母娘の手紙 その二
ナタリーがエドワードとの子供を出産して四か月ほど過ぎた頃の手紙(一章 娘婿との内談の後半辺り)
親愛なる母上へ
色々と花が咲き乱れる季節になりましたが、母上はいかがお過ごしでしょうか。
レヴィ王宮の庭は今年も綺麗で、毎日見ていても飽きません。
今年はアリスと一緒なので余計に綺麗に見える気がします。
アリスの首も座り、用意して貰った乳母車で散歩をするのが日課です。
エドワード殿下は散歩中にアリスに会いに来てくれます。
アリスを抱くエドワード殿下を見ていると、家族は素晴らしいなと思います。
アナスタシアはナタリーの手紙を見て、複雑な表情を浮かべた。
シャルルの無関心を放置したのはアナスタシアなのである。ナタリーは父親がどういうものなのか、きっとわかっていない。
しかも手紙にはどこか寂しさが滲んでいる。エドワードとアリスが家族で、ナタリーは違うとでも言いたいような雰囲気。
アナスタシアはナタリーが生まれてから地下室に閉じ込められるまで、母親として惜しみなく愛情を注いだ。しかし八歳までの記憶など、その後の不憫な生活のせいで曖昧になってしまっているのかもしれない。
エドワードもまた、彼の口ぶりから幸せな家庭は知らなさそうな印象を受けた。
男女の間に恋愛感情がなくとも子供は出来る。それはアナスタシアが身をもって体験していた。
しかし、この二人は政略結婚ではあるものの、きっと夫婦として生活出来る。そう確信しているアナスタシアはペンを執った。
親愛なるナタリーへ
こちらも雪が解け、暖かい季節になりました。
きっとレヴィ王宮は素敵な庭なのだろうと、想像するだけで楽しい気分になります。
アリスが健やかに育つよう、私も毎日マリー様に祈っています。
エドワード殿下は日々お忙しいでしょうが、アリスの為に時間を割いて下さるのですね。
夫婦二人では見えなかったものが、子供を介する事で見えてくる事もあります。
是非、親子三人の時間を大切にして下さい。
それと無理をし過ぎてはいけませんよ。母親はナタリーしかいないのですから。
ナタリーは手紙を受け取って困った表情を浮かべた。
母は父のくだらない策略を知らない。だから家族三人などと言えるのだ。エドワードの命を狙っている男の娘を、どうして家族と認識できるのか。むしろアリスを大切にしてくれる、彼の心の広さに感謝しかない。
ナタリーは葛藤を心の奥に隠して、母に心配かけないような上辺だけの返信をしたためた。
【知らないふりをさせて下さい】の『王太子妃の独り言』辺りになります。
ナタリーは自分が嫁がされた計画が、アナスタシアの考えだとは知りません。
それを知っていた所で、素直にエドワードへ思いを伝える事はなかったでしょうが。




