化させ、日比野に研究させた」

 小塚は気を失っている日比野を壁を背にして座らせ、顎から蹴り上げた。

「うっ」

 呻き声と共に日比野が目を覚ました。

「おい、日比野、よく聞け。俺は今まで、相手が狂魔ならだれであろうと容赦なく殺してきた。この世には殺さなきゃならない人間もいる。たとえそれが、お前の実験で狂魔になった昔の友人でもな!」

 言葉に殺意以外の感情はない。

「だが、俺は何も感じずにあいつらを殺してきたわけじゃない。俺はいつもあいつらを殺した後で誓った。お前らの敵討ちは俺が必ずするってな。俺はお前を許すつもりはない。用が済んだらすぐに殺してやる。だがその前に、お前がもっている蒼井の情報を全て吐け!」

 日比野はすっかり脱力したように口を閉じていた。もはや助かる見込みを感じない以上、全てどうでもいいといった感じだった。

「安藤。今すぐ本部から治療課のロボットを呼べ」

 小塚が泉に向けた目はとてつもなく冷たいものだった。

「小塚さん……まさか!」

 泉が言い終わる前に小塚は日比野の右腕を斬り落とした。

 金切り声を上げる日比野を背にして小塚が振り向く。

 目には怒りや憎悪を超えた殺気が満ちていた。

「早くしねえと、こいつ死ぬぞ」

 冗談でも真面目に言ってるわけでもなかった。小塚の言葉は、早く治療課のロボットを呼ばないと日比野を殺すという宣言であり、脅迫だった。

 説得が通じそうにないと判断した泉は、すぐに携帯を取り出して地上に向かった。

 佐川が急いで日比野の応急処置を始める。

「喋る気になったか?」

 小塚が日比野の耳元で囁く。

 日比野は憎悪のこもった目で小塚を見上げていた。

 小塚はそれに殺意の眼差しを返す。

 再び日比野の悲鳴が響いた。

 隼人の足もとに日比野の左腕が転がる。

「小塚君! いくら何でも……」

 佐川がすぐに左腕の治療に取りかかった。

「いくら何でも……何だ? こうでもしなきゃ喋らねえだろう」

「でも……」

「昔の俺の仲間に殺す以上の仕打ちをしたこいつを、俺に許せって言うつもりか? 俺が殺した時、あいつらは自分の記憶を失っていた。知らないうちに狂魔としてこの世から淘汰される存在になるより、こいつの被害者として普通に殺された方が、あいつらにとってどれだけ幸せだったか!」

 小塚が日比野の首に刃を当てた。

「おい、もう一度チャンスをやる。お前がもっている蒼井の情報を全て吐け!」

 日比野はぼんやりと虚空を見つめている。

「……人体実験ができないなら、こんな世界、蒼井に潰されればいい」

 全てを諦めた男の表情は、まるで生きた屍のようだった。

 小塚の額に大量の血管が浮かび上がる。

 再び日比野の絶叫とともに血が飛び散った。日比野の左足が付け根から斬り落とされていた。

「小塚君!……もうやめて!」

 しかし佐川の声は、小塚の殺気に染まった心には届かない。

 隼人は我関せずというように、痛ましい拷問現場にずっと目をそらしていた。

 小塚が再び日比野の耳元に顔を近づける。

「今すぐさなぎになって死ぬか蒼井の情報を喋るか選べ」

 日比野は斬り落とされた自分のパーツを見つめていた。

 それを見た小塚が再び口を開く。

「まだ絶望にはほど遠かったか。お前は人体実験のスペシャリスト……自分のパーツをくっつけるぐらいわけねえってか?」

 小塚は日比野の目の前で、転がっている手足をばらばらに斬り刻んだ。

 ついに日比野の目は完全に生気を失った。

「これでお前はもう、一本足以下のさなぎ決定だ。俺は死ぬ時に足が一本でもあるのとまったくないのとでは、だいぶ違うと思うがな……五秒で決めろ!」





「……焦燥……憤怒……諦観……憎悪……」

 教会の中央に立つ蒼井が深い溜息をついた。珍しく日光が降り注いでいる。

「日比野は最後の最後まで本当に使えないやつだったな。いや、まだこれで死ぬとは限らないか。命の灯が消えなかった時は、きっと余計なことも喋っちゃうだろうけど、喋ってほしいこともちゃんと喋るだろうね。日比野徹、裏切り者には死の制裁を、なんて僕は言わないよ。寛大だからね」

 蒼井はもう一度つまらなそうに溜息をついた。

 くるりと振り返り、明るい光に目を細める。

 蒼井はステンドグラスから差し込むあたたかな斜光を全身に浴びた。気持ちよさそうに表情を緩め、ステンドグラスを見つめて微笑む。描かれているのは、二人の子供の天使が、逃げまどう市民に弓を向けている絵だった。

 蒼井の純白の長い髪は、揺れるたびに眩しく煌めいた。

 だがそれもほんのいっときのことで、すぐに光は薄くなり、やがてそのまま消えてしまった。

 教会の内部は暗くなり、外では再び雪が舞い始める。

 蒼井は先ほどよりも深く、苦悩に満ちた溜息をついた。

「やっぱり……僕は雪男なのかな……」





 泉が治療課の女性ロボットを案内してくると、奥の部屋から隼人が出てきた。

「もう本当にまずい。意識を失ってる」

 泉たちが奥の血の海となった部屋に入ると、小塚が日比野の右足に刀を突き刺したところだった。とても意識を失った人間に対する仕打ちには思えない。両腕と左足の他に、片耳もなくなっていた。小塚が怒りで我を失っているのは明らかだった。

「それじゃあ、お願い」

 泉は連れてきた女性の方を向いて言った。

「はい」

 女性はむごたらしく日比野を痛めつけようとする小塚の隣で、医療器具が詰まった大きな箱を開いて治療を始めた。

 小塚は日比野の足に刺さった刀を引き抜き、女性の頭上から今度は日比野の眼球を貫こうとした。

「小塚さん! その人が死んだらあたしたちは蒼井の情報を得られなくなります」

 小塚の動きが止まった。

 泉もさっき、自分が小塚よりも直接的に日比野を殺そうとしたことを思い出したが、もう今では、十分すぎるほどいつもの冷静な泉に戻っていた。

「個人的な復讐にとらわれてその人を殺したら、小塚さんはただの人殺しです! 佐川さんに何て言うつもりですか?」

 小塚は腕を下ろした――と思ったら、手にもっていた刀を思い切り投げ飛ばした。刀はまっすぐ飛んで隅の壁に鍔まで刺さった。

「蒼井の情報はあたしが訊き出します。小塚さんは……」

「ああ。少し頭を冷やしてくる」

 泉にみなまで言わせず、小塚は地上に向かって部屋を出ていった。

 佐川も少し遅れて戸惑いながらも小塚を追いかけた。

「どう?」

 泉が女性に訊いた。

「ここでは無理です。本部なら……」

「仕方ない。隼人さん、車出してもらえますか?」

「わかった」

 泉と隼人が日比野を運び出す。

 泉たちが地上に出た時には、周囲に小塚と佐川の姿は見つからなかった。





 本部に着いて日比野の手術が始まると、泉は一人管理室を訪れた。

 管理課のロボットたちはみな、薄暗い部屋の中で忙しそうに働いており、機械の電子音や、カチカチとキーボードを打つ音が響いている。

「さっき見せてくれた資料にあった日比野が生きていたわ」

 泉は報告でもするように待っていた捧尽に言った。

「日比野さんが?」

 捧尽が驚いたように訊いた。

 もはや人間味しか感じられない。泉は目の前の若い男が本当に何十年もここで働くロボットには見えなかった。

「かわいそうな拷問を受けたけど、日比野にさん付けする必要はないわ」

 泉は冷たく言い放った。

「しかし、どうして……日比野が?」

「事故に見せかけて孤児を誘拐し、狂魔の実験を行っていたみたい。たぶん蒼井も絡んでる。蒼井がここに第一段階の狂魔化患者として潜入してたのは、資料通りなら七年以上前だからね」

「……なるほど。して、我々に何かご指示があるのでしょう?」

「そう。孤児院跡の庭にある地下の遺体処理と、小塚さんと佐川さんの回収をお願いしたいの。地下で生きている人がいれば、抵抗するなら拘束、しなければ本部の地下の病室に隔離して狂魔化患者同様に扱って」

「承知しました。ではすぐに孤児院跡に数名を連れて向かいます」

「ありがとう。小塚君が本部に来たら、休憩室であたしが待ってるって言っておいて」

「はい」

 捧尽はすぐに管理室にいた二人の男性ロボットを連れ、泉とともにエレベーターに乗り込んだ。


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