【四年生・二月】 第二十六話「学級の在庫整理と週刊誌への抗議」
帰宅すると、ちゃぶ台の上にチョコレートが山積みされているので、「勝吉、どうしたそれ」と聞いた。
「学校で貰ったの。今日はバレンタインデーだったから」
そういえば、2月14日はバレンタインデーだった。
俺は10年以上貰っていないので、すっかり記憶のなかからこの行事を失念していたらしい。
脳は嫌な記憶を封印する便利な機能を持っている。
しかし、近頃の小学校でチョコレートを配ったりするとは知らなかった。
最近の子供たちは好き嫌いが激しいと聞くので、勝太郎はいらない同級生たちから回収してきたのだろう。
いわば学級内の「在庫整理」だ。
「ギブミーチョコレート」と進駐軍の周りを騒いで回った年代からしてみると、隔世の感がある。しばし父親を思い出した。
シャワーを浴びて出てきてからチョコレートを数えると12個あり、包み紙を伸ばしている勝太郎が「お父さん、半分あげる」と言って笑った。
「半分じゃ足りねえな。8個ほど貰おうか。工場の休憩室に持っていくから」
それにしても、2月14日というのは都合のいい日和だと感心せざるを得ない。
これが夏に起きるイベントだったら、冷蔵庫の無い我が家としては1日も持たずに溶かしてしまう。
4つ以外は袋に入れて作業着の近くに投げたが、ふと思い返し、1つだけ取り出して口に入れた。
甘すぎる。
勝太郎に濃い目のお茶を淹れさせ、二人で処理することにした。
熱い茶が、舌に残った不自然な甘みを洗い流していく。
坂口の婆様にもお裾分けしてこいと勝太郎に言いつけてから、俺は机の上で『週刊大衆』に送る抗議書をまとめ始めた。
「……近頃の貴誌は、捲れど捲れど女の裸かヤクザの出入りばかりではないか。これを『大衆』の娯楽と言い張る厚顔無恥。善良なる市民を愚弄するな」
週刊大衆ではなく週刊御下劣だったら、俺も成熟した大人だ。
表現の自由を侵害しようとは思わないが、「大衆」という言葉はいかん。
坂口の婆さんがもっとも憂えている用語だ。
我ながら凄い勢いで筆を走らせて、茶を飲んでいる勝太郎の視線に構わず一気に書き上げた。
翌日、工場の休憩室に持っていくと、「桜ちゃん、パチンコはしないって言ってなかったっけ?」と不思議そうな声が上がった。
「嫌ですねえ、昨日はバレンタインですよ」「でも、桜ちゃんには関係ないだろう?」
疲労回復には甘いものが一番だから、おおむね好評で、少しは俺の株も上がったようだ。勝太郎は親孝行な息子だ。




