表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命の彼女を追って進学したのに、振った四人が全力で潰しに来てます  作者: 銀河猿


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/40

第34話 見学に来ただけなのに、即戦力扱いされました

いつも陸上部が使っているグラウンドに着くと、既に数人が準備運動を終え、それぞれのメニューに取り組んでいた。

部長の声がかかると、部員たちが一斉に集まってくる。

「みんな、今日は見学者が来ている! 陽奈ちゃんの幼馴染、伏野志貴くんだ」

紹介を受け、僕は一礼する。

「もしかしたら入部してくれるかもしれないから、みんなよろしくな!」

『はい!』という威勢のいい返事が響く。

「まあ、見学だし気負う必要はない。いつも通りやるぞ」

部長の合図で男子と女子が分かれ始める。

「じゃあ、志貴。また後でね」

陽奈はそう言って女子の列へ離れていった。彼女の背中を見送り、僕は男子の集団へ向かう。

一年生も数人混ざっているようだ。隣に立った男子が、緊張をほぐすように話しかけてきた。

「よう。君、陸上やってたのか?」

「うん。中学二年の時までだけどね」

「そうか。俺は高校からなんだ。置いていかれないように必死だよ」

「僕も、もし入部したら……今度こそ、全力でやるつもりだよ」

そんな会話をしているうちに、僕たちの出番が来た。

今回の練習は四人一組での100メートル走り込みだ。

僕がスタートラインに立つと、周囲から値踏みするような視線と声が飛んできた。

「お手並み拝見だな」

「一年のブランクがあるって聞いたけど、大丈夫か?」

試されている。

見学とはいえ、戦力にならないような無様な姿は見せられない。陸上を辞めた後も、一人で走り込みだけは続けてきたんだ。

――一丁、やってやるか。

ホイッスルの鋭い音が鼓膜を叩く。

一斉に飛び出す四影。

僕は地面に意識を集中させ、前へ倒れ込むように踏み出した。

陸上はスタートダッシュが命だ。ここで波に乗らなければ、最高速度には到達できない。

低く、鋭く、地面を蹴り続ける。

徐々に身体が起き上がり、視界が開けた。

景色が一気に後ろへ流れ、風が身体を叩く。

短距離特有の、肺が焼けるような疾走感。

——この感覚だ。

中学の時、顧問には「スタミナがあるから長距離はどうだ」と言われたこともあった。けれど、僕は短距離にこだわった。

コンマ数秒の世界で、純粋なスピードだけがモノを言うあの残酷で美しい勝負。

その熱に浸る瞬間が、僕はたまらなく好きだった。

気づけば、僕は独走状態でゴールを駆け抜けていた。

「……ふぅ」

軽く息を整える。まだ余裕はある。

「お疲れ! はぁ、はぁ……。お前、すげぇんだな。速すぎてビビったぜ」

さっきの男子が、肩を上下させながら近づいてきた。

「ありがとう。昔、短距離を専門にしてたからかな。スピードには少し自信があるんだ」

「絶対入部しろよ。それで、俺にも走り方教えてくれ!」

「入るかはまだ決めてないけど、僕の走り方で良ければいつでも教えるよ」

そう約束を交わし、僕たちは列に戻った。

「これは……」

「ああ、ヤッベェな」

志貴が走り終えた光景を、部長と名倉は呆然と見届けていた。

「あれで一年のブランクがあるだと? 馬鹿げてるぜ……」

「流石に驚いたな。熱海の幼馴染だから期待はしていたが、アイツも大概だ。一年の遅れなんて、一瞬で取り戻しやがる」

「喉から手が出るほど欲しい戦力だが……無理やり入れようとしても、アイツの性格じゃ逆効果だろうな」

「そうだな。……あとは、熱海に任せるか」

志貴の預かり知らぬところで、陸上部全体に衝撃という名の激震が走っていた。

練習が終わり、更衣室で着替えを済ませて陽奈と合流する。

「どうだった? 今日の練習」

「いやぁ、久しぶりに全力で走ったけど、やっぱり楽しかったよ」

「本当!?」

僕の言葉に、陽奈がパッと顔を輝かせる。

「誘ってくれてありがとな、陽奈」

「それで……入るの? 陸上部」

陽奈が真剣な瞳で僕を射抜く。

「ん、それは……」

答えに窮していると、「志貴くん、お疲れ様」と部長が声をかけてきた。

「本日はありがとうございました、部長さん」

「いい走りだったよ。ここだけの話、君は間違いなく即戦力だ。いつでも歓迎するよ」

部長は満足げに頷いて去っていった。

「部長、よっぽど志貴に入ってほしいみたいね」

「そうなのかな。嬉しいけど、一応ドッジボール部も見てみたいんだよね」「ふーん……あの子たちに、会いたいんだ?」陽奈の視線が、すっと細められる。さっきまでの明るさが、嘘みたいに消えていた。

「あの子たち……? いや、純粋に競技に興味があるだけで……!」「ほんとに?」一歩、距離を詰められる。逃げ場を塞ぐような視線に、思わず言葉が詰まった。

「……ふん、どうだか!」陽奈はプイッと顔を背けて歩き出す。僕は慌てて、その後を追った。

(ふぅ、猛犬をなだめるのは、全力疾走より骨が折れるな……)

気軽に評価をしていただけたら嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ