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私立英証雌雄学園  作者: 甘味 桃
第7章:一別の夏
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『最終節:サイドチェストが似合う人間になりたい』


沖田先輩に旧校舎の裏側へと連れてこられ、そこには衰弱したケルベロスがいる。

息は弱く、今にも絶命してしまいそうな、虚ろな目をしている。


「それで、僕にどうしろと」


「助けて欲しいの。この子がいなかったら、薬師丸先生を連れてこられなかった。

 普通の動物じゃないし、知力の人より魔力の人の中でも、安心院君なら詳しいと思って」


「確かによく凝らせば魔力を感じますが、治療は専門外ですし。

 それこそ薬師丸先生を頼るべきじゃ」


「先生はもう学園に戻っちゃって、連れてくるにはこの子の能力がないと無理だし」


「衰弱して、あの空間能力は使えないと」


「・・・違うの。実は、私も分かっているんだけど」


“もう休ませてくれ”


頭の中に直接声が響く。もう1つの魂に何度かされたため、驚きはあまりない。

しかし、動物がこんな意思疎通を可能とする方が驚く。


「こっちの言葉は理解しているのかな」


“ああ。そこの小娘の術にやられたが、そもそも俺の命はとうに尽きている”


「そこをもうちょい詳しく」


“小娘は術で俺の主となった。そのため魔力で延命させられていたに過ぎない”


「なら、魔力をどうにか駆使すれば、生きながられるって話なんじゃ」


“生きてどうする。限りがあると分かっているから、使命を全うする気だった。

 だが、いつ死ぬか分からない状況で生きるつもりはない”


「随分人間くさいな。誰にどんな使命を与えられたんだ」


“俺を創った人間の事はよく知らない。だが、使命は単純だ。好きに暴れろ”


「なるほど。自由で良いな。羨ましいよ」


“だからもう休ませてくれ”


延命を望まず、天寿を全うしたい。僕でもそう願う。ならばこのまま、最後を見届けるべきなのかも知れない。


「そんな、嫌だよ。無理矢理従わせたのは謝るから、生きて。お願い!」


沖田先輩の言葉は、珍しい生き物を我が物にしたいとか、空間能力を利用したいとか、私欲のものではない。大切な存在を護りたい。そんな感じだ。


“お前の命令など気にしていない。むしろ、全霊を懸けて闘えた事に感謝している”


「沖田先輩。命とはいつか尽きるものです。殺されるなら分かりますが、寿命ともなれば無理に延命させず、見届ける方がよろしいかと」


“頼む。見届けてくれるなら、悔いはない”


「・・・分かった。そうね」


沖田先輩は何故か僕の袖を掴む。いやいや、恥ずい恥ずい。離してくれ。


“離れていろ。肉体はおそらく残らない。そのためどんな現象が起こるか、予想できない”


キメラと八岐大蛇も死体が突然発火し塵と成って消えたらしいい、危険を考慮して

距離を取る。沖田先輩は頑なにその場に留まろうとするのを、多少強引に移動させる。


「ありがとう!貴方がいてくれたおかげで、たくさんの人を助けられた。本当に、本当に、無力な私に力を貸してくれて、ありがとう!」


泣きながら感謝の言葉を告げ続ける沖田先輩の隣で、僕は生まれて初めて、命が終わる

瞬間を目にする。獰猛な形相のケルベロスは、気づけば優しい顔になっていた。


「僕からも、ありがとう」


ケルベロスの身体は発火し、遺体など残さないほど燃やし尽くした。

火が消えるのを確認し、沖田先輩は涙を流しながら残った灰を懸命に集める。


「やっぱり、私はこの魔法を手放した方が良いのかも。

 これまでも何回か、動物の最後を見届けたけど、いつも泣いてばかり」


「冷たい事を言いますが、その方が賢明かも知れません。才能に恵まれても、それを活かすかどうかは本人の意志ですから」


「安心院君に何が分かるの!魔力の家系に生まれて、家族から存在を否定された事なんてないでしょ。良いわよね。才能に恵まれなくても、普通の生活を送れるんだし!」


地雷を踏んだのか、沖田先輩は感情を爆発させる。気遣い疲れ、命の終わり、溜まった

ものが遂に溢れ出したのかな。いきなり呼び出されて怒鳴られるとは、とんだとばっちりだ。

あれ?また意識が遠く・・・。


「今のお主を、先の犬が見たら、どう思うかのう」


「え、誰。安心院君?髪も目も色が」


「特別じゃ。その灰を貸せ」


「何するの」


「犬の魂を降霊させる」


「どういう、キャ!」


安心院の原典である呪術を使い、灰から犬の魂を呼び出す。

儂がこうして転生した術の応用とも言える。

紫色の炎が灯り、声が頭に直接響き出す。


“驚いた。再び声を届けられるとは”


「この声。貴方なの」


「時間はそう長くはない。手短に伝えろ」


“娘よ。何を叫いている。俺はそんな弱者に負けたのではないぞ。

俺の最後を見届けたなら、代わりに現世を生きろ。目を反らすな”


「うん・・・うん。ごめんなさい。」


“謝るなら小僧にだ。では、今度こそ本当にさらばだ”


降霊に用いた触媒である灰は、跡形もなく消え失せた。小娘は涙を拭い、呼吸を整える。


「ごめんなさい、安心院君。自分の弱さを棚に上げて、貴方に八つ当たりしてた」


「人は皆、強さと弱さを兼ね備えておる。弱さを自覚したなら良し。後は、弱さとどう生きていくかが重要じゃ」


「うん。だけど驚いた。そんな忍術使えるなんて」


「秘密じゃぞ。もう儂は消える。香織にはもう一度謝れ」


「え?」


「・・・うお。また意識が飛んでた」


「元に戻ってる」


「え、まさか、あいつ出てきたんですか」


「あいつって、さっきのは誰なの」


「あ~それは秘密です」


「まさか、萌香さんに会いたいのって、今のが理由なんじゃ」


「はっはー!勘が良ろしいこって」


追及されるかと思ったが、聞くべきではないと判断したのか、沖田先輩は深掘りしないで

くれた。やはりこの人は心優しい。それ故ため込む性格なのだから、さっきのは水に流そう。


「ごめんね、安心院君。気を遣ってくれたのに、八つ当たりして」


「なんのなんの。辛い時は誰かに当たりたくなりますよ」


「ありがとう。戻ろっか」


もう1つの魂が、沖田先輩に何をしたのか分からない。けれど、先輩の顔が総合戦の時より、

遙かに凜々しい顔つきになっている。終わりよければ全てよしと思い、特に言及はしな

かった。だが、もう1つの魂が使った術は、今後僕が安心院の人間として生きていくのに

重要な存在であると、この時は知る由もなかった。



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