第31話 魔法少女トゥインクルハートの秘密
「――はぁぁ、めんどくさい」
十日程経った日の夜、トゥインクルハートは、ビルの屋上にて釘バットを肩に担いでぼやいていた。
「この前も、その前も、その前の前も、ずっと出動して……そんで、また今日もかよ。いい加減にしろよな、ホント」
仕方ないでしょ?
奥園と緋井原は重傷でしばらく入院。アリスは気絶していた隙に海外に帰されちゃったんだし。
このエリアを担当する魔法少女、今は小太郎しかいないんだよ。
「いやまぁそれはわかるんだけどさ。俺、普通にアルバイトなんだから? 給料も普通のバイトに毛が生えた程度だし」
それも仕方ない。
だって正規雇用じゃなくて、アルバイトだしね。
「だからこそおかしいんだよ。確かに本音と建前は使い分けろとは言ったけど、給料面まで建前を全面に出されたんじゃたまらんぞ」
でも盟主もやるよね。
涼しい顔して、“トゥインクルハートに仕事の依頼を頼む”なんて言ってたし。
「涼しい顔じゃねえよ。笑いを堪えてプルプル震えてたじゃねえか。あの人わかってやってるからな。わかってて、安月給のまま仕事ばっか押し付けて来てるからな。とんだタヌキじゃねえか」
それこそ、トゥインクルハートについて深く追及しない代わりってことでしょ。
……ほら、小太郎。
業魔が出たよ。仕事仕事。
「へいへい。……はい、“時空間凍結”」
ブオン――と、一帯を魔力のフィールドが覆い隠した。
そしてトゥインクルハートが眼下を覗けば、灰色のゴーレムのような業魔が腕を振り回し建物を破壊していた。
「今日はゴーレムか。なんていうか、業魔も怪魔もデザインに統一感がねえよな」
前にも言ったけど、業魔は魔女から溢れ出した魔力が世界の“穢”と合わさって生まれるからね。
穢は、人々の悪しき思念、欲望――業。
だからこそ、“業魔”なんだよ。
怪魔は魔女が直接作ってるらしいからわかんないけど、似たようなものなんじゃないかな。
「ふーん。人間ってのは、何とも罪深い生き物なんだな。世界も迷惑だろうよ」
そんなこと言ってる場合じゃないよ?
業魔がこのエリアに出現しているってことは、近くに魔女がいるってことなんだからね。
氷柱なる魔女は倒した。
つまりは、別の魔女がいるってこと。
「また魔女かよ……ちょっと多すぎやしないか?」
うん、多い。多過ぎる。
魔女ってのは自由な存在だけど、こんなに狭いエリアで複数体存在するのは、極めて異例なことだと思うよ。
なんでここにこんなに集まってるのかは……うん、もしかしたら、小太郎のせいかも。
「俺かよ。なんで俺なんだよ」
氷柱なる魔女だって小太郎に興味持ってたよね?
だから小太郎には、魔女を惹きつける“何か”があるんじゃないかな。
「何かって……もしや、フェロモン?」
そんなダンディーさはキミには微塵もないよ。
それが何なのかはわからないけど……まあ、今度の魔女についても、小太郎が責任持って何とかしないといけないかもしれないね。
「なんでもかんでも俺のせいにしやがって……」
ちゅどーん!
下の建物が爆発を起こした。
「ヲオオオオオ!!」
ゴーレム型の業魔は、巻き起こる炎の中で、それを誇るように咆哮する。
――ほら小太郎。
あのゴーレム、無視されてるから怒ってるよ。寂しそうだよ。
「そんな感情豊かなゴーレムがいてたまるかよ。でもまあ、そろそろやるか」
トン――と、トゥインクルハートは屋上から飛び降りた。
そのままゴーレム目掛けて突っ込み、釘バットを構え、岩石の塊のような腕に叩き込んだ。
バキィ――ッ!
ゴーレムの腕が吹き飛ぶ中、トゥインクルハートは地面を滑るように着地して、黄金の衣装を靡かせながらゴーレムの方を振り返る。
「グ、ググググ……!」
ゴーレムの不揃いな二つの目がトゥインクルハートを捉えた。
その直後、吹き飛んだ腕はメキメキと伸び始め修復する。
「ありゃ、思ったより再生能力が高かったな。頭を狙うべきだったかも」
そんなことをトゥインクルハートが呟く中、ゴーレムの千切れた腕はメキメキと蠢き、膨張し、そこに新たなゴーレムが生まれた。
「えええ……そんなのあり?」
これは、厄介だね。
粉砕しても増殖を繰り返すなんて。
「でもまぁ、ゴーレムって言うくらいだからな。たぶん核とかコアみたいなのがどっかにあるんじゃねえの?」
なるほど。
小太郎にしては珍しく冴えてるね。
ホントに珍しく。
「褒めるのか貶すのか、どっちかにしとけ。反応に困る」
眼前に佇むゴーレムは二体となった。
その体を構成する鉱石、硬く、街の明かりを鈍く反射させる。
だが、トゥインクルハートに恐れはない。
彼女は少しだけステップを踏むと、自慢の釘バットをヌンチャクのようにブンブンと振り回した。
「向こうが凄ぇ再生能力があるなら……面白い、やってやるよ。どんだけ細かくすれば再生しなくなるのか、試してみようじゃねえか」
えええ……コアは? 核は?
それを壊すって話はどこいったのさ。
「コアだとか核だとか、粉砕すればそのうち出てくるだろうからそれでいいんだよ。こちとらストレスが溜まりまくってたんだ。業魔には悪いけど、八つ当たり、させてもらう」
そして黄金の魔法少女トゥインクルハートは、釘バットを構える。
その顔には、笑みが浮かんでいた。
なんと不謹慎なことだろう。
このまま彼女が倒れれば、業魔たちは現実世界を破壊するだろう。
でも、きっとそれは叶わない。
なぜなら山田小太郎は――トゥインクルハートの魔力は、底知れないのだから。
彼は、彼女は、魔法少女。
業魔を倒し、怪魔を倒し、魔女を救済する、魔法少女機関に所属しない謎の魔法少女。
今宵も彼女は、秘密の中で、その黄金を存分に煌めかせる。
全ての業魔を、打ち倒すために――。
「キラッキラ、してきたァ!!」
魔法少女トゥインクルハートの秘密は、まだまだ明かされることはなさそうだ。
第一部 終




