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Fly*Flying*MoonLight  作者: あかし瑞穂
三日後
48/88

AM8:00 病室

 ……ら、さん……。


「ん……」


 ……まぶ……しい……


 重いまぶたを開ける……白い天井?


「……内村さんっ!?」


 左の方を向く。点滴の傍に立ってるのは……


「……美月……さん……?」

 かすれ声。涙ぐんでいる美月さん、を見る。

「よかった……」


 ……美月さんの後ろ……に……


「和也……さん……?」


 パイプ椅子にぐったりともたれかかって、寝ている和也さんが、いた。

 シャツ、しわくちゃ……無精ひげも生えてる……。


「……あなた、三日も眠ったままだったのよ。覚えてる?」

「……三日……?」

「和也……もうずっと付きっきりで……」

「……」

「先生は眠ってるだけで、身体には異常ないって、おっしゃったけど……」

 ぼうっとした頭で、美月さんの言葉を聞いていた。


 私……


 何が、どうなって……?


 思い出そうとしていたら……和也さんの目が、開いた。


 少しぼうっとした和也さんの瞳が、私を捕らえた。


 がばっと和也さんが立ち上がる。


「……楓?」

「……和也、さん……」


 和也さんが美月さんの前に立つ。


 ――一瞬、和也さんの表情が歪んだ。


「この……



    ……大馬鹿野郎っ!!」


 大音響。耳がキーンとした。


「和也、ここ病院よ?」

 美月さんが、制止するのもお構いなしに、和也さんが怒鳴った。


「お前、一体何やってたっ!!」

「……な、に……って……」


 ぎらぎらする瞳に睨まれた。


「……勝手な事、するな」

「……え……」

「お前は俺のものだろうがっ!!」


 ……和也さんに突然、抱きしめられた。


「か……ず……」

「俺のもの、だから……」

 和也さんの腕に力が入る。

「勝手に、いなくなったりするなっ……!!」

 息が詰まる。

「もう……ニ度と……」

「和也……さん……?」


「俺から、離れるなっ……!!」


 ……心の底から、絞り出したような、声。

 ……和也さん……泣いて……る……?


「……和也」

 美月さんが、和也さんの肩を叩いた。

「あなた、シャワーでも浴びて来なさいよ。内村さんも、先生の診察受けないといけないし」

 しぶしぶ、といった感じで、和也さんが手を離す。じろっと私を睨む。


「……後でまた来る」

「は……い……」

 なんだか、怒られてる気分……。私は首をすくませた。


 和也さんは大股で、病室を出て行った。


 ふうっと美月さんが息を吐いた。

「内村さん。あなた、分かってる?」

「え……」

「あなたが、あの火事で行方不明になった時……あの人、半狂乱であなたの名前、呼んでたのよ」

「……」

「小さい頃、両親を火事で亡くして、煙や火を見ると身体が硬直するくせに、あなたを探しに燃えるビルに飛び込もうとしたし」

「……」

「あなたが、倒壊したビルから発見された時も……消防隊員に引き離されるまで、あなたを抱きしめて離そうとしなかったのよ? しかも全社員の前で」

「……」

 美月さんがふふっと笑った。

「これで、和也の気持ちが分からないって言うんじゃ、あなた鈍いのを通り越して、馬鹿よ馬鹿」

 ……和也さん……


 美月さんがナースコールを押す。

『……はい、どうされました?』

「……内村さんが目を覚ましました」

『わかりました、すぐに伺います』


「ねえ、内村さん。あなたの気持ちは、私には分からないけれど……」

 美月さんが、私の右手、を見た。

「あなた、眠ってる間も、ずっと右手を握りしめたまま、だったわよ」


 ……右手。そっと手のひら、を開く。


 透明な、水晶の薔薇が、そこにあった。


 薔薇を見つめる私に、美月さんが言った。

「……どちらにせよ、ちゃんとあなたの気持ち、和也に言ってあげてね?」

「は……い」

「あなたは知らないだろうけど……和也、あなたのこと、新入社員の頃から見てたのよ」

 え……?

「あの人、うちの入社試験を受ける人の履歴書、全部読んでるんだけど……」

「あなたの写真見たとたんに、『どんな理由があっても内定だせ』って」

 え!?

「じゃ……じゃあ、私って、コネ入社?だったんですか……?」

 美月さんが首を振る。

「別に和也がそう言わなくても、内定でてたわよ?」

「そう……ですか……」

 ちょっと、ほっとした。

「あなたの配属を総務部に決めたのも、和也だし」

「え?」

「総務部って、社外に出る機会も少なくて、しかも女性が多い部署でしょ?」

「……」

「まあ、あなたも事務希望だったから、ちょうど良かったんだけど」

 そ、そんな裏工作があったなんて……。

「ちっとも知りませんでした……」

「朝礼の時とか、他の部署に行く時とか、本当にあなたの事、良く見てたわ」


『社内で髪を下ろしたところを見た事が無いわけだ』


 ……確か、そう言ってた……。


 美月さんが、また笑った。

「和也には、私が言った事、内緒にしててね?」

「はい……」


「さてと……」

 んーっと、美月さんが伸びをした。

「私も、一度戻るわね。ゆっくり休んで、元気出して頂戴」

「はい……ありがとうございます」


 美月さんが軽い足取りで病室から出て行った。入れ替わりに、お医者さんと看護師さんが入ってきて、診察が始まった。

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