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Fly*Flying*MoonLight  作者: あかし瑞穂
MoonLight*Short*Story
60/88

マリーSideのStory2

「……よろしいのですか?」

 あの人に、もう一度聞いた。

「この部屋を出たら……あなたの時間は進み始めますよ? そうしたら……」

「……あと数日しかもたない。そうだね?」

「……」

 あの人は車いすを押す私を見上げて言った。


「人の寿命は、どうすることもできない。それは神が決める事だからね。君がこの部屋に魔法をかけて、私の命がすり減っていく時を遅くするのが精一杯、だったろう?」

 黙り込んだ私の手を、あの人は優しく叩いた。

「後悔はしていないよ? あの時……暴走した楓を止められるのは、私しかいなかった。例え、私の寿命と引き換えにしたとしても……あの子の命を護るためだったら、何も惜しくはない」

「……」

「……どちらにせよ、私の身体はもう限界だ。このままこの部屋にいても、あと数ヶ月といったところだろう。ならば……」

 あの人が笑う。

「かわいい孫娘の卒業式を、この目で見ておきたいんだよ。……結婚式は見られそうにないからね」


***


「おじい……ちゃ……ん……」

 楓がぽろぽろ涙、をこぼした。白い十字架の墓標に、ムーン・スター・ローズの花束が捧げられている。

 桜の花びらが、ひらひらと舞いおりていた。私は青い空を見上げた。飛行機雲が一筋、空を割って進んでいた。


 楓が高校を卒業した三日後、あの人は眠るように息を引き取った。

 楓はずっと泣いていた。


 私は……泣かなかった。そう、約束したから。


「……おばあちゃん……」

 楓が細い声で言った。

「おばあちゃんも……行って、しまうの?」

 私は楓を抱きしめた。

「……私がここにいられたのは、あの人がいてくれたから、なの」


 魔女が一生に一度だけ使える魔法。魔力の大半を封印し、心を捧げた人と時間を共有する魔法。だから見かけ上、同じ年月を重ねる事ができた。

 でも……。


「あの人が逝ってしまった今、私の魔法は解けてしまったわ。そうしたら……」

 元の姿、に戻り始めるだろう。次第に若返っていく私が、ここにいることはできない。

「……おばあちゃん」

 楓が涙を拭いて、私を見た。

「私も、おばあちゃんと一緒に行っちゃだめなの?」

「楓……」

「私、半人前の魔女だけど、一生懸命修行するわ。おばあちゃんみたいな、立派な魔女になれるように」

「……」

 真剣な眼差し。多分、楓は魔女の村にいっても、『魔女として』ちゃんとやっていけるだろう。

 でも……。

 楓の未来を映し出した水晶玉――そこに映っていたのは……



 私は、楓の両肩に手を置いた。

「……楓。魔女として生きるっていうことはね、人としての生を捨てるってことなの」

「……」

 そう……楓が人として生きるのをやめてしまったら……

「あなたに出会うべき人の運命を変えてしまうわ。そして、あなたの運命もね」

「おばあちゃん……」

「あなたは、まだこの人の世でやるべき事があるのよ?」

「……」

 悲しそうな楓の頭をそっとなぜた。

「大丈夫よ。離れていても、いつだって水晶玉で話せるんだから」

「……そう……なの?」

「そうよ」

 私はふふっと笑った。

「いつだって、何処にいたって、私は楓を見守っているわ」

 それに……

 ――水晶玉に映った、あの、小さな男の子。

 おそらく、あの子は……。


「……あなたもいずれ出会えるはずよ? あなたの運命の相手に、ね」

 私は十字架をもう一度見た。



 ……墓標に刻まれた、あの人と私の名前。

「私は人としての生は終えるけれど、いなくなるわけじゃないのよ?」

「うん……」

 私は楓の頭をなぜなぜしながら、言った。

「……大丈夫。あなたは、なんといっても、あの人と私の自慢の孫、なんだから」

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