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06:農地で宝剣を収穫します



「ねえチーノ、バルザックって本当に【神子】なの?」


「なんじゃ突然」



 ふとそんな事を思った。


 僕と一緒に受けた『天啓の日』で【轟炎闘士】となった時にも【神子】だなんて言われていないし、その後の噂でも聞いていない。

 多分、スターリッジの街に居た時には【神子】じゃなかったと思うんだ。

 仮に【神子】だったらあの調子で言いふらして、すぐに噂が広まりそうだし。



「最近になって″神託″でも受けたのではないか?」


「神様って【神子】を選ぶのに神託をするんだ」


「うむ。じゃから【神子】だと分かるのは本人だけ。もしくは全てを管理する【創造の神ティアモーゼ】様の神官だけとなるのう」



 あ、チーノもティアモーゼ様には『様付け』するんだ。

 やっぱり【創造の神ティアモーゼ】様が上位で、その下に六四柱の神様って感じなのかな。



「自分が【神子】だと大々的に公言したから有名人のつもりなのじゃろうが……隠さん事のデメリットは考えんのかのう」


「デメリット? 例の五年の間に、ってやつ?」



 闘技大会までの間に神様は【神子】を自由に選ぶ事が出来る、らしい。

 この人を選んでいたけど、やっぱこの人、と。神託し直すって事かな?


 バルザックが大会前に【神子】から外される――例えば死んだり、怪我して戦えない状態になる――可能性も考えれば公言はしない方が良いという事……なのかと思ったら、どうもそれだけじゃないらしい。



「有名になれば戦う相手にとって情報を得るのが容易くなるじゃろ? ヤツの戦いを見た事のないベッシュでさえ『【猛火の神子】は【猛火の手甲】という″神器″を持っていて、こんな体格で、多分こんな戦い方をしてくるだろう』と分かる。名を広めるのは自分の情報をばら撒いているのと同じじゃよ」



 なるほど、確かに。

 僕は冒険者としてのバルザックの戦い方なんて知らない。

 でも、おそらく『炎を使う拳闘士』みたいな感じなんだろうって予想がつく。



「じゃから神が″神託″するのはもっと大会が間近になってから、という場合が多い。もちろん″天職″を授ける時から【神子】とする場合もあるし、育てる意味で早めに″神託″する場合もあるがのう」



 ちなみに僕は″天職″で【宝剣鍛冶師】を与えられた時点で【鍛治の神子】が確定だったらしい。

 ただそれを伝えるのが″神託″ではなく『分体顕現による口伝』という異例すぎる方法だっただけだ。



「じゃあ、例えば大会前から他の【神子】に狙われるとかいう事はないんだね」


「他の【神子】がヤツを狙うとすれば『大会で戦いたくないから先に殺しておこう』というようなパターンかのう。暗殺が本分で大会だと戦いにくいとかもあるし」


「うわぁ……」



 そっか。大会だと観客の前で戦うから、戦闘手段によっては戦いにくいって事もあるのか。

 でも暗殺者の神様って……【混沌の神ケイオスアルダ】様とかだろうか。よく分からないけど。



「ヤツの場合は他の【神子】に狙われるより、同じようにドゥドンスルから″天職″を授かったヤツらから狙われそうじゃがのう」


「えっ、同じ神様から″天職″と″神器″を頂いた者同士で?」


「それでバルザックとやらが死ねば、自分が【神子】になるかもしれんじゃろ? ヤツより自分の方が強いと過信しているような者なら尚更じゃ」


「あー……」



 なるほど。バルザックが【猛火の神子】に選ばれた事に納得していない連中か。確かに居そう。

 ましてやバルザックの性格がアレ(・・)だからなぁ。

 恨みとか買いまくってるだろうし。


 まぁそうなればそうなったで「ざまぁみろ」と思うのかもしれないけど……せっかくだから大会でちゃんと対峙したいって気持ちもある。

 じゃないと僕も過去を清算出来なさそうだし。



「ともかく僕も自分が【鍛治の神子】だって言わない方が良いって事だね」


「そうじゃな」



 名を広める、名声を得る、金や地位を得る、その為に自分が【神子】だとバラすようなバルザックのような人も居るかもしれない。

 でも僕はやめておこう。

 僕の場合はデメリットの方がかなり大きそうだ。





 僕たちはガルッソ王国を出て北側にある【ノルサンデル農産国】に来た。

 “宝剣”を探しながらだから真っすぐ北上したわけじゃないけど、寄り道ばかりしたおかげで幾つかの”宝剣”を入手出来た。


 世界の東――アムステルド大陸は全体的に農業や林業、牧畜などが盛んな国が多い。

 その中でも北の玄関口となるノルサンデル農産国は、特に顕著な国策をしている。


 山から流れる大河といくつもの支流。そして圧倒的な平野の広さ。

 豊かな土壌と風土。そういったものを活かしているのだろう。


 より北側へと行けば海沿いとなり港町もある。

 しかし僕らはまだ南。山と森、そして平野といった代わり映えのしない景色だ。

 もちろん其処彼処(そこかしこ)に農地は広がっているけれど。


 そんな南側の集落の一つ、モモレス村というのが目的地。

 僕らは馬に乗ってやって来た。チーノを抱え込むように僕が手綱を持っている。



 僕は馬に乗れなかった。でもさすがに長い旅路を考えると馬に乗れておいた方が良いだろうと訓練した。

 最近は移動をもっぱら馬に頼っているおかげでだいぶ扱いに慣れてきた感もある。

 ちなみにこの馬は近くの大きめの街で借りたものだ。自分の馬を持っているわけではない。

 ただでさえ世界を巡る旅だからね。どうせ乗り換える事になるから買ってはいない。


 僕とチーノの二人だけというのも大きい。馬一頭で事足りる。

 これでチーノがもう少し大きければ二人乗りも出来ないかもしれないけど、今の所問題ない。

 僕の背嚢が大きめなのが悩みだったが、人目につかなければ浮かせて(・・・・)おけるし。



 魔物を狩った後とかによく使っているのだ。

 ″宝剣″を<宝剣操作>の<操演(オート)>で僕の近くに浮かせ、そこに荷物をぶら下げるという手法を。


 <操演(オート)>で浮かせれば、僕に重さは感じないのでいくらでも持ち運べる。

 こんな事、鍛治師として間違った剣の使い方だと思うが、何と言うかさすがに慣れた。

 鍛治の神様であるチーノでさえ納得している使い方だ。むしろ言い出したのはチーノだ。


 ともかくそんなわけである程度は荷物を気にせずに進めるという事だ。

 副産物として<操演(オート)>の<宝剣操作>が上手くなったので何よりである。



「お? こんなトコに旅人だなんて珍しいね」



 モモレス村に入るなり話しかけて来たのは、僕と同年か少し上くらいの女の子だ。

 金髪を後ろで一つにまとめた綺麗な顔立ちだが、服が農作業用のツナギ。

 喋り方も何となく男勝りな感じがする。



「兄妹二人で旅かい? 剣は持っているみたいだが、大丈夫なのか?」


「ええ、これでも冒険者なんです」


「へえ! ますます珍しいや! この村に冒険者だなんてね!」



 彼女――コレットさん――が言うにはモモレス村は辺鄙も辺鄙で、それこそ農地くらいしか取り柄がないそうだ。

 近くには森や山も見えるから、そこに訪れる冒険者だって居そうなんだけどね。

 コレットさん曰く「ここいらで採れる素材だったらどこでも採れるさ」と。わざわざモモレス村なんかに来ないらしい。



「んで、ベッシュとチーノだっけ? なんでここに?」


「旅の途中なんですけど、ちょっと向こうの畑に用事がありまして」


「向こう? そりゃあたしの畑だよ。何の用だい?」



 おお、そりゃ好都合。

 どうやらチーノによると、その畑に『光るもの』がありそうなんだよね。

 方向とだいたいの距離は分かるらしいから事前に教えてもらっていた。


 コレットさんに「畑を見せて下さい」と言うと、快く案内してくれた。

 結局何の用事なんだ、とは聞かれたけどね。まさか「そこに″宝剣″があります」とか言えないし。

 そうして連れて行かれたのは村から少し離れて広がる農場だ。



「ほう、これはすごいのう」


「広いなあ……これ、どこからどこまでコレットさんの畑なんです?」


「全部あたしのだよ」


「全部!?」



 もうこの農地だけで村が入りそうな広さだ。

 とても一人じゃ管理出来ないだろう。でもどこを見渡しても作物が綺麗に植わっているんだけど。



「あたしは″天職″と″神器″に恵まれたからね。このくらいは出来るもんだよ」


「はぁ~、農業に特化したものって事ですか」


「そうそう。【豊穣農家】ってんだけどね」


「なんか聞くだけで納得の″天職″ですね」



「それと」とツナギのポケットから神器メダルを出し、親指で真上にはじく。

「<覚醒(アウェイク)>」と唱えて、現れたのは何とも豪華な金色の(くわ)だ。

 刃の大きさも普通の鍬の二倍はありそう。



「これが【豊穣の鍬】だよ」


「はぁ~、これはすごい」


「(農業の神)ノッチローデもやるもんじゃのう」


「ノッチローデ様のおかげであたしは助かってるよ。耕すのも作付も収穫も、何でもござれってね。おまけに味まで旨くなるから有り難いもんだ」


「ほう! ではあそこの甘藷も旨くなっていると!?」


「ははっ、当たり前さ! あたしの作る甘藷は他のと一味違うぜ?」


「おおおおおお!!!」



 いかん。チーノのテンションがおかしい。

 確かにノルサンデル農産国に入ってから焼き芋が旨くなったと言っていたけど(僕には違いが分からないが)ここへ来て農業のスペシャリストの登場と、彼女が手掛けた甘藷。

 よだれを拭いて下さい神様。髪の毛先がビュンビュンいってますけど?



「あー、すいませんコレットさん。チーノは焼き芋に目がないんですよ」


「ははっ、そうかい。じゃあ今日はあたしの家に泊まりなよ。焼き芋作ってやるから」


「ふぉおおお!!! 素晴らしい!」


「チーノ落ち着いて。でもいいんですか? お邪魔しちゃって」


「この村にゃ宿も食堂もないからね。こんな顔見せられたら旨い焼き芋食わせてあげたくなるじゃないか」



 そう言いながらコレットさんはチーノの頭を撫でている。

 チーノも恍惚の表情でされるがままだ。

 神様の頭を撫でるって……不敬じゃないのか。言えないけど。


 ともかく今日はコレットさんの家に泊めてもらう事になった。

 村に宿がないとは知らなかったから正直ありがたい。


 で、それはそれとして、目的の達成しておかないと。

 ほら、チーノ、正気に戻って。

 僕の【宝剣鍛冶師】の目はすでに広い畑から『光るもの』を見つけている。

 どうやら今回は石とかじゃなくて作物らしい。



「コレットさん、あそこの人参が一本欲しいんですけど、売って頂けませんか?」


「はあ? あんたここに来た理由って人参一本買う為だったのかい!? しかもそいつはまだ育ち切ってないよ?」


「ええ、それでもこれがいいんです」


「はぁ、なんとまぁ、物好きと言うか、変わったヤツだね」



 怪しまれたけどとりあえず承諾は得た。

 料金は宿泊代に加えて大目に渡そう。


 しかし……コレットさんの前で打つ(・・)わけにはいかないよね?

 かと言って人参を引っこ抜いたら『光』が消えるとか……ちょっと不安だな。



「(チーノ、これ引き抜いて後から打って(・・・)も大丈夫?)」


「(ううむ……さすがに分からんのう。今までの作物系は収穫前に打って(・・・)いたしのう)」



 万が一、引き抜く事で『光』が消えたら、それは″宝剣″を一本失うのと同じだ。

 この人参から生まれるはずだった″宝剣″が別のどこかで『光る』のか、それとも完全に消滅するのか分からない。

 仮に前者だとしても、また探すはめになる。


 とは言え、例えば夜にコレットさんの家を抜け出して打った(・・・)として、翌朝にはこの人参が消えているわけだから「何やってんだ」という話になる。

 まぁ別にそうした追及を無視して翌朝に村を発てばいいんだけど……。



 と、そうした色々な懸念をチーノと小声で喋った結果、コレットさんには説明しちゃっていいか、となった。


 コレットさんの″天職″も″神器″も教えてもらったし、何より急に押しかけて食事と寝床まで提供してくれる。

 そしてチーノは(わだかま)りなく旨い焼き芋を食べたいと。

 最後のが一番大きいような気がしたけど、多分気のせいだろう。



「えっと、コレットさん。今からやる事、出来れば内緒にしておいて欲しいんですけど」


「ん? 何だい藪から棒に」


「ああ、警戒しないで大丈夫です。危険はないですし、危害は加えません。僕の″神器″とスキルを使うだけです」


「ベッシュの″神器″って……その腰の剣じゃないのかい?」



 これは【聖剣ダモクレス】です。とは言えないけどね。

 ともかく僕はポケットから神器メダルを出し、親指で真上にはじいた。



「<覚醒(アウェイク)>」



 そうして現れた【宝剣の槌】の柄を右手で捕まえる。



「これが僕の″神器″なんです」


「木槌……? 武器じゃないよね、それ」


「ええ。これを人参に当てると――」



 地面に植わったまだ小さい人参は、光に変わる。

 光の塊はすぐに細長く、剣の形をとって――

 僕は両手でそれ(・・)を受け止めた。


 反りの入った片刃の細い剣。刃には波のような模様がある。

 柄はジグザグに糸が編み込まれ、鍔は小ぶりながらも複雑な装飾が彫られていた。



「……何、これ? えっ、け、剣? あたしの人参が!?」



 混乱しているコレットさんを余所に、僕は<宝剣操作>で今生まれた剣の情報を読み取る。

 そうして分かった。これ(・・)はそもそも『剣』という部類じゃない。



 ――【妖刀ムラマサ】。それがこの『刀』の名前だ。




今さらですけどベッシュの名前は「弁慶」と「ギルガメッシュ」の合わせ技です。

武器収集繋がりで。

チーノは適当に、略した時にかわいい感じになればなーと。

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