AM8:00 和也さんの部屋~本社会長室
「ん……」
まぶ……しい?
うっすらと目を開ける。ここ……?
艶のある木目の天井。薄グリーンのカーテンから、陽が部屋に差していた。
「……っ!!」
がばっと起き上がる。枕元の目ざまし時計を見る。
え!? もう八時!?
ええええええっ!?
(わ、私、思いっきり寝坊してるっ!!)
……ふと、隣を見ると、枕に凹んだ跡。そこに……メモ? 白い紙を手に取った。
『おはよう。今日は大事な会議があるから先に行く』
――和也さんの綺麗な字。
か、和也さん、もう会社……?
(き、昨日……は……)
かああああっと頬が熱くなった。
(と、途中から覚えてないっ!!)
な、なにがどうなって……。
ベッドから降りようとしたら、身体に鈍い痛みが走った。
う……なんだか、感じが、変……。
と、とにかくシャワー浴びよう。
上掛けを身体に巻き付けたまま、私はシャワールームへと歩いていった。
*** AM9:30 本社会長室
「……緊張しとるのか、和也?」
「え?」
じーさんの声に、俺は書類から顔を上げた。
じーさんは、今日も羽織袴姿だ。
「いつもはもっと五月蠅いお前が、今日はやたらと静か、なんでな……」
いつも五月蠅い……って。なんだ、それは。
「別に……考え事をしていただけです」
……じーさんの目がきらりと光った。またこの表情か。悪だくみをしてる時の顔。
「……そうそう、楓さんにお礼をせねばならんなあ。昨日も夕御飯までご馳走になったことだし」
……楓……
じーさんが探るような目でこちらを見ている。俺は表情を変えなかった。
「……楓も疲れるでしょうから、押し掛けるのは、ほどほどにして下さい」
そう言うと、ほー、としたり顔でじーさんが言った。
「えらく態度が違うもんじゃな。昨夜は途中まできりきりして、全く余裕のない顔じゃったのに」
「……」
昨日は……
……ムーン・スター・ローズの魔法にかかってた、としか言いようが、ない。
止まらなかった。楓に……溺れた。
今朝起きたら、楓はまだ眠ったままだった。
――初めてじっくりと見た。俺の腕の中で眠る楓、を。いつも俺より先に起きてるからな……。
長い髪が白い肌に巻き付いてた。薔薇色に上気した頬。ぽてっとした唇。
……たまには、寝坊してもらうのも、いいか。
そう、思った。
「……この会議さえなければ……」
思わず、ぼそっと口からこぼれた本音をじーさんに拾われた……ようだ。
くっくっく、とじーさんが笑う。
「……余裕、じゃな。九条コンチェルンで手掛ける、初めての巨大プロジェクトじゃから、お前と言えども気負ってるかと思っておったが……」
「……まあ、それもあって、イライラしていたのかも、知れませんが」
――今は落ち着いてる。
『ずっと、傍にいます』
『私、いつだって和也さんの元に戻ってこられます』
楓……。
楓がいてくれるなら、他に怖いものなどない。
コンコン。ノックの音の後、ドアが開いた。
「……会長。会長代理。お時間です」
よっこらしょ、とじーさんが腰を上げた。
「……では、行くかの? 和也」
「はい」
俺は、書類を小脇に抱え、じーさんの後ろを歩いて行った。




