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第五話 二人でたつスタートライン

三人称から始まります

「はぁ、どうしたものか……」


金色の髪に深い青の瞳、そして尖った耳を持つハーフエルフの女性――エリィ・アストラル・リーフは、自室でため息をつきながら呟いた。


彼女が悩んでいる理由は、今日届いた一通の手紙だった。


送り主の名はガルド・リグレット。

冒険者たちの間では『火炎のガルド』の異名で知られる、元A級冒険者だ。


エリィがガルドと出会ったのは、彼がまだ駆け出しのD級冒険者だった頃だった。


当時すでにS級として名を馳せていたエリィに、ガルドは子生意気にもこう言った。


『魔装を俺に教えろ!』


(……あの時は、本当に生意気なガキだと思ったな)


だが、生意気なだけではなかった。

根性も、剣の才能も本物だった。


それがエリィのガルドに対する印象だった。


ハーフエルフであるエリィは、人間と深く関わることを避けてきた。

親しくなった人間が、自分より先に老い、死んでいく姿を見たくなかったからだ。


だから最初は何度も断った。

しかし、ガルドは諦めなかった。


結局、その執念に負けて魔装を教えることになったのだ。


(……今度は、その息子に教えろというわけか)


エリィは手紙を見つめながら小さく息を吐いた。


内容は簡潔だった。


『五歳になる息子と、その友達に魔力の扱い方と魔装を教えてほしい。報酬はしっかり用意する』


正直、行く義務はない。


王都から西部辺境のパビブ村までは、馬車で最低でも一週間。

自由気ままに暮らしてはいるが、面倒さもある。


だが、最後に添えられていた一文を見て、エリィは苦笑した。


『こういうのはあまり好きじゃないけど……あの時の借りを返してくれよ、先生』


受けた恩は返す。

それがエリィの信条だった。


「……仕方ない。行くか」


―――――


それから一週間後。


「…………ここか」


エリィは手紙に同封されていた地図を頼りに、パビブ村外れの家へと辿り着いた。


木と石で作られた二階建ての家。

その裏手から、木剣がぶつかる乾いた音が聞こえてくる。


カッ……カッ……!


(木剣の音か)


一つ目は力強いが少し粗削り。

二つ目は脱力ができていて、かなり洗練されている。


(……面白いな)


エリィは静かに裏手へ回った。


そこでは二人の子供が木剣を打ち合わせていた。


茶色い髪の少年。

白い髪の少女。


少し離れた場所で腕を組みながら見守っているのはガルドだった。


エリィは声をかけず、木陰から二人の動きを観察する。


やがて――


「そこまで!」


ガルドの声で訓練が止まった。


アッシュとリリシィは同時に木剣を下ろし、息を整える。

額には汗が浮かび、特にアッシュは肩で大きく呼吸していた。


その時、エリィは木陰から姿を現した。


「いい戦いだった」


拍手をしながら現れたエリィに、ガルドたちは一斉に振り返る。


「え!? 先生!? 来てたのかよ!!」


ガルドが慌てて駆け寄ってくる。


「久しぶりだな、先生! 元気そうで安心したぜ!」


「お前こそ相変わらず騒がしいな」


エリィは苦笑しながら答えた。


「すまんな声をかけようとは思ったんだが、二人の戦いが面白くてな。つい見入ってしまった」


そう言うと、ガルドはニヤリと笑ってアッシュたちを振り返った。


「アッシュ、リリシィ。挨拶しろ。

この人が俺の先生で、S級冒険者――魔装の達人だ」


アッシュは少し緊張した様子で頭を下げた。


「はじめまして。アッシュ・リグレットです。よろしくお願いします」


「……リリシィ・ルミリンスです」


リリシィも小さく頭を下げる。


エリィは二人を見つめ、静かに頷いた。


「エリィ・アストラル・リーフだ。よろしく頼む」


挨拶を終えると、エリィは二人へ真っ直ぐ視線を向けた。


「ガルドから話は聞いている。

お前たちに魔力の扱い方と魔装を教えてほしい、とな」


その青い瞳が鋭さを帯びる。


「だが、私の教えは甘くない。

弱音を吐き、諦めたなら、その時点で終わりだ。それでも学ぶ覚悟はあるか?」


「はい!」


アッシュは即答した。


「……お願いします」


リリシィも静かに頷く。


エリィは満足そうに微笑んだ。


「よろしい。ではまず、魔力の扱い方から始めよう」


―――――


アッシュから見たエリィの第一印象は、“厳しそうな人”だった。


金髪を高い位置で束ねたポニーテール。

鋭い目元。

無駄のない立ち姿。


お嬢様というより、戦場を駆ける騎士のような雰囲気を纏っていた。


そして何より印象的だったのは、尖った耳だった。


人族とは違う、エルフ特有の耳。


エリィは純血のエルフではなくハーフエルフだった。


純血のエルフほどではないが、それでも人間より遥かに長寿だ。


そんなエリィに魔力を教わり始めてから、三日が経っていた。


魔力とは生命エネルギー。

生き物にも、大地にも、空気にも存在している力。


まず必要なのは、それを“感じる”ことだった。


目を閉じ、呼吸を整え、自分の内側へ意識を向ける。


すると、胸の奥に微かな熱のようなものを感じる。

それが魔力だとエリィは言った。


アッシュは何度も繰り返し練習した。


初日は何も感じなかった。

二日目で微かな温かさ。

そして三日目――ついに、はっきりと魔力を感じ取ることができた。


「ほう……三日で感じ取れるようになるとは早いな。

ガルドの息子とは思えん」


「三日でも早いんですか?」


「ああ。普通は一週間、長ければ一ヶ月かかる。

子供で三日はかなり早い方だ」


「ちなみに父さんは?」


アッシュが聞くと、エリィは静かに指を二本立てた。


「……二ヶ月だ」


「マジですか……」


それなら言われても仕方ない、とアッシュは思った。


ふと隣を見ると、リリシィが自分の掌を見つめていた。


だが、そこにはまだ魔力の光が浮かんでいない。


「……できない」


珍しく悔しそうな声だった。


「焦る必要はない。アッシュが早すぎるだけだ」


エリィは優しく言った。


すると、エリィはアッシュへ向き直る。


「さてアッシュ。お前には先に魔装を教えてやろうか」


だがアッシュは首を横に振った。


「……先生。俺、まだいいです」


「なぜだ?」


「リリシィだけ置いて先に進むのは違う気がするんです。

俺たちは相棒ですから」


その言葉に、リリシィの瞳がわずかに見開かれた。


「……アッシュ」


エリィはしばらく二人を見つめ、やがて小さく笑った。


「ふっ……いい関係だな。

なら、リリシィができるようになるまで待つとしよう」


「……ありがとう、アッシュ」


「当然だろ。相棒なんだから」


その言葉に、リリシィは小さく笑った。


「……うん!」


―――――


それから数日後。

ついに二人とも魔力を完全に感じ取れるようになった。


「では今日から、魔装を教える」


エリィは右手に魔力を集中させた。


淡い青白い光が腕を包み込み、空気がわずかに震える。


「魔装は、魔力を身体や武器に纏わせる技術だ。

ただ流すだけではない。“包み込む”ように意識しろ」


エリィの拳に光が集まり、圧力のような気配が生まれる。


「これが基本の魔装だ」


アッシュとリリシィは真剣な眼差しで見つめていた。


「まずは掌に魔力を纏わせ、それを維持する練習から始める。

三十秒維持できれば合格だ」


「「はい!」」


そこから二人の魔装訓練が始まった。


―――――


数時間後。


「よし、今日はここまでだ」


疲れ切った二人を見て、エリィは静かに頷いた。


「だいぶ形になってきたな。

だが、その前に一つ確認しておくことがある」


エリィは布袋から透明な石を取り出した。


内部で虹色の光が揺らめいている。


「これは『魔色石』。

魔力を流すことで、その者の固有属性が分かる魔道具だ」


エリィが魔力を流すと、石は鮮やかな黄色に輝いた。


「私の属性は雷だ」


次にアッシュが石を握る。


すると石は黄緑色に輝いた。


「風属性か。

流れが綺麗だ。悪くない」


(風属性……ガルドと同じ火じゃないんだな)


続いてリリシィ。


石は淡い水色へと変わった。


冷たく透き通るような光。


「……氷属性か。珍しいな」


「氷属性……夏に便利そう」


「発想が平和すぎるだろ……」


アッシュは思わずツッコんだ。


エリィは小さく笑う。


「風は速度と機動力。

氷は拘束と精密性に優れる。

これからは属性を活かす訓練も行う」


そして二人を見つめ、静かに告げた。


「お前たちは、ようやくスタートラインに立った。

ここからが本番だ」


アッシュは拳を握り締める。


風のような感覚が、掌に残っていた。


(この力で……

みんなを助ける英雄になる。

樹……見ていてくれ)


「明日から本格的に始める。

覚悟はいいな?」


「はい!」


「……はい」


こうして、アッシュとリリシィの本格的な魔装訓練が始まった。


二人の英雄への道は、まだ始まったばかりだった。

やっと次から話を進められる!!

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