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万華鏡は月を巻き戻す  作者: 舞響


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1話 転校生


あの夏の日、

私は、大切なものをひとつ失った。


夕暮れの夏祭り。

浴衣の裾を揺らしながら、りんご飴を一緒に食べて

私は“ある人”と笑い合って、

花火の音を聞きながら想いを通わせた。


胸が少しだけ高鳴って、

でも、どこか不安もあって。

どうしょうもないほど切なくて。


──私はあの日々を忘れることはないだろう。



ふわりと桜の花びらが舞い散る。

4月。

高校2年──月宮つきみや 羽瑠はる


風に揺れる髪を整えながら、

私は校門をくぐった。


今日から新学期か。

……正直、めんどくさい。


「おはよー羽瑠!」

背後から元気な声が飛んでくる。


「おはよ、みな。」


「ねえ聞いた? 今日、転校生来るんだって!」


「え、このタイミングで?」


そんな他愛ない話をしながら教室に入る。

新学期といっても、特に大きな変化はない。

ただ、みなと同じクラスになれたのは素直に嬉しい。


「おはようございます。

今日は転校生を紹介します。入って。」


担任の声に、教室のざわめきが少しだけ静まる。

そして──彼が入ってきた瞬間、空気が一変した。


七瀬朔ななせ さくです。

人生悔いなくをモットーに生きてます!

よろしくお願いします!」


茶色の髪が光を受けて揺れ、

その笑顔は、春の陽だまりみたいに明るかった。


──この出会いが、

私の未来を大きく変えることになるなんて。

そのときの私は、まだ知らなかった。


「七瀬くん、めっちゃかっこよくない!?」

みなが机に身を乗り出してくる。


「そうだねー。」

私は適当に返す。こういうときの“みな”は止まらない。


案の定、彼の周りにはもう人だかりができていた。

明るく笑う声が教室に響いて、

その中心にいるのは──転校生の七瀬朔。


(すごいな…もう人気者じゃん。)


ふと視線を感じて顔を上げると、

彼と目が合った。


一瞬だけ驚いたように目を見開き、

次の瞬間にはまっすぐこちらへ歩いてくる。


「あの!」


「……え、私?」


教室中の視線が一気に集まる。


「好きです! 付き合ってください!」


「はあっ!?」


「一目惚れしました!」


満面の笑みで言い切る朔。

教室は一瞬で騒然となった。


(こいつ……何言ってんの!?)


「いや、無理です。」


即答した私に、彼は少しもめげない。


「そっか。じゃあ友達からどうですか?」


そう言って、まっすぐ手を差し出してくる。


「え……あ、うん。」


圧に押されて返事をすると、

その手をしっかり握られた。


「よろしくね、月宮さん。」


──私、名乗ってないんだけど。


放課後授業が終わり帰るところで、


「あの、なんでついてくるんですか!?」


「友達になったから。もっと仲良くなりたくて。」


屈託なく笑う朔に、私は思わず頭を抱えたくなる。


「いや、私あなたとは初対面なんですけど。

なのにいきなり“好き”とか……意味わかんない。」


「えー、試しに付き合うのは?」


「ない!」


「そっか! じゃあやっぱり友達として仲良くなろうよ!」


「……ほんと意味わかんない。」


めげる気配ゼロの朔は、当然のように私の横を歩き続ける。


(なんなのこの人……)



「ねぇ、月宮さんのこと、羽瑠って呼んでもいい?」


「え、呼び捨て?

ってかなんで名前知ってるの?」


「エスパー!」


「……」


「そんな冷たい目で見ないでよ。

俺のことは朔って呼んで!ねえーねえー羽瑠って呼んでいい??」


彼はまっすぐな目でこちらを見ていた。

春の光を反射した茶色の瞳が、やけに明るい。


なんて押しが強いんだろう、この人。

はあ。


「好きにして。」


「やった!」


子どもみたいに無邪気に笑う朔。

その笑顔があまりにも自然で、

思わず肩の力がふっと抜けてしまう。


……変わった人。


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