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Fly*Flying*MoonLight  作者: あかし瑞穂
MoonLight*HoneyMoon
69/88

AM5:30 薔薇園~食堂

*** AM5:30 薔薇園


 空気が澄んで、ちょっと肌寒くなってきたかなあ……。

 薔薇の花弁を摘みながら、そんな事を考えてた。

(美月さんから薔薇水もう少し欲しいって言われてたし……これで足りるかなあ……)

 籠の中を見る。今日はここまでにしておこうっと。


 ふと、おじいちゃんの部屋を見上げる。今日は窓が開いてない。

 ……和也さん、まだ寝てるのかな。


 最近、次期九条当主の仕事が増えて来て、帰ってくるのも遅いし……。

(大変なんだなあ、大財閥の当主って……)

 少しでも、ゆっくり身体を休めてもらうようにしなくっちゃ。


 そう思いながら、私は家の中に入った。地下室に薔薇の籠を置いて、食堂に向かった。


*** AM6:00 食堂


 パンも焼けてるし、サラダもOK。 

 えーっと、あとはスープを温めて……


(……え!?)

 いきなり後ろから手が伸びて来て、ぎゅっと背中越しに抱きしめられた。

「かっ、和也さんっ!?」

 和也さんが耳元で、「……おはよう」と囁いた。み、耳にあたる、息が熱い……っ!!


「お、おはよう……

 ……ございます……」

 思わず小声になる。かああっと頬が熱くなった。

「あ、あの……」

「ん?」

 んきゃ! 首筋に温かな唇の感触。せ、背筋がぞくり、とした。

「しょ、食事の支度……っ」

「……食べるなら、お前の方がいいけどな。美味しそうだ」

 絶対、私をからかってる、この人っ!!

「だ、だめっ! ちゃんと食べないと、身体がもたないでしょうがっ!!」

 身体をひねって、なんとか脱出。和也さんは、ちょっと拗ねた顔をしていた。


 ……うう、心臓に悪い……。


 まだどぎまぎしてる私を見て、和也さんがいたずらっぽく笑った。

 朝からこんなんじゃ、こっちが持たないじゃないっ!


「もう、座ってて!」

「はいはい……」


 くすくす笑いながら、和也さんが椅子に座る。ばくばくいってる心臓をなだめながら、私は食事の支度を続けた。


*** AM7:00 食堂


「「……ごちそうさま」」

 席を立って、食器を片付ける。和也さんが、手伝ってくれながら私を見た。

「今日も帰り遅くなるから、先に寝ていてくれ」

「大変なんですね……」

 はあ、と和也さんがため息をつく。

「……ったく、あのじーさんは」

 おじいさま、本格的に和也さんに仕事任せるつもりなんだなあ……。

「結婚早々、一人にして悪いな。新婚旅行もまだだし」

 私はぶんぶんと頭を振った。

「だ、大丈夫です。みんなにいろいろ気を使ってもらってて……逆に申し訳なくて」

 和也さんの瞳が、きらり、と光った……気がした。

「みんな?」

 あれ? ちょっと不機嫌になった?

「は、はい。おじいさまもちょくちょく様子見に来て下さってるし、美月さんとか、晴人(はると)さんとか……」

「晴人!?」

「はい。和也さんのまたいとこさんの」

「それは分かってる。なんで、あいつが!?」

 晴人さんとは、おじいさまの喜寿のパーティーで知り合った。和也さんと同い年って言ってた。

「和也さんが毎日遅いんじゃ、女性一人じゃ危ないだろーって、気を使ってくれて……」

「……」

「あ、晴人さんって、いいお店とかよくご存知で、いつも『限定販売だよ~』とかいう、おいしいケーキ持って来て下さって……」

「……」

「……楓」

「は……」

 言いかけた言葉が、和也さんの唇に遮られた。


 な……っ……!!


「ん……っ」


 ……長くて甘い沈黙の後で、和也さんが身体を離した。

 あ、頭真っ白……。

 火照った頬にあてられた大きな手が、ひんやりと感じた。


「……行ってくる。今日は早く帰るから」

「は……い、行ってらっしゃい……」

 和也さんは大股歩きで、食堂から出ていった。私はしばらく、ぼーっとつっ立ってた。

 ……あれ? 今日遅くなるって言ってたんじゃ……?

 まだ頭混乱してるかも……。

 ふう、とため息をついて、私は片付けの続きを再開した。

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