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29.僕らが失ったもの、大きな欠落




「きゃぁ――――――――っ!! やだやだやだぁ!! 冗談じゃ! ないわよぉ――っ!!」

「黙っていろ! マティア! イデス殿の操船の集中力が散ったら! どうするつもりだっ!!」


 マティアさんとレウペウさんの声が交錯する!!

 なんだって、なんだって!!

 こんなことが起こる⁈


「ユハナス様っ!! 前方転移性ブラックホール!! 重力域を拡げるとともに、重力量増加っ!! いけません、このままではっ!!」

「ひっ! 引きずり込まれるわ―――――――――っ!!」


 イデスちゃんが、リジョリア・イデス号を操船しながらの悲鳴を上げて、シオンさんが、冷静に事態を見てはいるものの、ひきつった顔をしている。


「ど~! ど~!! ど~なるのお~⁉ わたしたちぃ~⁈」


 普段とても緩いルーニンさんが。最大限の動揺表現とでも言ったような声を上げた。


「くっそ!! 意味が分からない! 普段通っている宙域だぞ⁈ ここは! なんで今まで見たこともないようなブラックホールが! 突然出現するんだっ!!」


 僕も思わず嘆きの悲鳴を上げた! そうだよ! なんで突然! この宇宙において、極少しか出現例が無いと言われる、転移性ブラックホール! よりにもよってそんなものと遭遇するなんて!!


 僕の22歳の誕生日。それのお祝いが終わって。僕らの会社が営業を再開して、工事中の小惑星に向かおうとしている最中にこれは起こった事だ。


「……やめろっ!!」


 突然。ブリッジに凛然とした叱咤が飛んだ。


「やめろ!! お前たちは……! どこまで僕を付け回せば、気が済むって言うんだ!!」


 怒りの叫び。だれだ? レウペウさんの声ではない。


「闇の魔導司祭! ジルガド!! この僕がいつ、貴様などを呼んだというんだ!!」


 みんなの視線が。ニール君に……? ニール君が喋っているんだ!! この声は!


『私だけでは、ありませぬ。魔導皇ニールヘルズ陛下。お帰りを待つものは数知れず居ります。僭越かとは思いましたが……。皆の気持ちが、すでに限界に達しましたので。私がお迎えに上がった次第です』


 リジョリア・イデス号から見える、転移性ブラックホール。そこには……。宇宙空間ですらしっかりと判別できる、巨大な『顔』が浮かび上がっており。

 大気がないために音が伝わらないはずの、宇宙空間を不思議なことに音声が伝わってくる。


「やめろって言っているんだ!! それなら、僕だけを連れていけ!! この船やみんなを巻き込むなっ!!」


 お迎えに上がった……?

 この会話を聞いている限りでは。あの転移性ブラックホールは、そうか。

 宇宙物理学の本で、あんまりわからないながらも読んだことがある。

 ブラックホールは、『別の宇宙』とのゲートだという話を……。

 とすれば、ブラックホール起こしているらしきあの顔のいた宇宙から迎えに来た、という事……?


「ニール……君? どういう……こと?」


 マティアさんが。今までの頼りない感じを払拭して、力に満ちた表情をして怒りを表しているニール君に尋ねた。


「……マティアさん。いままで、いろいろ優しくしてくれて……」


 ニール君は、早々と別れを告げようとするけど。そんなこと許せるもんか!!


「ニール君! 話してくれ、事情を!! 僕らは、君が立派に成人するまで面倒を見ると! 言ったし、誓ったんだ!! 君はまだ幼い! 一人でそんな風に、全部! 何も周りを頼ろうとしないで決めちゃだめだ!!」


 僕が、そう叫ぶと。ニール君は、いつものちょっと生意気そうな甘え顔を一瞬見せて、いつものちょっとツンとした冷たい顔に切り替えた。


「ユハナスお兄ちゃん。人間にはね、自分の手に負えることと、負えない事の見分けってものが必要なんだ」

「……なにを、言っているんだい? ニール君?」

「助けてくれるって言ってくれたのは。嬉しい。すごく嬉しいんだ。でも、でもなんだ!!」


 あ、まずい! 涙が絡んだ声で、叫ぶニール君。


「僕の、魂の故郷。僕の肉体が産まれたのは、この宇宙だけど。魂は、もっと別の宇宙。話したでしょう? ユハナスお兄ちゃん……。太古に滅んだ、魔法の王国のある宇宙。そこが僕の魂の故郷。そこでは、僕の魂は重大な役割を担っているんだ……」

「何を……! 何を言っているんだ!! 君は、絵空事の物語を見すぎているんじゃないのか? 僕は怒るぞ? 大人をからかうなよ!!」

「……そうかもしれない。そうであったら、本当に良い事だよ。でも、どう説明するの? ユハナスお兄ちゃん。いま、目の前に転移性ブラックホールが現れて、そのブラックホールを産み出している、僕の魂の配下である闇魔導司祭が、僕の名前を呼ばわっていることを?」

「自作自演の悪戯だろ!! 手の込んだことするなよ!!」


 僕は、そう言ってみはしたものの。嘘をついているのは、現実として迫ってくる恐怖感や緊張感から逃げようとしているのは、僕の方だと。

 そう言う事には気が付いていた。


「……前方の、転移性ブラックホール。重力活動を停止しています……。まるで、ニール君の言葉で止まったかのようです……」


 AIの知性を持つナビゲーションドールであるイデスちゃんにも。僕が信じたくない、ニール君が言っていることの方が真実として観測されていることを、彼女は僕に伝えてくる。


 ニール君は、おかしそうに笑った。


「くす……。おかしいよね、僕ってさ。魂の記憶がある癖に、前世のこと覚えているくせに。今生で産まれたのが、こっちの宇宙だからって。こっちの宇宙で、大人になって。こっちの宇宙で結婚して。こっちの宇宙で子供を作って。こっちの宇宙で、仲のいい友達いっぱい作ってさ。そうやって生きていたいとか、願ってたんだ。バカなこと願っていたよ。やっぱり、こうして。向こうから迎えが来ちゃうんだから、さ……」


 ニール君はそう言うと。ブリッジ内を歩いて、前方に拡がっている転移性ブラックホールに向かって。

 転移した。


『ありがとう、みんな。いままで、短い間だったけど。すごく楽しかったよ。みんなは、もう一つの宇宙があるなんてことは、綺麗に忘れて。そうじゃないと厄災が降りかかるから……』


 後ろ姿を、前方の宇宙空間に浮かべて。

 ニール君は、一回だけこっちを振り向いて。

 悲しそうに涙を流して、消えた。


 それと同時に。

 今までリジョリア・イデス号を飲み込もうとしていた転移性ブラックホールもまた。


 綺麗に消えてしまったのだった。


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