07:畑を守れ! 芋の為に!
「むおおおっ! 何と言う甘露かっ! 芋の甘さが群を抜いておる! この香ばしい皮もじゃ! どっしりとした中身と合わせる事により生まれる一体感! 素晴らしいっ! これほどの焼き芋があったとは!」
「はははっ! いやぁ、そこまで喜んで貰えると嬉しいもんだね」
あれから僕らはコレットさんの家にお邪魔した。
元はご両親と住んでいたらしく、一人で暮らすには大きな家だ。部屋も余っている。
食事は自家製野菜を使ったものがメインだったが、確かに今まで食べたどの野菜より美味しい。
チーノは焼き芋しか食べてないけど、正直もったいないと思う。
野菜たっぷりのスープを飲みながら、僕の事も少し説明した。
混乱させたままだと何だか悪いし。
もちろん言えない事も多いんだけどね。【神子】の事とか″宝剣″が異界の剣である事とか。
「へ~、じゃあその『特殊な剣』を作り出す″神器″なのかい」
「そうですね。ただあの人参みたいに『特殊な剣を作り出すモト』となるのが少なくて。それで探し回ってるんです」
「なるほどね。だから二人だけでこんな辺鄙な村に来たのか。合点がいったよ」
コレットさんはどうにか納得してくれたらしい。
自分で言うのも何だけど胡散臭いからなぁ。
チーノが居る分、悪人には見えないだろうけど、怪しまれるのは間違いない。
「じゃあモモレス村を出たらまた旅へ?」
「ええ、ノルサンデル農産国を北に抜けて、港から北のラズール大陸に渡ろうかと」
「これから冬だってのに北大陸に行くのかい!? 春まで待てばいいのに」
「なるべく早くに行きたいんですよ」
すでにスターリッジの街を出てから半年以上過ぎている。
ここまで集めた″宝剣″は八本。
あと約四年半……世界をぐるっと回っても百本には届かないと思う。
闘技大会までにどこまで集められるか……とりあえずってだけでも世界一周はしておきたいと思ってるんだけど。
そうなると一つの大陸に一年くらいしか回れない計算なんだよね。
東から北、西、南の大陸に行って、大会の年に東のアムステルド大陸に戻って来ると。
スターリッジの街から北方面しか回ってないから、アムステルド大陸も南側は手付かずだし。
というわけで来年は北のラズール大陸を一年かけて横断しながら″宝剣″を探すつもりだ。
「大変な旅路だねぇ……チーノは大丈夫なのかい?」
「我ならば心配無用じゃ」
「ハハ、こう見えて僕より身体は丈夫なんですよ」
「へぇ、小さいのに偉いねぇ」
そう言ってコレットさんは頭を撫でつつ、焼き芋を差し出した。チーノがかぶりつく。
焼き芋なら無限に入るのかな? チーノの胃袋は。
神様の分体が人間と同じ構造なのかも分からないけど。
実際、僕も旅を初めて多少は身体も逞しくなったと思う。
足腰や身体つきも、本格的な冒険者の人たちほどじゃないにしろ丈夫にはなった。
でも戦闘を<宝剣操作>に頼っている分、中身は一般人と変わらないんだけど。
そんな僕とチーノを比べても、実はチーノの方が身体能力は高い。
一日中歩いても、走っても、馬に揺られても、疲れた様子を見る事はない。
本気でダッシュしたら僕は負けると思う。比べてはいないけど。
ともかく神様の分体というのは、やはり特別なのだろうと思っている。見た目はアレなのに。
コレットさんは村の外から来た人が珍しいのか、色々と話を聞いて来た。
やはりガルッソ王国の食事情が気になっていたようだが、単純に冒険者としての仕事や旅なんかについても。
閉鎖的な村社会に生きるからなのか、旅に出たい願望があるのかは分からない。
僕は泊めてもらうお礼のつもりで色々と話した。
♦
そして一晩越えた翌朝。
――ドンドンドン! 「おい! コレット!」
村の男性の怒鳴り声で目が覚めた。ようやく日が昇り始めたまだ暗い時分。
何事だと僕は眠い目を無理矢理開けて、ベッドから跳び起きた。
チーノは目を半開きにして大あくびしている。一応起きたらしい。
部屋の外から大声が聞こえる。
「どうしたんだいゲンさん!」
「森から魔物の群れが出やがった! もう少しでお前の畑に来ちまうぞ!」
「何だって!? くそっ!」
コレットさんは急いで家を出たらしい。走る足音が聞こえる。
「チーノ! 僕も行くよ!」
「うむ! 甘藷畑を守らねばならぬ! 急ぐぞ!」
動機はアレだけどとりあえず目は冴えたらしい。
僕らは昨日の畑へと走った。
街の外、コレットさんの畑に行くと、そこにはコレットさんの他に四人の男性が集まっていた。
皆が農耕具を手に持っているが、それが″神器″なのだろうか。
というか鍬や鍬で魔物と戦うつもりなのだろうか。
「ベッシュ! チーノまで!」
「あ、あんたが冒険者の……?」
「僕も戦います!」
「……すまねえ、助かる! あたいたちの村の問題なのに……」
「構いません! 状況は!?」
「あ、ああ……」
男性の一人が教えてくれた。
夜の見回りで、畑から少し離れた森の奥に、『赤く光る目』がいくつも見えたそうだ。
それは間違いなく魔物だろう。そして数も多い。
森を出て最初に襲われるのはコレットさんの畑だ。もういつ来てもおかしくない状況だと言う。
昨日の夜にコレットさんには聞いていた。
ノルサンデル農産国はただでさえ農地が広く、魔物が住む森に隣接している場所も多い。
当然被害は多いから冒険者の依頼も、そういった場所の魔物駆除が多いそうだ。
しかしモモレス村に来る冒険者はほとんど居ないと言う。
辺鄙な村だからというのもあるが、主な理由は村一番の農地を誇る畑の管理人、コレットさんだ。
聞けばコレットさんの【豊穣の鍬】は、魔物をも耕せるらしい。規格外の鍬だ。
だからこそ魔物が来てもコレットさんを中心に迎撃する程度で防げるのだと。
――普段であれば。だけど今回に限っては――
「チイッ! 魔猪か……!」
「しかも二〇……いや三〇頭はいやがる!」
「まさか上位種に率いられてんのか!?」
魔物となった猪の群れ。
普通の猪でさえ1mを越える体長で畑を荒らすと言うのに、魔猪となると2mを越える。体高も僕が少し見上げるくらいはある。
そんなのが三〇頭も襲って来れば、いくらコレットさんでも鍬一本で防げるわけがない。
やっぱりここは――
「僕が前に出ます! 皆さんは畑の防衛をお願いします!」
「一人で行くってのか、ベッシュ!」
「大丈夫! 任せて下さい!」
「お、おいっ!」
僕がEランクだと知っているコレットさんは「危ない」と止めようとしていたけど、それを振り切って前に出た。
チーノに説得を任せよう。
辺りは日の出で光が差し始めた。しかし魔物の『赤い目』はよく目立つ。
森に向かって走りながら<宝物庫>を発動。
僕の左右に二つの波紋が広がり、そこから白と黒の切っ先が顔を覗かせる。
向ける先は森だ。
「行けっ!」
<宝物庫>から飛び出た【聖剣エクスカリバー】と【魔剣ティルフィング】は弓矢のように射出され、森に潜む魔猪に突き刺さる。
断末魔のような魔猪の悲鳴が引き金となって、魔猪の群れは一斉に森から顔を出した。
二本の″宝剣″は<操演>で操ったまま周囲の魔猪に斬りかかる。
まるで見えない剣士が振っているかのように。
いちいち頭で操るわけにもいかず「近くの魔猪に斬りかかれ」と単純命令を飛ばし、その一方で考える。
この場でエクスカリバーの聖属性魔法やティルフィングの<闇ノ爆発>もどきのようなものは撃てない。
被害が増えるだけだし、他の魔物も刺激してしまう。
剣戟だけで戦うべきだ。
かと言って<操演>二本だけでは戦えないし、昨日手に入れたばかりの【妖刀ムラマサ】の能力はまだよく調べていない。
ちゃんとチーノにも見て貰ってから使うべきだ。
となれば、今使える″宝剣″は――
<宝物庫>を再度使用。
目の前に現れた波紋から出たのは″長く青白い金属の柄″。
それを手に取り引き抜けば、姿を見せたのは″長槍″だ。
異界の青白い金属で造られた、シンプルな柄と幾つもの鋭い穂先が重ねられた槍。
――【聖槍ブリューナク】
投げれば必中の投擲槍となり、おまけとばかりに氷属性の魔法まで付与されている。
しかし同時に周囲一帯を凍らせるので投げるわけにはいかない。
それよりも、この槍が持つ『使い手の魂』が今は重要だ。
エクスカリバーもティルフィングも『使い手の魂』は常軌を逸した英雄級だった。
とても人が辿り着ける境地とは思えないほどの力量。その欠片が僕の身体に映された。
一方で腰にいつも佩いている【聖剣ダモクレス】の使い手は、それこそ普通の冒険者と変わらない。
だからいつも身に付けていられるわけだが、こと魔物との戦いを考えると不足でもある。
そして【聖槍ブリューナク】。六番目に打たれたこの槍の使い手は――おそらく英雄をも超えるような存在。
エクスカリバーの時点で僕には理解出来ない強さだったが、さらに上の世界があると知らしめている。
もちろんどちらの武器が上という話じゃない。あくまで『使い手の魂』の話だ。
いずれにせよ、魔猪の群れを僕一人で止める為には、人知を超えた『使い手の魂』が必要だった。
だから僕は【聖槍ブリューナク】を<演武>で<宝剣操作>する。
「はああああっ!!!」
正面から迫る魔猪の巨体。突進を正面からくらえば例え相応の冒険者であっても重症は免れない。
しかし僕はこちらからも突貫し、手にする槍で真正面から突く。
ただそれだけですんなりと頭蓋を貫き、向かって来ていた魔猪を後方に弾き飛ばす。
僕にかかる衝撃なんてものは微塵もなく、流れるように左右の魔猪にも連続突きを食らわせた。
<操演>の二本は群れの端から前に出ようとする魔猪に向かわせる。
いくらブリューナクの魂を映しても、一人で広範囲は防げない。
だから中央を僕。左右を二本の″宝剣″でカバーする。
次々と森から出てくる魔猪が屍の山を築くまで、それほど時間は掛からない。
あと三体、そう気を緩めた所だった。
「ブフォォォォオオオ!!!」
明らかに魔猪より力強い声。それは僕の後方――畑の方から聞こえた。
正面を魔猪の群れ――配下に襲わせ、長たる自分は森の中を迂回し、背後をつく。
実際にそこまでの頭があったのかは分からない。
けれど現実に、そいつは横から畑の近くに現れた。
「ま、魔豪猪……!?」
「冗談だろ!? 森の主じゃねえか!」
男衆はそいつを見ただけで腰が引けてまともに立てない。それほどの魔物だ。
魔猪よりも二回りは大きな体躯。赤黒い針金のような体毛。下顎から伸びるのは牙という名の明らかな凶器だ。
「くそっ!」
コレットさんはただ一人、【豊穣の鍬】を構える。
無謀だ。いくら優秀な″神器″でもコレットさんが勝つ未来が見えない。
どうする!? 残った魔猪は<操演>の″宝剣″に任せる。動くのなら僕だ。
手に持つブリューナクを投げる? いや、それで倒しても近くのコレットさんに被害が出る。
じゃあ――
考え、即、実行。
再度<宝物庫>から″宝剣″を取り出す。
波紋から出るのは何かの革で巻かれた細長い柄。すぐに左手で掴んで引きずり出す。
それは″鞭″だ。
一本の柄から長く伸びる、″四本の鞭″。
<伸縮自在><絶対捕縛>の能力を持つ、七番目の″宝剣″。
――【魔鞭グレイプニル】だ。
ここまでの宝剣まとめ
1:エクスカリバー:聖剣。豪華な装飾の長剣。聖属性のビーム。
2:ティルフィング:魔剣。片手剣。真っ黒で闇属性。
3:ダモクレス:聖剣。シンプルで細いショートソード。危険察知。
6:ブリューナク:聖槍。投擲で必中。氷。
7:グレイプニル:魔鞭。伸びて絶対捕縛。<伸縮自在><絶対捕縛>
8:ムラマサ:妖刀。




