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Fly*Flying*MoonLight  作者: あかし瑞穂
MoonLight*HoneyMoon
70/88

AM9:30 本社会長室

「俺に仕事を押し付けて、楓に会ってたというのは、どういう了見ですか、お・じ・い・さ・ま?」

 でかい机の向こうで、じーさんがにやり、と笑った、気がした。


 ……ふう、と大げさなため息をついて、じーさんが言った。

「楓さんが一人寂しく、お前の帰りを待っているのかと思うと、胸が痛んでのう……」

 俺を帰れなくしてるのは、アンタだろうがっ!!

 しかも……

「あの晴人まで、楓の周りをうろついてるのは、どういう事ですかっ!!」

 うむ、とじーさんが呟いた。

「実はの……晴人のやつ、わしの祝いの席で、楓さんに一目ぼれしたらしいんじゃよ」

「は!?」

 何だ、それはっ!!

 九条 晴人(くじょう はると)は俺と同い年のまたいとこだが、ちゃらんぽらんな性格で有名だ。

 一応、九条グループの会社社長だが、経営は役員たち任せで、派手に遊び回って……。

(それが……楓に!?)

 もう、怒りが抑えきれなくなりそうだ。

紗江子(さえこ)から連絡があったんじゃよ」

「大叔母さんから!?」

「なんでも、楓さんが『和也さんは仕事も頑張ってて、素敵』みたいな事を晴人に言ったらしくてな……それで晴人が『楓ちゃんに認めてもらうんだ』と、生まれ変わったように、仕事に専念しだした、と」

「……」

 しみじみとじーさんが言う。

「いや~……楓さんの力はすごいのう。あの怠けものが、新プロジェクトを立ち上げて頑張っているらしいぞ。楓さんにくれぐれもお礼を言ってくれ、と紗江子も言っておった」

「……ったく、人の嫁を何だと……!!」

 じーさんが吹き出しそうな顔で言った。

「まあ、晴人も楓さんの嫌がる事はしないじゃろうし、何よりお前が黙っていない事もわかってるのじゃから、大目に見てやってはどうかの?」


 ……誰が見るか、そんなものっ!!


 俺は、どさり、と書類の束をじーさんの目の前に置いた。

「……なんじゃ、これは?」

「本日分の『あなた』の仕事です、会長。今日、俺は自分の仕事を終えたら、帰りますから」

 よよよ、とじーさんが泣き崩れるフリをした。

「こんな年寄りに重労働をさせるとは……非情な孫よのう……」

「非情でも、鬼でも結構です。とっとと仕事して下さい」

 俺は一礼して、会長室を出た。


 ……足早に廊下を歩く。

 今日は、何が何でも定時に帰ってやる。


 ……そう思いながら、仕事に精を出した。

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