表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私立英証雌雄学園  作者: 甘味 桃
第8章:セミの音を聞く間もなく
88/95

第3節:サンマを秋刀魚と書くのって粋だよね

用が無ければ帰ってくるな。

高校入学前に、僕と奏が親に言われた言葉。用が無ければ、つまり用があれば帰ってこいという話。昨年は特にデカい出来事が無かったので、呑気に学園で生活していた。

しかし今日、1人の女性と共に帰宅する。


「荷物は・・・必要ないのですか?」


「はい。帰宅時に、わざわざ土産は必要ないと言われているので。」


窈窕専用の車で移動中、僕と佐倉さんはぎこちない時間を過ごす。

運転手がいる手前、佐倉さんは気品を保たなければならない。

かくいう僕も、パーカーを脱いでキチンと制服を着こなした状態でいる。


「さく・・・萌香さんのご両親はやはりお忙しいのですか?」


「申し訳ありません。今日には帰国できる筈が、天候の乱れで結局来られなく

なってしまいました」


これは僥倖だった。面接後、佐倉さんは内容を報告しなければならないため、会合の話は当然両親に伝えられた。しかし両親は海外での取引のため国内におらず、悪天候で飛行機が飛べないため、今日の会合は欠席となった。普通は日にちをずらすが、佐倉さんの親は「あの安心院と繋がりが持てるなら、絶対に機会を逃すな」と自分達抜きで娘を送り出す判断を下した。


うちの父と母には訳を話しているから、普段学園の外に触れる機会が無い佐倉さんにとって、今日は貴重な外の世界に触れる日となった。


「安心院様、こちらでよろしいでしょうか」


「はい。もう少し先に入り口があります」


本家の人間が居合わせれば、そのまま車での進入が許される。

その際は、隠れて警護をしている部隊が一斉に顔を出し、頭を下げて向かい入れる。


「なんて見事な統率」


「自分もお客様と家に入るのは初めてなので、少々驚いています」


目的地に着き車を降りると、僅か1年ぶりの我が家の1つが懐かしく感じる。


「行ってらっしゃいませ。萌香様」


「行って参ります」


本来ならここで待機してるが、知名度の高い安心院という事もあり、運転手は学園へと帰っていった。


「行った・・・よね?」


「大丈夫です。もう敷地内なので、不審な動きは直ぐに分かります」


「ハァ~~~~疲れた」


深呼吸を数回すると、佐倉さんは晴れ晴れとした表情を浮かべる。

解放された事への歓喜だろうか。


「にしても大きいわね!いいな~こんな家に住んでみたい」


「佐倉さんもお金持ちですし、素敵な家に住んでるのでは?」


「うちは親の菜園でいっぱいなのよ。部屋は広いけど、プライベートを楽しめる様な

家じゃないの」


「だったら、客人の心を満足させる我が家を、どうぞお楽しみください」


「ありがとう。でも先にご両親に挨拶させて。私の我が儘を聞いてもらった

お礼も言いたい」


奥ゆかしい考えを持つ佐倉さんは、やはり窈窕の生徒なのだと実感する。

いつまでも玄関前で立っているのもあれだし、早く中に案内しようと扉を開けた瞬間、我が家を疑った。


「いらっしゃいませ、佐倉 萌香様。お帰りなさいませ、香織」


上質な浴衣を纏い、美しい姿勢で迎え入れたのは、安心院と長い親交の歴史を持つ一条家分家、二 扇律さんだった。ここは安心院邸だよな。間違えて二旅館に入ったか?


「は、はじめまして。あじ・・・香織君の、お姉さんですか?」


僕を呼び捨てにした年上と思われる女性を前に、佐倉さんは扇律さんを姉と誤解する。

奏の許嫁であり刀鍛冶兼剣士である事、何故呼び捨てなのかを説明すると、空気は静まりかえる。


「窈窕の厳しさは存じております。せっかく外出されたのですし、我が二旅館の温泉で羽を伸ばしてください」


「ありがとう、ございます」


「佐倉さんは気にしないでください。この人が怒っているのは、僕になので」


「ええ。私は貴男に怒っています」


佐倉さんには優しく、僕には怒気の声音で話す扇律さんが多重人格者に見える。

この空気を変えるには、先ず何故怒っているのか聞かなくちゃいけない。


「奏をぶっ飛ばした事ですか?」


「それって、敵の催眠が原因でしょ。安心院が悪いわけじゃ」


「違います。奏様は関係ありません。香織本人に関してです」


「・・・まさか」


「もう1つの魂の事、どうして隠していたのですか」


そっちかー!確かに扇律さんにだけ話してなかった。えーっと、事件時にいなかった人で

知ってるのは、赫夜と奏の親。その時、扇律さんは・・・。


「あんた刀打って修行してたんだし、話すタイミングないじゃん」


奏は3歳の時に会ってるが、そこから扇律さんは修行に没頭したため、僕等が初めてが

会ったのは、確か小学校卒業祝いの時か。流石に事件から日が経ってるし、何より酔った

奏の才能が開花した事件でもあったため、話すタイミングは無かった。


「安心院のステータスの低さは、どう認識してたんですか?」


「本家から過酷な修行で事故が起こったと伝えられました。魔力の修行は秘匿のため、深くは追及しませんでした。しかし交流会での事件の話を聞き、幾つか腑に落ちない点があったので琴刃様に確認したところ、香織の隠し事を知りました」


「別に扇律さんに隠してた訳じゃないんですよ。何というか、聞かれなかったから話さなかったというか」


「貴男は私の弟も同然。大切な弟の苦労も知らないでいた辛さが、分からないの!」


楓や赫夜とは違う過保護感がある。奏とどうして仲が良いのか分かった気がする。

あいつは必要な時しか介入しようとしない。見守るという選択を取ってくれるから、自然と

奏を信頼し頼るようになったんだ。


「部外者ですけど見守ってみてはいかかがですか?私も普段は厳しい校則にストレスを

感じているので、安心院君が窮屈の様に見えます」


空気が一瞬和らぐ、何故か大地の香りが心が落ち着かせる。


「・・・そう、ですね。ごめんなさい香織様。貴方を想っていた筈が、管理しようと

していました」


「いえいえ。まあ、なんで怒られなくちゃいけないんだよとは思いましたけど、話さな

かった僕に責任はありますし」


佐倉さんのおかげで空気は好転した。今日、というか今一緒にいなければ、こうはならなかっただろう。


「流石は大手お茶の会社のご息女ですね。心を落ち着かせるハーブティとは

恐れいりました」


袖から袋を取り出すと、先ほど感じた大地の香りがする。


「うっそ、気づきませんでした」


「親に怒られそうな時、よく使ったの。効果は折り紙付きよ」


ふふんとドヤ顔をする佐倉さんは、徐々に頬を赤く染める。扇律さんとからかうと、3人の間に笑いが生まれる。会合前の一悶着が解決し、佐倉さんを父と母の下へと案内する。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ