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カンタンテ公爵家に犬が来た  作者: ジュレヌク


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3/3

カンタンテ公爵家に犬が来た 後編

サナが、カンタンテ公爵家に来て、三ヶ月が経とうとしている。


訓練所での鍛錬も相まり、徐々に大きくなる体は、逞しさを前面に押し出した形だ。


太い足、太い首、キラリと輝く牙。


この頃になると、どうも様子がおかしいと公爵家のちびっ子使用人達が気付き始める。



「サナ、大きくない?」


「んー、確かに、小さいとは言えないかなぁ……」



勿論、子犬が成犬へと成長していくのだから、大きくなることは間違いない。


しかし、そのスピードが、おかしい。



「サナって、小型犬だよね?」


「うん、あんまり大きくならないって聞いてるけど……」



しかし、既に、子供達の膝の高さは越えている。



「んー、よく分からないや。まずは、毛を整えましょ」



考えるのが面倒くさくなった子供達は、手にブラシを持って、サナを取り囲む。


毛量も非常に多く、ダブルコートと言われる独特な毛並みのシュナウザーは、ブラッシングケアが欠かせない。


針金状の剛毛な上の毛は、体を守る防護壁。


硬く芯のある形状のため、通気性も悪い。


しかも下の柔らかな毛は、ブラシを掛けてやらないと毛玉になりやすく手間がかかる。


上の毛を刈ってしまうのも手だが、今のところ、サナは、ペットではなくサブリナの護衛犬でもあるためオーバーコートの硬い毛は残されていた。


小さな使用人達は、慣れた手つきでサナの身を整えてやると、一人が代表してサブリナの元へと連れて行く。


毎回ジャンケンで決まる特別な役目。


今回の担当者は、サブリナのウェディング衣装を縫ったララの妹シシーだ。


来年になれば、姉がお世話になったオートクチュールの工房に修行に行くことになっている。


あと何回サブリナに直接声を掛けてもらえるか分からないシシーにとって、今日のチャンスは得難いものだった。



「サナ様、私、緊張してきたわ」



犬が返事をするわけでもないのに、シシーは、ブツブツとサナに独り言を呟きながらサブリナの部屋へと向かう。


トコトコと横を歩くサナは、緊張しっぱなしのシシーを微笑ましく思っていた。



『ボクのママは、可愛くて綺麗で最高だから、ドキドキしても仕方ないよ~』



ずっと年下なのに年上気分のサナは、シシーをリラックスさせようと、踊るように軽やかなステップを見せてやる。



タラリラッタタラリラッタ



ご機嫌で踊っていると、突然頭の上が何かで遮られ、気付けば影の中に立っていた。



「コレは、誰の犬だ?」



声の主は、サブリナの父ミョルニール・カンタンテ公爵。


この国の宰相として辣腕を振るう彼だが、難しい国交問題を解決すべく三ヶ月もの間帰宅できていなかった。


だからこそ、屋敷に入ったその足で愛娘の住まう新居に突撃しようとしても致し方ない。


早足に進む彼の前を悠長に踊って道を塞ぐ犬の首根っこを掴むとプラ~ンと空中に吊り上げた。



「あ、あ、あ、あの、その子は、サブリナ様の……だから、か、返して!」



シシーは、パニックになったせいで、せっかく学んだ礼儀作法も全部頭の中から消えていた。


相手が貴族の中でも最上位である公爵で、自分の雇い主であることすら忘れ、サナを取り返そうとピョンピョン跳ねる。


その必死さに、ミョルニールも、慌ててサナを地面に下ろした。



「悪い、悪い。驚かせたな」



ミョルニールは、幼い子供に合わせて片膝をつき、下から見上げて眉を下げた。



「おじさんが悪かった。許してくれるかい?」



その時になって、シシーは、やっと相手がこの屋敷の長である事に気付いた。


いくらサブリナ付きとはいえ、公爵に目をつけられれば、ここを去らねばならない。



「ご、ごめんなさい。ごめんなさい。辞めさせないで」



地面に座り込みおでこを地面に擦り付けるシシーに、今度は、サナが目を丸くする。


サブリナとよく似た匂いの大男の事は嫌いではない。


しかし、いつもお世話をしてくれる娘を泣かせるやつは悪い奴だ。




「ガルルルルルルル」



サナは、咄嗟に戦闘態勢を取ろうとしたが、ミョルニールにキュッと頭を押さえつけられて動けなくなる。



「う~~~う~~」



吠えようにも、のしかかる重圧に口を開けることすらできない。



「コラコラ、それ以上暴れたら、お世話係のこの子が叱られる事になるんだ。大人しくしなさい」



未だに抵抗を試みるサナに、ミョルニールは、苦笑した。



「なんとも、気の強い奴め。なかなか見所があるな」



ミョルニールは片手でさっと抱き上げると、ジタバタするサナを小脇に抱えて歩き出した。



ギャンギャンギャンギャンギャン


ワンワンワンワンワンワンワン


ワォーンワォーンワォーンワォーン



どれだけ暴れてもビクともしない大男に、哀れな子犬は実力の差を思い知らされ、最後にはクタリと力なく手足を伸ばして服従を示す。


サナの鳴き声に驚いたサブリナが新居から飛び出してくると、久しぶりに屋敷に戻ってきた父が、満面の笑みでこちらに歩いて来ていた。



「お父様、サナを虐めないでください」


「虐めてなどいない。襲いかかられたのは、私の方だ。だから、抱えてきたぞ。ハッハッハッ」 



大きな口を更に大きく開けて腹の底から笑い、ミョルニールは高々とサナを太陽に向かって掲げた。



「コイツは、なかなか見込みがある!思わぬ大物になるかもなぁ!」



この言葉が、数年後、予言のように的中することとなる。


小型犬だと思われていたサナは、シュナウザーの中でもミニチュアではなく、スタンダードでもなく、なんと、特別大きなジャイアントシュナウザーだった。


シルベスターが絵本に描いたチワワの体高は、平均でも二十センチにも満たない。


もし、仮にサナがミニチュアシュナウザーだったとしたら、その体高は、30センチ程度。


かろうじて小型犬の部類に入っただろう。


しかし、サナの体高は70センチを超え、体重は、50キロを超えた。


何処に出しても恥ずかしくない大型犬に成長したサナは、軍用犬の中でも一二を争う体格。


こんなに大きくなってしまったら、ママ(サブリナ)に愛してもらえなくなると、ご飯を食べることを拒否することもあったサナだが、今は、違う。


華奢だったサブリナが、少しふくよかになったころ、サナだけが『ある事』に気づいたのだ。


それは、サブリナのお腹から普段と違う気配がしているということ。


サナはそーっと鼻先を付けてクンクンクンと匂いを嗅ぐ。


すると周りにいた男達が、動物的勘で何かを悟った。



「医者を呼べ!」



命令を出しつつ立ち上がったクリストファーは、サブリナを両腕で包み込む。



「どうしたの、クリス」


「ん、先ずは、医師の判断を聞いてから話すよ」


「でも……皆、なんでそんなに緊張した顔をしているの?」



不安そうなサブリナに、ミョルニールは、



「名前は考えてある」



と、一人先走ったことを言い出す。



「お義父様、流石に名付けは、親の仕事でしょう」



普段は、サブリナの唯一の肉親としてミョルニールを敬うクリストファーだが、初めての子供の名前は譲れないらしい。



「初孫命名権は、ジイジの特権だ!」


「いいや、それは、譲らん!文句があるなら、かかってこい!」



本性丸出しで義父に牙を剥く娘婿。


間に挟まったサブリナは、一人、意味が分からずキョロキョロと周りを見わす。


視界に映ったのは、普段冷静な使用人たちのトチ狂った姿。


シルベスターがムンクのように頬に手を当てて、



「ルシエル!産着と産婆を用意なさい!」



と叫んだかと思うと、




「産着は、既に縫い上がっております!乳母は、私が!」



と結婚もしていないのにルシエルが赤ん坊に乳をやる気迫を見せる。


彼女なら、想像妊娠でも母乳を出してしまいそうで怖い。


流石にここまでくると、サブリナも、自身の体に何が起こっているのか気づいたようだ。


優しい手つきで自分のお腹を撫でると、その手の甲をサナがペロリと舐めた。



『ボク、お兄ちゃんになる!』



彼なりの決意表明。


この家にやって来た天使が、ちょっとゴワゴワしたサナの毛に顔を埋めて眠るのは、また、別のお話。





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― 新着の感想 ―
面白いが過ぎるwww いつまでも読んでたいです。このシリーズ。
シュナウザー可愛いですよね。 特にあの眉?のような毛! 頭もいいし、良いお兄ちゃん役になるでしょう。 天使ちゃんはこれから何人ここに舞い降りるのかな? そして「別のお話」、もまた読めるのですよね?
この作品は、本当に最高です!!!! ずっと続きが読みたいです!!
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