【09】 ボートレーサーに必要なのは『気象学』
千鶴「でもね、せっかく同じ支部に、こういう先人が居らしたのだから、今度は現役のあなたが名レーサーになって欲しいのよ」
爽香「……」
千鶴「私も以前は、そう言う夢があったけれど、もうこの年齢では無理ね。でもあなたは若いし、まだ未来があるわ。スタート勝負の選手ではなく、オールマイティな、なんでもできる選手になって欲しいな」
爽香「オールマイティか……」
千鶴「まずターン技術ね。そして、1マークでの判断力。それと、ほら、養成所でいろいろな学科を勉強したでしょう」
爽香「操縦学と整備学と気象学ですか?」
千鶴「そう、それよ。すごいじゃない、すらすら言えるなんて」
爽香「まぁ、そのぐらいなら」
千鶴「レーサーになると、みんな操縦に重点を置きがちなんだけれど、意外と忘れがちで重要なのは気象学」
爽香「えっ、そうなんですか?」
千鶴「この年齢になると、それがつくづくわかってきたの。なんで養成所で気象学が必要なのか?」
爽香「気象学ってそんなに大事なんですか?」
千鶴「例えば明日の天気、明日の天気はどうやって知るの?」
爽香「新聞やテレビで」
千鶴「そうよね。でもそれって100%当たる?」
爽香「いいえ、ハズレることもたまにあります」
千鶴「そうよね。手に職をつけるようなもので、新聞やテレビで、ボートレースに必要な情報はいっさい言ってくれないのよ」
爽香「そう言われれば、そうかも」
千鶴「『気象学』って言うと、ちょっと大げさで難しそうでピンと来ないけれど、私たちが一旦ボートに乗ったら、いろいろな物と出会うのよ」
爽香「『出会う』んですか?」
千鶴「やさしく言えば、水面、まず水と出会うでしょう」
爽香「はい」
千鶴「そのときの水の温度を知らないと戦えないわよね」
爽香「はい」
千鶴「水温が低いとなれば気温も低い。気温が低いということは、天気が悪いか、北風が強いか、レース場が北に位置しているか、例えば(ボートレース)桐生のように。それとも標高が高いか、例えば(ボートレース)三国のように。」
爽香「そうですね」
千鶴「いろいろな理由が考えられるわよね」
爽香「はい」
千鶴「水温・気温が低いとエンジンの回転は上がる? 下がる?」
爽香「上がります」
千鶴「どうして?」
爽香「寒いと空気の密度が高くなって、吸気の効率が上がるから」
千鶴「さすが、完璧ね」
爽香「養成所で習いました」
千鶴「標高が100m上がると気温は上がる? 下がる?」
爽香「下がります」
千鶴「そう、標高が100m上がると気温は0.6度ほど下がります。(ボートレース)三国は標高85mです。しかも日本海側で北風も強い。だからモーターに取り込める酸素量が増え、エンジンの回転が上がりそうですよね」
爽香「はい」
千鶴「はい、確かに冬場はエンジンの回転が上がることも多いです。でも季節よっては、標高が高いため、気圧が低くなり、モーターの出力が落ちることもあります」
爽香「意外でした」
千鶴「だから一概には、どちらとも言えません」
爽香「それだとどうしたら良いのか?」
千鶴「ひとつだけ良い方法があります」
爽香「どんな方法?」
千鶴「レース場に行ったら必ず日記を書くんです」
爽香「えっ、日記?」
千鶴「さっき出会いの話をしたでしょう」
爽香「ええ、覚えています」
千鶴「だから日記にね、今日は一面真っ青な空と出会えた。風は爽やかで心地よい。水はぬるく穏やかだった。走るのが気持ち良い。とかって勝手気ままに書くのよ。空と出会ってどうだったか、風と出会ってどうだったか、自分の感じたままに。属性や数値を気にする前に、プロペラをこのようにした、とかギヤケースをどうした、とか書けば終わりよ」
爽香「えっ、それでいいんですか?」
千鶴「もちろん、気象学的に、快晴、南南西風速4m、気温15度、水温13度、波高2cm、気圧1003hpa、降水量0mm、って書いても良いけれど、味気ないじゃない」
爽香「それだと続かないかも」
千鶴「でしょう、だから、楽しく、土手につくしが伸び、草が少し揺れていた。プロペラを少し伸び型に叩いてみた。登録番号8823の選手がイケメンだ。とかで、いいのよ」
爽香「そんなことも書いていいんですね」
千鶴「そう言う方が大事なのよ」
爽香「わかりました」
千鶴「そしてノートは24冊買ってね」
爽香「レース場別に記入するんですね」
千鶴「大当たり!」
千鶴「気象学的に、ノートに数字ばっかり書いてもレースでは参考にならないのよ。やっぱり体感が大事。『寒い』、『暑い』、『水が冷たい』『水がぬるい』、私ぐらいの年齢になると『ひざが痛い』『腰が痛い』『頭が痛い』とか、それに合わせて、ペラをたたいたり、ギヤケースを調整したり、そんなもんよ」
爽香「わかりやすくて、ためになります」
千鶴「海老名サービスエリアに着いたら、一日に一万個売れるというメロンパンを食べましょうね。持ち帰りの分もごちそうさせてもらうから」
爽香「えっ、いいんですか? それは楽しみ!」
千鶴「人生いつでも楽しくいかなくっちゃ!」
爽香「はい!」
3人のドライブは続いた。
爽香(こんないい人もいるんだ!)
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【後書き】
たくさん素晴らしい作品がある中、本編をお読みいただきありがとうございました。m(__)m
まだまだ未熟ではありますが、皆様に愛される作品となりますよう努力を重ねていく所存です。m(__)m
重ね重ね御礼申し上げます。本当にありがとうございました。m(__)m
あきらかな内容の間違い、誤字、脱字、コンプライアンス違反などありましたら、なんでも結構ですのでお申し付けくださいませ。m(__)m
【ボートレース関係者の皆様へ】
いつもボートレースを楽しませていただいております、ありがとうございます。m(__)m
ボートレーサーの皆様だけでなく、ボートレース関係者の方々、特に裏方として運営や現場そして宿舎を支えている方々には感謝の気持ちでいっぱいです。m(__)m
これからは逆に、ボートレース関係者の方々に楽しんでいただこうと思い、この作品を書き始め、そして今後も書き続けてまいります。
皆様方に少しでも恩返しが出来たら幸いです。何とぞ宜しくお願い申し上げます。m(__)m
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